SISU シス 不死身の男のレビュー・感想・評価
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ストイックな決意と粘り強さ
タイトルのsisuとはストイックな決意と粘り強さをあらわすフィンランドの概念──だそうだ。
1944年の9月から1945年の4月にかけてフィンランド、ドイツ間でラップランド戦争というのがあった。
映画の舞台はそこだが前線から離れたところで初老の男が愛馬とテリアを連れて金鉱脈をさがしている。
ラップランドは花崗岩などがごつごつした荒蕪な丘陵や平野で構成され、じっさいゴールドラッシュがあった場所だそうだ。
男は大金脈を掘り当てるが帰途でドイツ軍に遭ってしまう。
第二次大戦末期にやけになったナチスが小隊ごと無頼漢になって人品をかすめとったり婦女を暴行したという話があるがここに出てくるのもそういう落武者化した連中だった。
すでに前線に戻る気はなく慰み用に拐かした(かどわかした)女たちを連れてあてどなく徘徊していたところへ金塊をもったじいさんがまろび出てきたのでこいつはカモネギだとばかりにいただこうとする。
ところがそのじいさんはソ連軍に家族をころされ復讐鬼となりやがて敵からイモータルと呼ばれるようになった伝説の老兵コルピ(Jorma Tommila)であった。
コルピはヴァイオレットエヴァーガーデンばりにファンタジーな男で、なんしろ弾があたんない。地雷をふんでもしなない。水中でもだいじょうぶ。吊ってもしなない。墜落してもしなない。──という感じでドイツ軍の残党をことごとく翻弄する。
その戦闘描写が映画のメインになっており、ナチス愚連隊の卑劣さやごろつき感を強調しつつ、かれらを挫く一騎当千の活躍がランボーのようにピンチとチャンスを経由しながら活写されていく。
じっさいに監督のJalmari Helanderはインスピレーション元としてランボー(1982)とフィンランドに実在した伝説のスナイパー、シモ・ヘイヘを挙げていて、食い気味のアクション描写によってアドレナリンが分泌するし、全編英語も手伝って「フィンランド映画」という感じはなく、米韓のように完成されたエンタメに仕上がっていた。
ただしファンタジーエンタメとは言っても映画sisuにはドイツやソ連といった列強からつねに足蹴にされてきた小国フィンランドの遺恨がこもっていた。(ように思う。)
ドイツ軍を全員憎々しく、むさ苦しい外観の者たちで揃え、観衆の敵愾心を煽り、結果みなごろしが痛快さにつながっていた。
ゲーム的といえるこの昂揚には、メタルギアシリーズやデスストランディングのデザイナー小島秀夫が反応したそうだ。
『2023年8月1日、ゲームソフト「メタルギア」シリーズで知られる日本のゲームデザイナー、小島秀夫監督がツイッターにメッセージを投稿し「シス」を高く評価して「これはもはや戦争映画ではない。恐ろしくかっこいい男たちの戦いを描いたMADグラインドだ。不死身のおっさんのランボーを凌駕する戦いのアイデアの数々!」と絶賛した。なおメッセージの最後に、小島監督はこの映画の主人公のゲームを作ることに興味を示した。』
(wikipedia、sisu(film)より)
imdb6.9、RottenTomatoes94%と88%。
余談だが、このキャラクターのモデルになったシモ・ヘイヘは少なく見積もった公式カウントでさえ500人超の敵兵を殺害した狙撃兵だが、本作で主人公を演じたJorma Tommilaの屈強で苦み走った感じとは異なり、虫も殺さないような柔和な顔をしていた。
『ヘイヘは戦時中の功績を決して自慢しない控えめな人として知られていた。彼は戦争や自身の体験についてほとんど語らなかった。1998年にどうやってそんなに優れた狙撃兵になれたのかと尋ねられたとき、彼はただ「練習」と答えた。96歳の誕生日直前の2001年12月、ヘルシンギン・サノマット紙による独立記念日のインタビューで、ヘイヘは自身の戦争体験について語った。彼は、これほど多くの人を殺害したことを後悔しているかどうか尋ねられた。彼は「私はできる限り、言われたことをやりました。やらなければ、フィンランドは存在しなかったでしょう。」と答えました。』
(wikipedia、Simo Häyhäより)
辺境の地ラップランドに立つ孤高の戦士
2022年。フィンランド。
甘さのない戦士、それも年老いて皺だらけの痩せた爺さん。
ジジイの戦闘スキルは凄まじい。
死ぬもんか!!
