「1877年のクリスマス、ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリ...」エリザベート 1878 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
1877年のクリスマス、ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリ...
1877年のクリスマス、ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート(ヴィッキー・クリープス)は40歳を迎えた。
容色の衰えは自分でも自覚しているが、皇帝からは「常に、国家の象徴としての存在であるように」を言われている。
食事はほとんどとらない。
眠れない。
皇帝からの愛は受けられない。
そんなストレスは、ますますエリザベートの精神に影響を与えていく・・・
といった内容。
「エリザベート」といえば「ミュージカル」「宝塚歌劇」、というのが世間的な認識らしく、劇場内にはその方面の映画を期待した婦人たちが数多くみられましたが、こちらとしてはその手のことには疎く、挑発的なポーズをしたポスターデザインから、ミドルエイジ・クライシスか、アイデンティ・クライシスか、妙に興味がそそられたわけです。
映画は、女性のクライシスを淡々と描いた内容で、広々とした城内が妙に寒々しそうにみえるあたりも含め、リアリティをもって描かれます。
それには、主演のヴィッキー・クリープスの存在が大きいわけで、ドイツ語、ハンガリー語、フランス語、イタリア語、英語と複数の言語による台詞をしゃべり、本物かと疑うほどコルセットで締め上げて細くしたスタイルに、発明されたばかりのキネマトグラフの撮影の際のおどけぶりとか、躁鬱の傾向があったのかどうかわからないほどの、演技の振れ幅です。
美貌の点からいえば、ヴィスコンティ監督作『ルードウィヒ 神々の黄昏』のロミー・シュナイダーの方が一枚も二枚も上なのだが、自分を縛るつけるなにものかに抵抗する姿には、どちらかろいうと華やかさに乏しいヴィッキー・クリープスの方が相応しい。
華やかさに乏しいといえば、いとこのルートヴィヒとの禁断の恋模様など、恋愛事情もいくつか描かれるが、これらもまた華やかな演出はしていない。
唯一、全編を彩る現代音楽の使い方がロマンティックな雰囲気を醸し出しているが、それとて、メロディ以上に歌詞の内容が重視されている。
最終的には、1878年に暗殺されたとされるエリザベートだが、映画はそこに一捻り加えている。
ちょっと『テルマ&ルイーズ』を思い出したりもして、自身のアイデンティ・クライシスを突破したのか、自滅したのか、爽快さからはやや遠い。
ということで、期待していたとおりの内容なのだけれど、どこか物足りなく感じる。
原因がどこにあるのかはわかないのだけれど。