「愛すべき豆腐屋の親子と廃れいくコミュニティへのノスタルジー」高野豆腐店の春 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
愛すべき豆腐屋の親子と廃れいくコミュニティへのノスタルジー
「高野豆腐店」と書いて読み方は"こうや豆腐店"ではなく"たかの豆腐店"。尾道で昔ながらの製法で豆腐を作り、細々と豆腐店を営んでいる親子の日常から始まる映画は、出戻りの一人娘を嫁がせたいような、そうでもないような父親と娘の、互いになかなか本音を言い出せない関係を描いて、かつて観た小津安二郎作品を思い起こさせる。
こんなベタな話が今の時代に成立するのかと思っていたら、監督と脚本を兼任する三原光尋の丁寧なストーリーテリング、そして、父親を演じる藤竜也の感情過多にならない好演と、娘役の麻生久美子のいつも通り安定感のある演技によって、見事に成立している。親子を取り巻く近所の人々が若干煩わしく感じる瞬間はあるものの、今、日本のあちこちで廃れていくコミュニティへのノスタルジーが画面いっぱいに溢れて、あたたかい気持ちになれるのだ。そして、これを観た後は、どこの街にもある、個人経営の豆腐屋を覗いてみたくなるのだ。店の奥では、巨大スーパーの襲来にもめげず、豆腐やガンモや油揚げを作っている頑固な主人が来店を待っているかもしれないから。
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