罰を与えてナチスは皆殺し!!
その殺意はブレない。
殺して殺して殺しまくる。
決して自分は死なない。
不死身。
荒涼としたラップランドの地。
金塊を掘り当てたアアタミは馬に乗り犬をお供に両替所に向かう。
金塊を狙うナチスの兵士たち。
どれ程の砲弾を浴びせられようとも、爺さんは対抗する手段を持つ。
地雷には地雷で!!
素手には素手で。
驚くことに戦いは「陸」「海」「空」と続くのだ。
たかがジジイひとりにナチス兵100人。
ランボーの精神の後継者。
ランボーは一人軍隊。
ジジイも一人軍隊。
不死身のジジイに、
犬のウッコが可愛いかった。
決めたら最強!
フィンランドのゴールデンカムイ
たまたまTOHO二条に足を運んだ際に、うん?と思って観たくなったから観たのがSISU不死身の男だった。
分かりやすく言うなら漫画ゴールデンカムイの主人公が死んでいたはずがまさか生き延びていたという設定の土方歳三と言った感じだろうか。
作中にも巨大な金塊を見つけ、それを巡るナチスとの攻防、いやちょっと待ってゴールデンカムイじゃんかよ、野田サトル先生はどう思うんだよって色々考えながらも、ゴールデンカムイのフィンランドバージョンでアレンジを加えてみた感があって面白かった。
ゴールデンカムイと当作品の違いは主人公は杉元と違い退役はしていない(非公認ながら単独行動を好み活動している)、ナチスに囚われた身の女性達が復讐を果たすのが爽快で良かった。
乾いた冬の大地に、老兵が迸る
SISU(アアタミ・コルビ)が額に翳したツルハシの刃に、ナチスの悪党軍団が映って、これは本当に痺れる、秀逸なポスターでした。
そして「SISU は諦めないから、絶対に死なない魂のこと。でもSISUって言葉にできないのよ」と嘯いた女子の面構えが不敵で、しばし見惚れました。
背景となった凍てついた大地も、美しかった。いや、殺戮と暴虐の結果を美しいと言ってはマズいのは頭で分かっているけれど、血と硝煙に満ちたディストピアが眼に焼き付いた。様々なものを失った灰色と褐色の焦土なのに、わずかな生が残されている。失われる直前の生も含めて。
その焦土に、肉食獣の容赦の無さで獲物を狩り、草食獣の粘り強さで苦痛に耐え抜くSISUがいた。シュワルツネガーではないと言い聞かせつつ、フッとそう思ってしまう私。自分で自分の傷を縫うシーンは、戦争アクションでは定番だけれど、SISUの縫い方はこれまで見たどの縫合シーンより、傷口が深く激痛を感じさせた。
一人対多数の、ともすれば作り物感いっぱいになりがちな戦闘シーンが、老兵の勝って当然の笑いに引っ張られて、肉を屠り血を啜るような生々しさに溢れた。こんな簡単にはやられないよなと思いつつ、ナチスは皆、やられてしまう。
コミカルささえ匂わせる年を経た怪物が、頭もフル回転。まだ次の獲物=金塊を狙う気満々で! しかしヘルドルフ中尉が、悪行を支えるだけの膂力で素手ゴロしてくれて、ここは、やや感心しました。
最強オヤジ!気合いだ!!
