「挑戦を走り抜けろ」グランツーリスモ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
挑戦を走り抜けろ
基は日本生まれのTVゲーム。いつもの事ながら全く知らず。
シミュレーション並みにレースを超リアルに体感出来るゲームなんだとか。レースそのものや車のみならず、性能やサーキットまで。
そんな超リアルゲームを、見る我々が本当にレースで走っているかのように体感と臨場感たっぷりに映画化…ではあるのだが、ただそれだけじゃないのが本作のミソ。
ゲームから生まれた“実話”の映画化。
レーシングゲーム『グランツーリスモ』の天才プレイヤーが、本当のレーシングドライバーに。
ゲーム上の設定のそういう話…?
じゃない。本当なのだ。本当にゲームプレイヤーがレーシングドライバーに…!
驚き。実話とはにわかに信じ難い。
誰もが思う。だって、ねぇ…。
実際とゲームは違う。
だけど、それを実現させた人物がいた。本当の話があった。
ただのゲームの映画化やレーシング映画じゃない。胸熱いサクセス・ストーリー!
見事それを実現させたのは、ヤン・マーデンボロー。
今はプロのレーシングドライバーとして華々しい記録がWikipediaに載ってるが、当初はゲームの『グランツーリスモ』に毎日のめり込む青年。ゲーマー。私はあまりこの言葉が好きじゃない。差別的に感じて…。
そんなある日、人生を変える知らせが。
『グランツーリスモ』を製作したゲーム会社“SCE”と大手自動車メーカー“日産”の主催で、ゲームプレイヤーをレーシングドライバーに育成するプログラム“GTアカデミー”の存在を知る。
その訓練を受けられるのは、ゲームの成績優秀者10名のみ。
世界中の参加者の中から、ヤンは見事10名の中に残った。
『グランツーリスモ』に熱中するヤンは、子供の頃からカーレーサーになるのが夢であった。その第一歩。
“GTアカデミー”の立ち上げ人は、日産のマーケティング担当のダニー。日本に赴いて直談判。
『グランツーリスモ』はただのゲームではなく、リアル・シミュレーション。そのスキルと訓練を積めば、本物のレーサーになれる。
マーケティング担当としての考えもあったろうが、熱弁振るい、途方もない事を立ち上げた彼もまた、夢追い人。
そして遂にスタートしたGTアカデミー訓練。
ここからが大変なのだ。
ヤン始め候補生10名は、ゲームでレーサー並みにコースやレースを走っている。ある程度のスキルや知識はある。
でもやはりそれは、ゲームの中の話。実際は違う。
身体に掛かるG、ハンドルの重さ、体力作り…。今注目されているeスポーツもアスリート並みに身体を鍛えるという。
何より危険とアクシデント。ゲームでは失敗したらリセットすればいいが、実際は…。最悪、死を意味する。これからは、ゲームじゃないんだ。
彼らを鍛えるチーフ・エンジニア、つまり“鬼教官”に選ばれたのは、元レーサーのジャック。
端から見下し、貶し。『セッション』並みに言葉と教えで、しごく、しごく。ゲーマーのガキどもが、本物のレースを舐めるんじゃねぇ!
