「「人情喜劇」も、商店街の個人店舗も、まだ滅んでいない」高野豆腐店の春 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
「人情喜劇」も、商店街の個人店舗も、まだ滅んでいない
昔かたぎで職人気質の頑固親父、お互いを思いやりながらも素直な気持ちを伝えられない不器用な父娘、お人好しでお節介な近所の仲間たち、気高さと芯の強さをを感じさせる独り身の老婦人。今の時代、下手をするとファンタジーにしか映らないこうした登場人物たちが、しっかりと血の通ったキャラクターになっているのは、何よりも、藤竜也や麻生久美子、早瀬久美らの好演によるものだろう。
父親と娘、それぞれの新たな恋を巡る騒動も、いかにもベタで予定調和ではあるものの、まるで「寅さん」を観ているかのように安心して楽しめるのは、観客が期待する面白さに応えようとする脚本の賜物だろう。
娘がうだつの上がらない男を選んだのは、最初の結婚の失敗を繰り返さないためなのかもしれないし、老婦人が独身を通してきたのは、被爆者であることが関係しているのかもしれないが、そうしたことをすべて説明しないで、観客に考えさせる余白を残しているのも良い。
終盤で、原爆による健康被害がスローズアップされるが、声高な「反戦」や「反核」の主張ではなく、そうした苦難を乗り越えて、人生を素晴らしいものにしていこうという前向きなメッセージが感じられるところにも共感できる。
ただ、できれば、造船所に務めていた父親が、どうして豆腐屋を始めることになったのかを知りたかったし、演劇の監督の女子高生には、もうひと活躍してもらいたかったと思うのだが・・・
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