インスペクション ここで生きるのレビュー・感想・評価
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セーフティネットとしての軍隊
アメリカにとって軍隊とはどういう場所なのかがよくわかる作品だ。一言でいえば、軍隊は社会のセーフティネットになっていて、マイノリティや貧困に苦しむ人が生活や人生の糧を求めてやってくる。本作は監督自身の実体験をもとにしている。主人公である黒人のゲイの青年は、母親に見捨てられ10年のホームレス生活の後、海兵隊に入隊。当時の米軍は同性愛者であることを公言してはいけないというルールがあったから、主人公は自分を隠して生きねばならない。「こんな自分でも軍隊で死ねば英雄になれる」という動機で入った彼は、そこで様々なマイノリティと出会う。実社会以上にひどい差別も経験しながらも、仲間と絆を育んでいく様子が描かれる。非常にアンビバレントな体験だろう。酷い差別をしてくる連中とも苦楽をともにし、何らかの弱さを抱えていることに気づくと、絆は生まれる。分断社会を乗り越えるための、非常に貴重な実例を示した作品だと思う。
性的マイノリティはしばしば、シスジェンダーよりも貧困に陥りやすい。軍隊は差別的であるにもかかわらず、そうした人々のセーフティネットとして機能していたという矛盾は、社会の理不尽から生じていることもよくわかる作品だった。
ゲイを否定的に受け取られかねない要素を敢えて入れた誠実さ
本作については当サイトの新作映画評論のコーナーに寄稿したので、ここでは補足的なことを書いておきたい。「インスペクション」で長編監督デビューを果たしたエレガンス・ブラットンは、自らがゲイであること、同性の配偶者がいることを公言している。自身の海兵隊訓練期間の体験や母親との関係に基づくヒューマンドラマであり、差別やいじめ、しごきに屈することなくアイデンティティーを貫き、周囲の考え方を変えていく様子が描かれる。感動的であり、啓発効果もあるだろう。
だが、ブラットン監督が自ら手がけた脚本は、決して自画自賛や美談の類ではない。驚かされたのは、大半の教官や同期生が同性愛者を嫌悪する中、例外的に優しく接してくれたロザレス教官とのエピソードだ。フレンチがロザレスに対して抱いた好意は、性的な妄想や淫夢に発展。彼が妻帯者だと知りながら、ついには思い切った行動に出ようとする。
こうした“赤裸々な告白”ともとれるエピソードは、「同性愛者は同じ性的指向の相手を恋愛対象にするもの」という一般的な認識から外れ、観る人によっては否定的な感想を抱くかもしれない。それでも本作は敢えて、主人公を100%善良で優等生のゲイとして描くのではなく、理性より欲望に負けそうになる弱い部分も持った生身の人間として描写している。そこにブラットン監督の誠実さと勇気を感じる。
かつて味わったことのない視点で描かれた海兵隊ドラマ
A24の手掛ける作品群はいつも、これまで被写体となる機会のなかった人や物事に光を当てる。その光は、こうあるべき、こうでなくては、と我々をがんじがらめにする意識の鎖を取り除き、身軽にしてくれるかのようだ。その持ち味は本作でも変わらない。冒頭、主人公が地下鉄に乗り、街をゆく。たったそれだけの描写でも、彼の身にまとう赤い衣服が鮮烈に映え、都市のこれまで見せたことのなかった表情が浮かび上がる。そして彼がやがて海兵隊を志願する理由も、我々の固定観念を鮮やかに突き崩すものだった。なぜなら彼はセクシャリティを抑圧して他の兵士と均一になろうとするのではなく、むしろ厳しい訓練に耐え抜くことで胸を張って「自分らしく」生きようとしているのだから。その意志の強靭さ。思考の柔軟さ。仲間や上官との交流も味わい深い。アニマル・コレクティヴの音楽がまた素晴らしく、色とりどりの響きが主人公の生き様に祝福を与えるかのようだ。
Marine Training Video
This generation's Full Metal Jacket. It could almost be a remake, but interestingly it's an autobiographical tale from the director. Throughout the story, the character finds himself challenged by two friction points: opposition to his homosexuality at home and in uniform, and what it means to be a dedicated Marine. Beyond that there's insight into the harsh discipline needed to become a warrior.