少々、足りなかった「そんなアホな」
バリバリ期待しての封切り初日に鑑賞。
しかし、ハードルを自ら上げ過ぎて失敗する、よくあるパターンで悲しい鑑賞。
登場人物の設定もストーリーの単純さも、申し分なし。
映画全体に漂う乾いた空気感もサイコーでした。
で、主人公。撃たれても死なない、死にそうな場面でも切り抜けるんだけど、
ただ「不死身の男」としては、もっとアホな切り抜け方をもっとしてほしかった。
最後の機内の爆弾もお約束過ぎて、ここは観客を上手に裏切ってほしかった。
特殊な部分はあるが推すことは可能な作品。
今年398本目(合計1,048本目/今月(2023年11月度)30本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
10月末の作品でしたが実は拾い忘れで今日見てきました。
フィンランドが舞台の映画というのも珍しい気がします。フィンランドどころか、スウェーデンやノルウェーが舞台の映画も珍しい気がします(広く見ても「ロスバンド」くらいしか思い浮かばない)。
多くの方が書かれている通りやや特殊なストーリーの映画で、主人公にせよ敵にせよのセリフが極端に少なく(あるいは出るとしても「やってしまえ」とかそんなセリフしかない)、字幕の出ないバグ映画なのか?とすら思えてしまう点はあろうかなというところです。またそういった事情からストーリー展開もかなりわかりやすく(巻き戻し処理等はほぼ存在しない)、一応推せるかなといった感じではあるものの、この「セリフのなさ」は結構特徴的で(もっとも仮に出てきたとしてもフィンランド語なので字幕翻訳も苦労しそうですが…)、「この点で」人を選ぶのかな、といったところです。
ただそのことは「あまり考えることもなく映像「だけ」を見ていればストーリーが理解できる」ことも意味しますので、同時に利点でも欠点でもあるということもでき、極端には引けないだろう、といったところです。
現地フィンランドやノルウェーほかのこの手の国はこういった映画がある意味流行りなのかな…と思ったくらいです(当然こういう事情なのでパンフ等まるで存在しない一方、同じ北欧系の映画の「ロスバンド」は音楽バンド映画でセリフ量は結構多かったので、何が相場かはわかりにくい)。
積極的な減点幅まで見出しにくいのでフルスコアにしています。
ただ何にせよ「ある程度人を選ぶかな」というのは重ねて書いておきます(ジャンルがわりかし何なのかもよくわからないのも…。まぁしいていえばアクション?)。
不死身の男の最後の戦い
老兵・コルピが愛犬と共に銀行に行く道中で不良軍人に絡まれる話。窓口の受付時間内に辿り着くことができるのか。
近年流行の「おじさま×過激なバイオレンスアクション」映画である。
このジャンルの作品では主人公が暗殺者やエージェントとして密かに敵を排除するパターンが多いが、本作では戦火が通過した後の人気のない荒野で堂々とやり合っている。加えて第二次大戦末期の設定のため、武器も機関銃から地雷・手榴弾、果ては戦車に輸送機と、種類も豊富で威力も大味である。
超人的な生への執念と尽きることのないアドリブの戦法を駆使し、コルピが広大なフィールドで大火力を相手に孤軍奮闘するアクションが目新しかった。
ところどころ西部劇風のBGMや演出が挟まれるのは、男の戦いやマッチョイズムの表現なのだろうか。
かつてワンマンアーミーとして恐れられたコルピ。家族を奪った戦争は終焉に向かい、敵を失ったコルピは安息を求めているらしい。どうか落ち着いた余生を送って欲しいものだ。
またこのジャンルの重要なポイントとして、本作でも犬は無事である。
これぞ映画!!
余計なストーリーは省くという潔さ
フィンランドの映画を観たことあっただろうか。ほぼほぼ記憶にない。
本作は第二次世界大戦の終盤のフィンランドが舞台。ロシアとナチスドイツに攻められたというだけでフィンランドの苦境がうかがい知れる。焦土と化したフィンランドで金掘りをしているジイさんが実は凄腕の兵士だったという設定はなかなか面白い。
あのジイさんが本当に不死身なのか、なにか特殊な訓練を受けたのかといった背景的なものはほとんど触れない。金を掘る目的もはっきりしない。金を掘り当てた道すがら、ナチス軍に遭遇しちょっかい出され、それに抵抗するというだけの話。主人公の背景とかどうでもよくてアクションだけで勝負するということか。ここまで潔いのも珍しい。
でも、それがシンプルな面白さにつながっているのかもしれない。ナチス軍をただただ倒していくという彼の姿がとにかく痛快だった。思ったよりも激しめの暴力表現があって驚いた(いい意味で)。もちろん、そんなことあるかい!ってシーンもちらほらある。ただ、それさえも笑って楽しむのがこの手の映画の鑑賞作法なんじゃないか。どことなく西部劇のようなさすらいのアウトロー的な描かれ方もカッコいい。
いいねフィンランド映画。こんな映画ばかりではないと思うけど。これは続編を期待してしまう。可能性は十分あるはず。
死すだけど不死身の男
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