「医療機器のアラーム音を聞いたことがない人が映画を作ったのかなと思ってしまった」湖の女たち Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
医療機器のアラーム音を聞いたことがない人が映画を作ったのかなと思ってしまった
2024.5.23 TOHOシネマズ二条
2024年の日本映画(141分、G)
原作は吉田修一の小説『湖の女たち(新潮社)』
ある介護施設の殺人事件を巡り、事件を追う刑事と取り調べ対象の介護士との歪な関係を描いたミステリー映画
監督&脚本は大森立嗣
物語の舞台は、滋賀県高島市
西湖の湖畔に佇む介護施設「もみじ園」にて、100歳の利用者が亡くなってしまう
状況を不審に思った家族が通報し、西湖署の刑事・濱中(福士蒼汰)と伊佐美(浅野忠信)が捜査に訪れた
2人は介護士たちの話を聞き、当時の当直状況、当直者たちにフォーカスを当てていく
その日の当直者は1班として松本郁子(財前直見)と本間佐和子(呉城久美)、2班として豊田佳代(松本まりか)と二谷紀子(川面千晶)が業務にあたっていた
看護師は基本的に寝ていて、介護士が起きて番をすることになっていたが、日勤から当直業務に入った佳代は仮眠を取っていた
だが、朝方に施設外に出ていたことがわかり、そこで何をしていたのかと問われてしまう
佳代は湖に行って夜明けを見ていたと言うが、それを目撃した者は誰もいなかった
映画は、老人の担当者である松本が犯人として断定されて、違法な取り調べが行われていく様子が描かれていく
西湖署はかつてある薬害事件を起訴に持っていけなかった過去があり、これ以上事件を「迷宮入り」させたくはなかった
そこで、松本が槍玉に上がるのだが、その行動は「松本が違法な取り調べを告訴する」という状況に行き着いてしまう
それと同時に、佳代に何かを感じた濱中が執拗に迫るという展開があり、それがおかしな関係へと繋がっていくのである
本作は、かなり多くのものが詰め込まれていて、結局のところ何にフォーカスしたかったのかわからない作品になっていた
100歳の利用者殺人事件が太平洋戦争時の731部隊による人体実験と繋がっているように見えて、全く関係がなかったりするし、その取材をする池田(福地桃子)は犯人らしき人物に辿り着くものの、「これが正解」と言われても釈然としない部分は多い
それは、完全に外部から侵入が困難な施設に入り、アラームを鳴らすことなく機械を止めることが彼らにできるのかというところである
5人で向かえば目立つし、服装も目視しやすい
延命治療や介護に反対の立場だとしても、その思想に若者が陥って行動するのかも謎だと思う
なので、それっぽい仄めかしに過ぎず、真犯人に辿りつかないのに、捜査を担当する刑事は「過去に囚われてやぐされているだけ」だし、「捜査対象者と2人でボートに乗って手錠プレイ」に興じたりしている
このあたりのまとまりの無さが不思議で、久しぶりに何を観たのかわからない、という感覚を持ってしまった
いずれにせよ、何を期待しても足りない内容で、男女関係のもつれとしても中途半端な描写で終わっている
過去との因果もなく偶然で、一番陳腐に思える動機で仄めかすだけというのも無茶だと思う
ミステリーとして、どうやって老人を殺したのかというものが解明されていない以上、どこにも着地していないと考えるのが妥当なのではないだろうか