ホームレス時代にメンタルの強さが培われたのか。
母親との関係がうまくいかず、16歳でホームレスになり、10年後に海兵隊に入隊し卒業するまでの話。しかも、フレンチはゲイでそれもあって仲間づくりにも苦労する。
人としての扱いをされないほどのつらい訓練は戦争に行くための人間形成には必要なものではあるんだろうけど。。。
軍隊より母親が一番の強敵
ゲイのため母親に捨てられた青年が海兵隊になるはなし。
アメリカで海兵隊になるって一人前になる象徴みたいなものなのね。
上官からひどい仕打ちを受けたり、同期からいじめを受けたりするが、基本耐えるのみでやり返したりしない。
実話に着想を得た物語とのことで、そういったリアリティがある一方、スカッとする展開があるわけでもなく、もやもやが残ったまま物語は終わる。
海兵隊のパートと母親とのパートの配分が物語に対してバランスがよくないような…。
結局海兵隊は手段でしかなかったわけだし、母親とのパートを掘り下げられなかったかな?
良作ですが、ちょっと中途半端に感じた。
息子がゲイで困る理由は宗教観ではなく母親自身の自己愛から
「参った」がこの映画の一言。母親(Gabrielle Union)の身勝手さと息子,フレンチ(Jeremy Pope)の成長過程についてだけ感想を書く。
母親はゲイである息子を受け入れることができず、息子は16歳から家出をしてホームレス生活をしている。上官であるロサレス(Raúl Castillo自分の性的好みで迷っている)に車の中で「ホームレスでゲイだ」だからマリーンMarine Corps に入ったと。そして、ホームレスでゲイで死んだら、何もないと。でも、マリーンに入って軍人としてサービスをして死んだのなら、「名誉」の戦死で名を残すと。これが、きっと母親に残こされるたったひとつの息子へのプライドなのだと思う。母親はかなりのクリスチャンで(映画から南のバプティスト)かと思ったが、ニュージャージー2005と冒頭にでた。調べてみないとわからないが、母親は正統のクリスチャンであるらしい。一般論だが、熱心でないと仕事から帰ってきて、(行くのかもしれない)テープ(ラジオ)で説教は聞かない。母親の仕事は制服からして守衛のようで、人生に疲れているように見受けられた。こんなふうに判断した状況で、息子を愛しているようだが、南バブディストの信者として、ゲイの息子を受け入れられないんだと思っていた。ところがどっこい。南カロライナのマリーン( Marine Corps Recruit Depot Parris Island )の卒業式の時、息子は母親に、軍人になっても「自分のアイデンティティーは変わらない」と告げる。この時の母親の態度は卒業式の家族が和気藹々とした雰囲気をぶち破った。この母親はなぜこんなに......理解に苦しんでしまって、より息子に同情した。でも最後に答えが出た。息子がゲイで困る理由は宗教観ではなく母親自身の自己愛からなのである。息子は自分を証明したくて、こんなひどいマリーン・トレーニングをうけ、母親のために自己啓発してきたが。母親は16歳で息子を産んで、自分が認められない環境に育ち、自分中心の考えから自己愛が強くなってしまってるのではないか。母親の『What about me? What about I want?』
には愕然とした。これが母親の望むこと。クリスチャンでなく自己中だ。
