「縁の薄い世界だから、取っつきが悪かったのですが、見たら、これがすこぶる面白い‼」グランツーリスモ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
縁の薄い世界だから、取っつきが悪かったのですが、見たら、これがすこぶる面白い‼
映画にしかないような話が現実に起きています。ゲームの実写化も何の違和感もない時代だ。しかしゲームから本当の物語が生まれ、映画化されたのなら、どうでしょうか?
本作はそのまさかという実話です。わたしはその実話を知りませんでした。
レーシングゲームに興味はなく、カーレースにも関心が薄いせいですが、こんな面白い試みがあったとはと後付けで驚きました。実話の元になった発想がまず、ずぬけているのです。
日本発の人気レーシングゲームのプレーヤーを、本物のプロレーサーに育成するプロジェクト「GTアカデミー」。プログラムに参加し、ルマン24時間レースなどで活躍したヤン・マーデンボローの実話を基にしたレースアクション作品なのです。
ただ予告編の出来が悪く、鑑賞には腰が引けていました。ゲームやレースがテーマで、バーチャルがリアルを凌駕するという世界観。予告編ではゲーム面を誇張しすぎていたのです。この世界に疎いわたしにとって、どれも縁の薄い世界だから、取っつきが悪かった(^^ゞ見たら、これがすこぶる面白いのです‼
■ストーリー
世界的大ヒットのドライビングゲーム「グランツーリスモ」のプレイに夢中なヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)は、父親のスティーブ(ジャイモン・フンスー)からは「レーサーにでもなるつもりか、現実を見ろ」とあきれられる日々。そんなヤンにビッグチャンスが訪れます。
世界中から集められた「グランツーリスモ」のトッププレイヤーたちを、本物の国際カーレースに出場するプロレーサーとして育成するため、競い合わせて選抜するプログラム「GTアカデミー」が企画実現するのです。
世界中に8000万人いる『グランツーリスモ』のゲーマーたちを取り込んで、新たな自動車市場を開発を目論んだ英国日産のマーケティング担当ダニー・ムーア(オーランド・ブルーム)は、プレイヤーの並外れた才能と可能性を信じて、ゲーマーからプロのレースドラスバーを育成する「GTアカデミー」を立ち上げます。しかし「レースはゲームとは違う」とレース関係者にことごとく断られて、計画は暗礁に。ゲーマーなんかが通用する甘い世界ではないと言い続けてきた元レーサーのエンジニアであるジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)をやっとの思いで口説き落し、指導を引き受けてくれたことから、プロジェクトが動き出したのでした。
「GTアカデミー」の参加資格を争う予選選考には、バーチャルなゲームの世界では百戦錬磨のトッププレイヤーたちが集結。世界中の9万人が参加したレースゲーム大会をヤンは突破し、「GTアカデミー」の参加資格を得ます。そしてそこでレーサーとなるための精神力、体力、運転技術など過酷なトレーニングメニューに投げ込まれるのです。選抜試験から最終実践レースへと勝ち残ります。
不可能な夢へ向かって、それぞれの希望や友情、そして葛藤と挫折が交錯する中で、いよいよ運命のデビュー戦の日を迎えるのでした。
■解説
リアルなレースの現場では、ゲーム出身というだけで、本物のレーサーたちはヤンを軽蔑の目で見るのです。猛スピードで競うレースは文字通り命がけ。つまり、ヤンの前に立ちはだかっているのは、あくまでリアルな勝負の世界です。
カーレースやゲームに疎くても、前のめりになって見てしまったのは、描かれるのが、夢を実現するサクセスストーリーと見慣れた男のドラマだからでしょう。激しいレース中の駆け引きは、まるで格闘技のようです。
米の映画サイトでは「レースカーが出てくるロッキー」と評されているのだとか。
映画には、アンダードッグ・ストーリーというジャンルの物語があります。勝ち目がないと思われる主人公によるスポーツ物語で、例えば映画「ロッキー」「ミリオンダラー・ベイビー」などが当てはまります。本作もまさかの素人のゲーマーだったヤンが、リアルなレースで勝ち上がっていく展開が、ロッキーを彷彿させる熱いドラマにし上がっているからでしょう。特にヤンにとって試練にになったのは、とあるレースでクラッシュし、観客を巻き込んで死亡させたことから、一時は引退を決意。留意するものの、その事故が重いトラウマとなり、ロッキーのように幻想と闘うことになったのです。
また、人間ドラマとしても見どころがありました。父からはゲームなんかやらずに真っ当な仕事につけといわれてきたことから一時は疎遠になっていた父親との関係。初めてヤンがル・マン出場するとき、ピットにスティーブを招きます。スティーブは自分の押しつけを息子のヤンに詫びるのです。その言葉に感動したヤンは、思わずスティーブを抱きしめるのでした。それでもスティーブは、おまえがレースに出る度に心配しているというのです。父親の愛情をヒシヒシと感じさせる感動的なシーンでした。
レースシーンも超リアル。多彩な短いカットをスピーディーに編集して迫力満点です。ニール・ブロムカンプ監督の手腕はさえ、舞台は地上なのにヘリコプターや空撮が目立つのは出世作「第9地区」を思い出させ、にやりとさせてくれました。
車好き、ゲーム好きにはたまらない映画であることは間違いない作品です。