10人があっという間に半分に。ヤンはまだ残っている。
だが、ここぞという時にビビり、インタビューの受け答えもヘタなヤンを、ジャックもダニーも期待していなかった。
ある時の訓練レースで、ブレーキを踏んだ踏んでいないでジャックと対立。どうせまたビビったんだろう? いや、ブレーキが効かなかったんだ。
ヤンが正しかった。
ここから周囲の目が変わり、ヤンもじわじわ才を伸ばし、遂には有能ライバルとのレースで競い勝つ。
優勝を果たし、本物のレーサーになれる権利を手に入れた。
だが、大変なのはまだまだこれからだった。
本物のレーサーと交じって、本物のレーシングカーに乗って、本物のレースをする。
このイレギュラーに対する周囲の偏見、嫌悪、敵意剥き出し。周りは皆、敵。チームの技術メンバーでさえ邪険に。
徐々に才能を認めてくれたジャックやダニーはいるが、ヤンたった一人で挑むようなもの。
まずはライセンス獲得の為、幾つかの国際レースに出場し、4位までに入る。
初レース。走りは上々でいきなり4位入賞出来ると思われたが、他ドライバーの汚い手によって最下位に。
周囲はせせら笑う。それ見ろ。
その後のレースも振るわぬ順位が続くが、徐々に向上していき、遂に4位入賞! ライセンスを獲得した。
日産との正式契約の為、ヤンは日本へ。
ヤンにとって日本=東京は、いつか一番行きたかった地。聖地。日本人として何だか嬉しい。
そこで彼は、『グランツーリスモ』の生みの親、ゲームクリエイターの山内一典氏とも対面する。(演じたのは平岳大だが、ご本人も寿司職人役でカメオ出演。またヤン本人もカースタントに参加)
念願の東京観光。一人ではなく、片思いのオードリーを招待して。
夢だったカーレーサーのライセンスを獲得し、憧れの地で、想いを抱く人と。
映画を見続けていると、薄々察する。この後“何か”が待ち受けていると…。
あるレースで、事故…。
非常に難しいコースで、向かい風も受け、ヤンでなくとも誰だってどうする事も出来なかった。
ヤンはすぐさま病院に運ばれ、命に別状はなかったが、あの事故で観客が死んだ。
皆が慰める。君が悪いんじゃない。どうしようもない事故だったんだ。
が、ヤンは自分を責める。自分が殺した。自分のせい。カーレーサーになろうとしたのが間違い。父の言う通りにしておけば…。
法的罪は免れた。事故だと認定された。
が、何もお咎めナシにはならない。多くのレーサーやカーレース自体から批判の的。
スポンサー離れ。日産もGTアカデミーの存続に疑問を…。
真剣勝負の世界では仕方のない事かもしれないが、イレギュラーがした事に対しての一際不条理なバッシングに感じた。プロのカーレーサーだったら勿論一部批判もあるだろうが、ここまで言われるだろうか…? 勘違いしちゃいけない。ヤンもライセンスを獲得したプロのレーサーなのだ。
現状を覆す方法は、たった一つ。実績を出す事。挑むレースは…
“栄光のル・マン”。
カーレースに疎い私も知っている24時間耐久レース。
が、ヤンは…。
そんな彼を支えたのは…。
ゲーマーからプロのカーレーサーへ。
一人の若者の成長物語。
序盤、唯一の取り柄はゲームの腕前のみくらい。そんな彼が自信を付け、期待のルーキー、レーサーとしての顔に。
実話基だから殊更胸がすく。
アーチー・マデクウィがフレッシュに好演。
『ロード・オブ・ザ・リング』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』はもう20年前。イケメンで人気爆発したオーランド・ブルームもいい感じで歳を重ねた。
でも抜群の存在感を魅せるのは、デヴィッド・ハーパー。
彼演じるジャックは、当初はGTアカデミー批判側。ダニーから依頼されたからただやってるだけのようなもの。ヤンたちの事も侮辱する。が、ヤンが才能を開花させ、認めていくようになる。いつしかそれは、自身が諦めた夢をヤンに託すようになる。ヤンをしごき、鼓舞し、支え…。事故の後塞ぎ込むヤンに自身の過去を語り、再びヤンを奮わせる。ヤンもある時、自分を鍛え導いてくれたジャックに恩返しのプレゼント。ジ~ンとしたなぁ…。