フレンチの成長過程だが、彼は、16歳からゲイのため、ホームレスになってしまった。シエルターで年配のホームレスに「なりたいと思えば、何にでもなれるよ」と言われる。確かに問題意識が持てれば、この悪夢のような状況から抜け出ることができるr。彼の場合は軍隊へ。マリーンでの過酷な訓練、それに、仲間との一体感、上官の愛の鞭?などこれらによって、彼が磨かれたと言ってもいいかと思う。ここはゲイでもなくホームレスでもなく差別がない場所(現実にはある。イシマイルEman Esfandiのようにモスリムでなくても)で、マリーン総力体制で国のためにサーヴィスするところ。ここで「私にもできる」という達成感が生まれたのだ。私的なら1抜けたでやめるが、フレンチには行くところがない。また、ホームレスに戻ったら悪循環なのだ。最後のシーンで部屋に入ってきた制服の人が「国のためにサービスをしてくれてありがとう」といった時、フレンチはニコッとした。全てが報われた。これからの自分があると感じたに違いない。ゲイでホームレスとして路上で死なない新しい自分を見つけ出したと思う。
最後は…
ゲイが母親にバレ、16才から勘当された息子が母親に認められようと奮闘する内容
今一番注目されている内容ではあるが、最後は…僕が同じ立場だったらオカンはどうするか 聞いてみよう
ま、ゲイには到底なれないけど🎵
生きていく手段を手に入れる
差別と偏見と嫌がらせを受けながら、自分を変えるのではなく、自分らしく生きる力を手に入れる(=死に場所を探す)ために試練を受けようとする主人公の姿が、見どころ。
ゲイだからって、その矛先(行為や執着)が、その気のない人間に向けられるのでなければいいだけの話だと思うんだが。
それを許さないのは宗教と歴史と時代によるものか?
マイノリイティは叩いていいという集団意識によるものか?
この手の「生きるのがつらかった」回顧的な内容は、重要なことは理解しているけれども、映画として多く存在しすぎて少々食傷気味ではある。
ゲイであるが故に受ける差別は、他人から受けるよりはるかに肉親から受...
ゲイであるが故に受ける差別は、他人から受けるよりはるかに肉親から受けるのが何より辛い事だと分かりました。
終盤の母親とのやりとりがあまりに酷くてそれまで観てたストーリーぶっ飛びました。
がしかし、酷い母親だと決めつけるのは他人事になってしまう。母の苦悩も理解したいです。
軍モノ強め、ゲイ感は弱め
監督の実体験に基づく映画だそうですが、
同性愛の方を、差別したり、馬鹿にしたり、傷つけたり、そんな事いたしません。
ただ、同性愛の設定が最近あまりにも多いので食傷気味…またか…と。
そんな感じで観るのが遅くなったけど、観て正解。
けっこう面白く、引き込まれて観た。
同性愛の事に限らず、いろんな事を考えさせられますね。
主人公がゲイ設定の軍モノって感じでゲイ感は弱めです。
『愛と青春の旅だち』を思い出した。
迷ってたらオススメです。
銃点検!
過去に親子に何があったのか?は、後半に行くにつれて何となく察する内容にはなっているものの。
主人公は何に拘っていて、母の譲らない頑固さは、どういう生き方から来ているのか?が、ちょっと分からなかった。
だだ自分と共通して見えたのもが、
ずっと1人で安全な居場所を求めていた事?なのかなと思った。
それを彼は海兵軍の中で見つけたんだなって、きっとはじまりに過ぎない物語なんだと思う。
コレからその仲間達と共に支え合い諦めずに自分の問題と向き合って行く未来が何となく見えた。
そして仲間達の中にもいろんな人生があってゲイとかストレートとか宗教とか白とか黒とか関係ないんだよって、
俺は受け取りました。
ゲイ要素もちょいちょい散りばめられていて笑えたりドキドキしたり、そこまで悲観的な作品でもないなって印象でした。
やっと見つけた居場所
監督自身の経験に基づく物語というが、教官や同僚たちの行動の意図が分かりづらく一貫してないので、入ってこない。特に教官。
やり過ぎちゃったのは意図的だったのか?
