「タイムスリップした岩倉舞と肺病を病んでいないボン」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 大阪マフさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムスリップした岩倉舞と肺病を病んでいないボン
ライトノベルの映画化と思って期待しなかったが思っていたよりはよかった。偶然にしても「らんまん」コンビの「ゴジラ-1.0」があるので、一つ前の「舞いあがれ!」のヒロインと一つ後の「ブギウギ」のボンがサンドイッチで主役という組み合わせもあるわけだ。開戦記念日に合わせての公開が偶然にも「ブギウギ」でボンが登場の前の週に封切り。伊藤健太郎が出ているので黒島結菜がヒロインだったら「アシガール」だ。
昭和20年の陸軍飛行隊所属なのに誰も軍衣の右胸に航空胸章と空中勤務者章を着けていないし営外の食堂が主な舞台なのに公用腕章や帯剣もしていない。おまけに履いているのは航空長靴であってゲートルと軍靴ではない。営内の個所でゲートルと軍靴を履いた出演者がいたので制作陣は知っているはずだが。主な出演者がゲートルを巻いて軍靴を履くのが面倒臭かったのか?
曹長が1人いるがボンをはじめとしてみんな伍長。何故?乙幹や少飛で伍長に任官したにしても一律に伍長にする必要などあるのか?おまけにお互いに「さん」付けして呼び合っている。地方じゃあるまいに。
脱走兵が出て来るが8月ならまだしも7月なので公用腕章や帯剣を着けていない軍装ではすぐにバレて警官か憲兵隊に捕まってしまって軍法会議にかけられて死刑になりそうだ。
タイムスリップしたヒロインの服装や言動で誰も違和感を感じないのは不自然過ぎる。それでいてヒロインも昭和20年当時の生活にすぐに馴染んでいるのもどうだろう?いくら貧乏でも今の日本で高粱を誰も食べないだろう。雑穀でも米や麦にアレルギーがあるか、好んで食べるという人でないと食べる機会がないはずだ。
いっその事、タイムスリップしたヒロインの正体に気がついた誰かが未来の事を質問した上で出撃した方がよかったかもしれない。昭和20年の6月から7月の1か月が舞台だと分かるので余程の「神州不敗」の信念の持ち主でもない限りは旗色が悪い事は口には出さないまでも気がついているだろうに。
「ブギウギ」にはボンがスズ子との年齢差を「9歳」だと演者の実年齢で言うシーンがあるが福原遥も年上だ。あの顔と声なので「正直不動産」の月下咲良のような実年齢前後の役どころはなかなか来ないのだろうか。同じ研音所属で「おちょやん」のヒロイン杉咲花は福原遥とは1つ上で見た目もよく似ているが女子高生役は演じるだろうか?と思ってしまう。
B-29の空襲で街が焼けたはずなのに次のシーンでは何事もなく建物が建っている。ヒロインのピンチに都合よくボンが飛んでくる。
ブシムスが演じる食堂の女将のモデルは鳥濱トメだろう。さすが芸歴50年以上のベテランだ。
「おちょやん」のヒロインみたいな役名の出口夏希はどう見ても昭和20年当時の服装ではないヒロインを観て違和感を感じていないシーンを除くとよかった。
敵前逃亡した軍司令官とその息子のモデルは明らかに高木俊郎の「陸軍特別攻撃隊」などで酷評されている冨永恭次中将と「冨永憎けりゃ息子も憎し」と高木俊郎が知覧から遺書を持ち出したので有名な学鷲と同じ慶大出身なのに「適性もないのに父親のコネで特操に入ったドラ息子」と罵倒して「陸軍特別攻撃隊」では冨永恭次の娘の発言の中にしか出て来ないので分かりにくくなっているが特攻隊で戦死した冨永靖大尉だ。
「悠久の大義」云々で伊藤健太郎が炎上しているようだが陸軍の飛行隊には朝鮮人や台湾人が入隊していて特攻隊で戦死した人がいるのに匂わせもしない。鳥濱トメの食堂には朝鮮人の特攻隊員が通っていてアリランを歌ったのではないのか?
伊藤健太郎つながりで「アシガール」のヒロインの黒島結菜か「スカーレット」のカノ役だった松田るかを起用してヒロインを沖縄出身にしていたら、また余韻も変わるだろう。
メインキャストがゲートルを巻くのが面倒くさいならみんな長靴を履く陸軍将校にすればいいだけの話なのに原作がそうなのかは知らないけれど。ゲートルに軍靴を履いたエキストラはいる。誰もヒロインが昭和20年にタイムスリップした事にも気がつかないのもそう。服装や言動で分かりそうなものなのに。ヒロインも米や麦にアレルギーがある設定でもしないと普段から雑穀を食べているの?って思って何が悪い。こういう時代考証が甘いと「好き勝手」言いたくなるのは勝手でしょ?時代考証を一切していないひどい映画を岩波ホールで見たので、これでもまだマシな方だ。一つ聞きたいけれど陸軍には朝鮮人と台湾人が入隊して特攻隊で戦死した人がいるけれど彼らにとって「この国の未来」とはどこの国の「未来」なのか。答えてほしい。松坂慶子が演じた役のモデルがどこの誰なのかは一目瞭然なんだけど。