「未だ消えない戦争という悪夢と「希望」」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
未だ消えない戦争という悪夢と「希望」
ベストセラー小説の実写化
タイムスリップと主人公の成長という鉄板の組み合わせは未だ健在のようだ。
さて、
主人公の加納百合 現代に生きる彼女のネガティブな感情が平和の象徴だとする概念はよかったが、現代と戦時中の日本との伏線の貼り方はまだ工夫できる余地があったのではないかと思う。
佐久間彰の手紙「百合へ」
戦時中へとタイムスリップした百合は、その場で手紙を読まない設定だが、そこの部分にもう一工夫あってよかったように思う。
例えば、鶴さんが彼らの手紙を預かる場面だけでも伏線とすることができる。
つまり現代の資料館で初めて百合がその手紙を発見するというシーンだ。
また、逃げた特攻隊員が施設で講演会をするのもあり。
お互いが誰だかわかり、二人で手紙を読みながら泣き崩れるシーンを、同級生らが見ているのもありだと思う。
また、
最初のタイムスリップは落雷が原因だと思われるが、2回目のタイムスリップでは強制送還的になっているのが気になった。
つまりSFではない。
百合が現代に戻ってくると、制服になっているのですべてが「夢」ということになってしまいそうだが、「手紙」が残ってしまっている。
この解釈は難しい。
強いて設定する場合、戦時中に百合そっくりの女性がいて、同時に雷によって魂だけが入れ替わってしまったという物語にしても面白かっただろう。
つまり二人の百合が登場する物語だ。
そして、タイムスリップする要因を視聴者に想像させることは必要なのかなと思った。
そうすると、
佐久間との出会いは現代の百合との出会いで彼女の想い出となるし、戦時中の百合が現代の加納家で現代の日本に驚きつつ未来の日本を学び、また母を慰める役割を果たす設定もありだと思う。
いろいろとやりようはあったように思えるが、作家は的を絞ったのだろう。
物語そのものは面白いが、しかしどうしても新しさに欠けているような気がする。
ただ、
それでもベストセラー作品だということを考えると、先の大戦に対する思いが未だ日本人の心の奥底に染みついて離れないのだろう。
特に若くして特攻隊として敵艦に体当たりすることがどういうことなのか、誰しもが考えさせられてしまう。
先の戦争をモチーフにして人々の反響があることは、戦争への関心度があるということだ。
その裏にあるのが二度と繰り返さないという強い意志だろう。
このような作品が作られ、反響がある間は日本はまだ大丈夫だと思う。