味方してくれる教官も最後に良いこと言うけど、だったらなんで序盤にアレをやらせたのか?
本人の体験的にはやっと見つけた居場所、ってことかと思うけど。
親子の葛藤と理解ある上官との関係が深い
観てかなり経って、そこそこ良さも不味さも味わいが思い起こされました。
要は一言でいうと人と人との関係性で、「自分はこうありたい、こういう存在だ」と一方的な主張でも駄目なんですよね。そこは自伝に近いと監督が言っておられる所以で、乗り越えられない部分でドラマにもなるものだったと思われたんですね!?
一方宣伝にある海兵隊でのしごきというか、自分の存在をかけての心の動きの描写は弱かった。理解ある上官への一方的な性衝動もありえないと思ってしまったためこの作品には辛口でしか臨めませんでした。
では
時代なのかな
107本目。
死に場所探しかと思ったけど、まあ似たような感じ。
彼が初めてではないけど、そこまで差別されながらの部分は描かれてない様に感じる。
母親とのってのもあるけど、それもそこまでって感じだし、時代が時代だから母親の行動も理解できる。
じゃあ何故この評価と思ったら、ただ戦争、ミリタリー系が好きなだけなんだと。
今週はLGBTQ関係が多めな週なのかなぁ…。
今年273本目(合計923本目/今月(2023年8月度)12本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))。
…といっても、大阪市では正規の公開日の放映扱いで、私がただ単に1週間遅れだけであった模様です。
ストーリーとしては、いわゆるLGBTQと、日本ではおよそ考えられない軍隊入隊という、ややセンシティブなお話。日本基準でいうと、一番近いのは韓国(現在でも入隊義務はある。朝鮮戦争は「休戦状態」の扱いに過ぎないため。なお、詳細後述)といったところです。
内容として、どうしても実際の出来事をベースにしているため、それを超えることはできないこと、またその前提でレーティングが決まっているため、「多少の強めの描写」もそれ前提であることまで考えると、仕方なしかな、といったところです。
たまたま私が見たのが1週間遅れで、「バービー」がフェミニズム思想ならこっちは「同性愛思想」のお話であり、こうしたお話を2つ以上見ることができた点については良かったかな、と思います。
内容に関しては、映画の趣旨的にどうしてもドキュメンタリータイプの映画で、それ以上にもそれ以下にも描くことができないという事情から、個々淡々と進む点はありますが、仕方なし、という扱いで、フルスコア扱いにしています。
なお、以下については細かい事情ですが、発展的な内容です。
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(減点なし/いわゆる「良心的兵役拒否」について)
この映画(舞台はアメリカ)にせよ、韓国にせよ(ほか、台湾、ドイツ等)、主に男性について入隊義務を定める国はいくつかありますが、「戦争にかかわるのは嫌」という考え方(宗教と結びつくのが通常だが、一般的道徳としてもおこりうる)もあり、それを「良心的兵役拒否」といい、これを認める国(相当するボランティア活動等で代替を認める)と、認めない国とがあります。
この点、映画の論点ではないので一切省略されていますが、国によっては、宗教と結びつく「良心的拒否」(積極的拒否と異なる。日本では戦中に無理やり当日(=検査日)に大量服薬等による兵役逃れが実際に存在した一方、敗戦が濃厚になると、どう考えても無理にでも「ある意味」誰にでも可能な特攻隊なるものまで存在していた等の事情がある)を認める国と認めない国があります。映画の論点ではないため一切省略されていますが、こうした論点が実は発展的事項として存在します。
※ 日本では、戦後では自衛隊ほかは入隊が任意になり(職業の一類型という扱い)、いわゆる「予備」もそもそも強制ではない等、配慮があります(この点、隣国とはいえ、現在でも制度が存続する韓国とは事情がそもそも異なる。日本ではこの論点は事実上存在しない)。
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