「人それぞれの恋愛観」四月になれば彼女は ブレスさんの映画レビュー(感想・評価)
人それぞれの恋愛観
今回の映画『四月になれば彼女は』の監督は、MVの監督で有名な山田智和監督です。
(過去に担当したMVでは、米津玄師の『Lemon』、あいみょんの『マリーゴールド』、宇多田ヒカルの『Gold~また逢う日まで~』等、素敵な作品を世に送り出してくれています。)
そういったことから、知っている人の中では「あの山田智和監督が長編映画作品を初めて監督するの? 観に行ってみるか」と、期待して観に行った方もいるのではないでしょうか?
かく言う自分は……残念ながらそんなこと知らずに映画を観てきました。
ただ「面白そう」と、告知と主題歌の良さから滲み出る良作感に惹かれて観てきました。
が正直、観終わったときの感想は微妙でした。
万人受けする映画では決してない。
恋愛に悩める人の為の映画、俳優陣の方がそんなことをインタビューで言っていたのを聞きながら、恋愛に無縁な自分にはこの映画は難しいものだと感じさせられるばかり。
そんな自分ですが、自分なりに考えてみたので映画レビュー書いていこうと思います。
この映画には、3人の主人公が居ます。
精神科医の藤代 綾、獣医の坂本 弥生、元カノの伊予田 春、の3人です。
(男性1人に、女性2人です)
それぞれが悩みを持っていて、共通して恋愛についての苦い思い出も抱えています。
悩みがあるとモヤモヤしますよね?
苦い思い出も笑い話に出来れば少しはラクになりますよね?
劇中の彼女達はモヤモヤと苦い思い出を昇華するために終始動いているのだと思います。
今身の内で起こっている問題(モヤモヤ)を解決出来れば、人は幸せです。
なので最後まで問題(モヤモヤ)を解決しようとしない藤代 綾は最後まで幸せになることはありません。
そんな藤代 綾は、態度もモヤモヤしているので劇中の登場人物達から、『しっかりしろよ』っと色々なことを言われます。
バーテンダーの「まだ分かんないの?」や、同僚や坂本 弥生の妹からの、「どうして、そんな状態で結婚しようと思ったの?」、
「お姉ちゃんのこと全然わかってないよね?」等です。
全て的を得た登場人物達からの言葉なのでしょう。が、自分としては彼らが藤代 綾に厳しく言うのは納得いきませんでした。
藤代 綾は藤代 綾なりに真剣なのに……。
恐らくですが、こんなに厳しい言葉をかけられるのは、藤代 綾と彼らの間に過去様々なことがあったからだと思います。
過去は詳しく描かれていませんが、本音で厳しいことを言うぐらいには仲が良いのだと思います。
本音は仲が良くないと、気をつかってなかなか言えないものですからね……。
藤代 綾は愛されやすい人間なのかもしれません。
特に元カノや今カノの想いはデカイように思います。
だから二人とも彼のことを想って、劇中でアクションを起こして、彼から離れました。
皆さんは、
『自分よりも大切な存在、自分よりも大切にしたいと想えた存在はいますか?』
この映画のレビューは、「理解不能」という内容の不評なものが多いですが、それはどうしてなんでしょうか……?
彼女達の行動は、理解不能でしたかね……?
人のことを想って、好きになって何かをする時、盲目になったり、バカになったりするものじゃないんですかね……?
好きな作品を語る時、熱い気持ちになってしまうように、そのものへの想い入れが強いほど、動く感情はデカイはずです。
彼女達は主人公が好きすぎるが故に、自分のせいで彼の人生を壊すのが怖かったのかも知れません。
気持ちがデカすぎたが故に、最終的には自己中になって、彼を傷つける結果になった。
その行動の先の結果(手紙を送ったり、失踪して元カノに会いにいく)が意味不明なのは、彼女達が盲目になって、バカになっていたからなんじゃないかなと思うと、この作品は面白いのかもしれません。
そして、この作品で忘れていけないのはペンタックスという存在です。
ペンタックスは、伊予田 春との出会いのキッカケと坂本 弥生との再会のキッカケを作ってくれた存在です。
作中冒頭付近で、坂本 弥生が、教会って結婚式だけでなく葬式もやる、ということをを少し面白がっていたシーンがあります。
あれは後日譚として、伊予田 春の葬式と坂本 弥生との結婚式をどちらも教会で行う伏線のようなものではないですかね……?
そして、そのどちらの式にも参加するのは、主人公の藤代 綾はもちろんのこと、そのほかで言えばペンタックスのみです、恐らく。
ペンタックスは、劇中で恋愛とは無縁な存在ですが、藤代 綾の恋愛において1番助けを出している存在かもしれません。
ペンタックスがいるので、きっと藤代 綾の未来は明るいです。
あとですが、今回の長編映画『四月になれば彼女は』の主題歌である『満ちてゆく』の「手を放す、軽くなる、満ちていく」という歌詞には、物語が終わった後、この2人の行方を明るく照らしてほしいというニュアンスの意味があるそうで、それも相まってこれからの藤代 綾と坂本 弥生はきっと大丈夫だと思わせてくれます。
あと、山田智和監督さん、今話した主題歌の『満ちていく』のMVの監督も担当しているということで、気になった方は見てみるといいかもしれません。
(作品の解像度が上がるかも?)
あとですが、作中通しての謎として
「愛を終わらせない方法とは、それはなんでしょう?」
というものがありますが、
坂本 弥生の言う
「手に入れないこと」
は、正解では無いのでしょう……。
坂本 弥生自体、それについて悩んで失踪していますから。
坂本 弥生は答えを見つけるために、藤代 綾の元カノである伊予田 春に会いに行きます。
彼女が自分とは違う価値観を持っていたからです。
坂本 弥生は独特な恋愛観を持っていると妹にも思われるほど、少し変わった人です。
「手に入れないこと」とは、満たされないことです。
満足しないこと、満タンにならないこと。
劇中で、ワイングラスを割った坂本 弥生はそれをキッカケに失踪します。
そのワイングラスは藤代 綾との同居をはじめる記念として買った思い出の品です。
思い出の品なのは藤代 綾も同じはずなのに藤代 綾はそのことを覚えていないようで、割れたワイングラスを簡単に捨ててしまいます。
割れたワイングラスは液体を注いでも満たされることはありません。
満たされない彼女がワイングラスを割ってしまった。
彼女は複雑な顔をして、
そして、その日を境に失踪した。
その行先は、藤代 綾に対して手紙という形で愛を伝え続けていた元カノの伊予田 春です。
坂本 弥生達が怠った、愛を伝えること、愛を育むことを逆に怠たらなかった人間の元へ。
そして彼女の気持ちを知り、藤代 綾と最後は再会して、エンドロールには2人の行方を明るく照らす意味を込められた『満たされる』と言う曲が流れる。
きっと、2人は伊予田 春という愛を伝えるピースが加わることで、愛を手に入れたはずです。
つまり、「愛を終わらせない方法は、なんでしょう?」の答えは、『愛することを怠らないことです』、多分。
自分が愛していれば、少なからずその愛が終わることはありません。