「「復活」をキーワードに、ド迫力のレースシーンでエンタメに振り切った作品。」グランツーリスモ あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
「復活」をキーワードに、ド迫力のレースシーンでエンタメに振り切った作品。
ゲームの「グランツーリスモ」はプレイしたことがない。
おそらくゲームのファン層が好きなものが全部詰まっているのだと思う。
そして、一般的な映画ファンが好きなものも全部詰まっている。
本作のレースシーンは実際に車を走らせて撮影したとのことで、非常に完成度が高い。映画館で観たら大興奮だろう。
主人公のヤンは「グランツーリスモ」オタクの青年。引きこもりではないのだが、フリーターのようなことをしながら「グランツーリスモ」ばかりやっている。父親は彼を社会復帰させたくていろいろと口出しをするのだが、ヤンの夢はカーレーサーになることだ。それを口にすると、現実を見ろと言われてしまう。
一方、英国日産のマーケティング担当ダニー・ムーアは、日本の本社でプレゼンをしていた。日産の経営を立て直すために「グランツーリスモ」で選抜したゲーマーを本物のレーサーに育てて、レースに出場させるというプランだ。その提案は認められて、夢のようなストーリーが展開していく。
ヤンはグランツーリスモオタクで、レーシングチームが日産なので、プレイステーションと日産のプロモーション映画のようになっている。本編中ずーっと、プレステと日産のロゴが映っている。以前のジャッキー映画で三菱自動車の看板が必ず映っていたが、あの比ではない。ダニエル・クレイグ版の「007」もセレブ向けの広告みたいな映画だったが、あれよりも広告量は多いと思う。
日産は2020年は大赤字で、2021年には黒字になっている。
本作がどの時期に制作が決定されたのかわからない。
いずれにせよ、ニート同然だったヤンが成長していく物語であることからわかるように、本作のテーマは「復活」だろう。
2020年はコロナ感染が広がりはじめた時期でもある。そして、コロナ禍において映画産業も大打撃を受けた。映画館もどんどんつぶれた。
そして2023年5月に、WHOがコロナの緊急事態宣言を解除。
本作は2023年8月25日にアメリカで公開。ようやく規制が解除されたタイミングで本作のような「復活」をテーマにした、映画館で観たいレースシーン満載のド迫力映画が公開された。
時代の空気を読む能力に長けた人材が製作サイドにいたのだと思う。
製作費94億円。興行収入190億円。
本作は8月11日公開予定だったが、7月に公開日を見直して、25日に延期した。7月21日から「バービー」「オッペンハイマー」が公開になるから延期したのだろう。賢明な判断だと思う。
こうして考えてみると、本作は商業ベースであらゆる方向から考え抜かれて作られ、公開された作品なのだとわかる。
rottentomatoesでは批評:65%、観客:98%。いかに娯楽に徹したかよくわかる結果になっている。
ニール・ブロムカンプ監督は「第9地区」以降あまりパッとしない印象だったが、これで盛り返したと思う。