「劇場だと画面にモザイクが入ってたし、笑いが許されない雰囲気」ボーはおそれている ねこきちさんの映画レビュー(感想・評価)
劇場だと画面にモザイクが入ってたし、笑いが許されない雰囲気
後から他の人の感想を見たら、配信とかだと股間のモザイクなかったんですね。結構大事な仕掛けだったと思うので残念。
見えてる景色こそがボーにとっての事実だ、というとことん一人称の作品で、彼の妄想と現実の境目を考察するのは野暮だとは思いますが、ストーリーについては「大半が妄想」だと解釈しています。
冒頭から交通事故まではあまりに治安が悪い自宅程度の妄想で落ち着いていたのに、お母さんの怒りと新しい薬の副作用をきっかけに状態が酷くなって措置入院になるお話。
医者のお家と脱走までは主治医や看護師さんや他の患者さんを家族に見立てた入院生活で、一度落ち着きかけたのに他の患者さんとの接触で一段と悪くなるまで。トニーが飲み込んだ挙げ句に嘔吐したやたら鮮やかなペンキはなんか薬物のオーバードーズみたいだなと感じました。
劇団森の孤児のあたりはカウンセリングや行動療法とかで見た目的には落ち着きを取り戻したと思われて、母親が見守ることができる実家に退院するまで。
自宅に帰ってからは、彼の抱えるカオスの根源であるお母さんのもとで決定的に彼が壊れてしまうまで。
本当のお母さんはそれなりにリッチで中小企業くらいは経営してるけど、あそこまで現実離れした大富豪でも権力者でもないのに、ボーの心の中で彼女の存在があまりに大きすぎて陰謀論並みにこの世の全てにお母さんを関連させてしまってるんではないかと思ってます。
あと夜にお父さんのことを言い聞かせただけであんなに性がタブーになるはずがないし、最後に原告が性的なものも含めて全ての愛はお母さんに捧げるべきだった、と主張してるのも合わせ、絶対にあの映画=ボーの意識できる範囲の世界の解釈に登場すらできない、通称チンたま父さん以上におぞましい姿のお母さん関連の性的トラウマがもう一段彼の深層心理の部分に隠れてるのでは?と思ったんですが、海外だと劇中の子どもボーの年齢でお母さんが息子を風呂に入れることはないらしいので、やっぱり監督的にもその暗示はしてると思ってます。
途中まではそれこそ「どこまで現実なの?」と思いながら見てましたが、急死したエレインで「あら?これはいわゆる空気嫁というやつで自分で致してるのでは?」と思ったのをきっかけにこういう解釈になりました。最後、やや呆けた顔でボートにゆらゆらされてるのも多分そういうシーンだと思うので、トラウマでもあり本能でもある性の衝動が最後に残った彼の自我を爆破したんだなと思うとなんだか切ない。
ここまで全て、あくまでも個人的な解釈ですが、みんながそれぞれ好きに解釈するのを許す懐の深さのある作品だと思いますし、その一方で日本語版公式サイトでこれが正解の解説です、みたいな断定的書き方をしてるのは良くなかった気がします。
あと、見終わって思ったのは、これってちょっと度が過ぎるくらいのブラックユーモア作品で、チンたま父さんとか急死エレインとか湯船で裸でグルグルするおっさん始め、あちこち笑っていいシーンだったんじゃないか?と感じたんですが、皆さん真剣に鑑賞されている風で、少なくとも私が観た上映回は笑いが許される雰囲気がなかったです。