「映像化の方向性が間違っているとしか思えない」グランツーリスモ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
映像化の方向性が間違っているとしか思えない
ゲーマーがカーレーサーになる物語を描くのであれば、ゲームをプレイする時と本物の車を運転する時の最大の違いである「重力加速度(G)」や「振動」を、生々しく感じさせるような映像が必要だったのではないだろうか?
ところが、この映画では、実際のレースのシーンを、CGを多用して、まるでゲームのように描いており、映像化の方向性が「逆」であるとしか思えない。
せっかく「トップガン マーヴェリック」という良いお手本がありながら、観客に本物の「G」を感じさせることができなかったのは、極めて残念であるし、映画としても致命的であると言わざるを得ない。
スタイリッシュで迫力のあるレース・シーンは、それなりに見応えがあるし、それを否定するつもりはないのだが、この映画には、激しくブレる画面やGに顔を歪めるドライバーの表情など、「ライブ感覚」こそが必要だったと思えるのである。
ストーリーにしても、主人公と指導役との師弟の絆や、父親との親子の絆は比較的丹念に描かれているものの、その他のエピソードについては、要点をかい摘んで羅列しただけのように思えてならない。
良く言えば、軽快なテンポで話がサクサク進むのであるが、その一方で、まるで何かのダイジェスト版を見ているかのように物語が薄っぺらく感じられるのである。
例えば、GTアカデミーの決勝レースで最終的に主人公をチャンピオンにした経緯や、アカデミーの同僚たちとの友情、あるいは、事故での死亡者や遺族に対する謝罪や、ライバルである金持ちのドラ息子がレースに負けた後の様子など(この際、恋人とのイチャイチャはどうでもよい)を、もっと丁寧に描いていれば、この映画の全体的なイメージも変わったのではないだろうか?