ヤンのサクセス・ストーリーも熱いが、二人の師弟関係も熱い。
さらに本作は、家族のドラマでもある。
常々、ヤンの胸にあるもの。
家族。特に、父の存在。
父は元サッカー選手。ヤンの弟は父の跡を継ぎサッカーの道に入り、父も期待しているが、ヤンは…。
身体を動かすサッカーとは程遠い、家の中に籠ってゲーマー。
父は落胆しただろう。でも、父の期待とは違う“自分のライン”で父の期待に応えたい。
が、父は理解してくれない。万国共通。ゲームばかりやってるな。現実を生きろ。
父と息子の確執、わだかまり。
やがてそれが…。いちいち語らずとも、分かっていても、胸打つ。ジャイモン・フンスーも好助演。
ゲームであろうとカーレーサーだろうとサッカー選手だろうと、何だっていい。何かに挑戦する姿を、認めて貰いたかっただけなのだ。
実際にeスポーツ選手になりたい子供に対し、否定的な親は多い。親の気持ちも分からんではないし、そうそう簡単になれるもんじゃない。プロ野球選手を夢見るのと同じ。
だが、挑む事に意味がある。それを否定しちゃいけない。世の中は変わっていく。それを認め、受け入れる、これからへ一石投じるものでもあった。
ゲームを映画化するなら、その設定や世界観通りやるのが普通。
しかし監督は、あの斬新な『第9地区』を撮ったニール・ブロムカンプ。
この人ならではの変化球。であると同時に、斬新な『第9地区』や意欲的な『エリジウム』『チャッピー』を手掛けてきた彼にとって、ある意味“変化球”の王道的な快作。
印象的な画作りも。『グランツーリスモ』プレー中は周囲が本物のレースのように。実際のレース中は『グランツーリスモ』プレーのように。ゲームと実際のレースの一体感をユニークに表す。
そして本作はれっきとしたカーレース映画でもある。そのスピード感、迫力、臨場感は言うまでもない。
劇場で観たかったなぁ…。上映しなかった地元の映画館を恨む。
その体感をたっぷり魅せてくれたクライマックスのル・マン。
ドラマチックな展開も加わり、熱さ迸る。
このレースで実績を残さねば、GTアカデミーは…。
訓練時ライバルだった候補生も仲間に加わり、バックアップ。
いざ走ると、ヤンの脳裏にあの悪夢が甦る。見る見る失速…。
それを覚醒させるジャック。覚醒したヤン。
追い上げていく。
表彰台に上がれるのは、3位まで。
その3位に、殊更忌み嫌ってくるライバルレーサーがいる。
その差を縮めるヤン。拮抗するほど。
勝負の最終ラップ。結果は…
実話が基だが、かなり脚色もあるらしい。(まあ確かにあの事故は…)
それでも、この興奮!感動!
1位優勝ではなく、3位というのが何だかリアルでもある。
順位は関係ない。途方もない夢を、実現させた。
ヤン自身の夢、ジャックの夢、ダニーの夢、父の夢、皆の夢…。
いやもはや実現させたのだから、単なる夢ではない。
こういう挑戦がある。
それに挑む事、諦めない事、追う事。
前代未聞、前人未到はいつだって叩かれる。
ならば、やり遂げろ。
自分のラインで。
苦難のレースを走り抜けろ。
その先に、新たな自分と世界がある。
近大さん
近大さんのレビューを読ませて頂き、まるでコックピットに座っているような( レーシングカー、近くで見た事さえありませんが 😆 )あの没入感を思い出しました 🏎️
悲しい出来事が続いていますが、日本、ガンバレ‼︎
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
共感ありがとうございます。
私はこの映画で描かれてる内容を
少しも知りませんでした。
もっと大々的にニュースにして、
届けてほしかったです。
共感ありがとうございます
新年早々コメント失礼します。
素晴らしいレビューでした。
私も一昨日、動画購入したので、下の子と一緒に観ましたが、映画館でなくても感動でした。
でも、映画館の方が迫力が違います。
現在、新宿で公開中なので、来週観に行く予定です。
爆音祭りなので、2500円
お高いですが、感動を再びです。