「愛を失う恐れ」四月になれば彼女は 稲浦悠馬 いなうらゆうまさんの映画レビュー(感想・評価)
愛を失う恐れ
公開初日に観に行った。良かった。
一度で受け止めきれない部分もあったので、もう一度観てみたい作品だと思った。
# この映画のテーマ
愛とそれを失うことについて、不眠、動物、心理学的ジレンマ。
# ウユニ塩湖
鮮烈なウユニ塩湖の景色から映画は始まる。冒頭に美術的なビジュアルを持ってこられると「絶対にこの映画は良い作品だ」と確信する。
# 逃げた女
結婚を前にして女は突如失踪する。
どんな理由があっても急に音信不通にするなんて許されることではない。最低の行為だ。
何やら事情があったのだろうが、知ったことでない。この女は過去にも別の人と逃げたことがあるらしい。同情の余地なし。
映画を観終わったらある部分忘れてしまったのだが、観ている最中はとにかくこの人に怒っていた気がする。
# ぐずぐす精神科医 フジ
逃げられた方の男。
煮え切らない精神科医の男。
自分の心のうちは話さない。
何をされても何を言われても怒らなさそう。
日々を虚無的な感覚で生きていそうな男。
生きる精気がない。
彼女に逃げられたにも関わらず「むしろ何故そんな状態で結婚しようと思ったの?」的なことを諭される。かわいそう。
もっと怒っていいよ。
# 輪郭から描く
一体事実は何なのか。この物語の確信は何なのか。
テーマは少しずつ少しずつ薄皮を剥ぐように明らかになって行く。すぐには答えを出してくれない。その謎解きみたいなもどかしさが良い。
親切な説明がなければないほど謎を解きたくなる心理が生まれる。
# 幸せが怖いという心理
幸せになるのが怖いという心理が人にはある。僕にもその気持ちは分かる。
愛が手に入ると退屈になってしまい、愛が冷めてしまうと考える。
蛙化現象のような、それに近い複雑な心理。
難儀なことだと思う。もっと穏やかに人を愛し愛されることを楽しめば良いのに。
と、そう思うのは不安を感じにくい人の理屈だ。
余計な心理のせいでどうしても人を愛することに飛び込めない人もいる。自己防衛作用。
# 元カノ ハル
男の昔の彼女。
彼女もまた昔に男から去っていった。
なんと海外旅行のために空港まで来ておいて「やっぱり行けない」とかのたまうのだった。
それにはそれなりの理由があるのだが、やはり理不尽だ。
そして「私は選べなかった」的なことも言う。
いや空港に来ているということは君はもう一度選んでいるんだよ。それを当日にドタキャンして被害者面をしている。
約束というものが羽よりも軽いと思っている。
そして女は時を経てから「あの時はうまく愛せなかった」的な手紙を男に出して、ひとりで世界旅行に行くのだった。ものすごく自己満足だなと思った。
# 支離滅裂
このように映画を観ながら僕は複数の人間に腹を立てていた。
どうにも行動原理が支離滅裂だと思ってしまう。
だけど僕が単に、彼ら彼女らの複雑な気持ちを推しはかれていないだけかもしれない。育ってきた環境が違うのだから。
この映画で描かれているものが決して万人に分かる心理だとは思わないが、ダイレクトヒットする人もいるのかもしれない。
# 愛を終わらせない方法は?
これが観客に対する質問として投げかけられる。
人によって答えは違うだろうが、愛を終わらせない方法は、まさに愛することそのものではないかと思う。
あとは相手に寛容さを持って接することだ。
僕はそう思うけれど、もちろん愛を終わらせない究極の方法なんてあるはずはない。
# トリビア - カタログギフト
贈られたカタログギフトは50%も使われないらしい。
カタログギフトで選べるものに対してカタログギフト自体の値段がそもそも2倍以上割高な気がするが、しかも50%が使われないなんて。
結婚ビジネスのすごい世界だ。
# トリビア - 4月1日生まれ
4月1日生まれの人は学校で4月からの学級ではなくて、前年度の3月までの学級に入ってしまうらしい。へぇ。
# 仕掛けとしてのBAR
ドラマや映画ではよくBARが使われる。居酒屋も。
人と話すシーンを映し出すこと手間登場人物の今の心理を「自然」に語らせることが出来るというための装置だ。
自分はこの装置があまり好きではない。使い古されたお手軽な手法だし、手抜きな感じがするから。
# 佐藤健
最後のエンドクレジットが流れるまで主演はKAT-TUNの亀梨和也だと思っていたというね。思いきり人違いだった。
# 竹野内豊
安定の竹野内豊。佐藤健との共演は豪華な感じがした。
# ともさかりえ
最近見たサウナのドラマにも出てたな。
# 逃げた女の妹
アンニュイな表情で、間と話し方で複雑な心理が表現されている感じがして良かった。
# 舞台挨拶中継
はじめて映画館での舞台挨拶中継というものに行った。
映画終了後に30分ほどは舞台挨拶があったのではないだろうか。
こうして舞台挨拶を見ることで「この映画を観て良かった」と愛着が高まる気もするし、逆に舞台挨拶を見ている間に映画の余韻が引いていってしまう気もする。
一長一短だとは思うが、佐藤健、長澤まさみ、森七菜、監督の姿を見られて良かったと思った。