劇場公開日 2024年2月16日

「確かに長くて先の見えない展開が続けど、(加えて爽快な気分にはなりにくいけど)なかなか得難い鑑賞体験ができる一作」ボーはおそれている yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0確かに長くて先の見えない展開が続けど、(加えて爽快な気分にはなりにくいけど)なかなか得難い鑑賞体験ができる一作

2024年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作の監督、アリ・アスターは、家族に関するつらい経験があり、その体験や苦しみを作品に取り込んでいることを様々なインタビューなどで示唆していたけど、本作はそうした監督の葛藤を、これまでの作品以上に率直に表現しているように感じました。

しかし物語の筋は決して直感的でわかりやすい、といったものではなく、ボーが母親のもとに行こうとしているのはかろうじて理解できるものの、悪趣味なコントのように様々な障害が立ちはだかって、ボーは焦りが募らせていく状況を追う展開になります。極点に言えば物語の大半はボーが足止めを食っている状況を描いるだけなんですが、それでも観客を引き込んでしまう監督の作劇術、というか様々な趣向を凝らした映像設計はみごとです。『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2019)を連想してしまう場面も多く、監督のファンであれば深読みのしがいのある作品です。

映画的に面白い、というだけでなく、FPSやオープンワールド、ホラーなどなど、もしかして様々なジャンルのゲームの映像表現を取り入れているのでは?と思う映像も多く、物語の筋とは関係ないところで楽しくなりました。後半に差し掛かるあたりで登場する女性の「状態」など、普通に観ると全く意味が分からないのですが、もしかしてゲーム中のフリーズを表現したものでは…と解釈するとその後の展開も納得できたりして。アリ・アスター作品は初めてだけど、ゲームは好き、って人はこういう点でも楽しめそうです。

非常に面白く鑑賞したのですが、それでもほぼ3時間の上映時間は長い…。内容に触れない範囲でいえば、台詞回しの(もしかしたら意図的な)冗長さも要因の一つかもしれません。
例えば、

誰か「お前は何も分かってない!」

ボー「いったい何のことだ?」

誰か「聞きたいか?」

ボー「何のことだ!言ってくれ!」

誰か「本当に聞きたいんだな!?」

ボー「頼むよ…。何のことか教えてくれ…」

誰か「じゃあ教えてやろう…(この後さらに説明的な台詞が続く)」

といった会話のやりとりが割と出てきます。このあたり調整したら、もしかしたら15分くらい上映時間が短くなったかも!このパターンが出てきたら、1分くらい仮眠を取っても全く問題なく物語についていけます。

見どころ、読み込みどころの多い(そしてつっこみがいのある)本作ですが、作品に負けず劣らず、パンフレットもまた、デザイン・内容もともに素晴らしく、物語の要素を絶妙な形でちりばめています。製本大変でしょうね…。おそらく大量生産できる代物ではないので、本作を楽しんだ人はパンフレットの購入も強くおすすめ!

yui
yuiさんのコメント
2024年2月17日

『ミッドサマー』のパンフレットと同じデザイナーの方なのかな?非常に凝った造りで、単体でも「作品」としての完成度が高いです!
「これがあればあなたの部屋もボーのお部屋に!」という親切設計ですw

yui
2024年2月17日

パンフよかったんですかー!何を求めてかわからないけれど行列だったので買いませんでした、残念!

talisman
yuiさんのコメント
2024年2月17日

確か『ヘレディタリー』のパンフレットだかに監督自身のことが書いてあったような…。
監督は「映画制作は自分にとってセラピー」とも、何かのインタビューで語ってましたね。だからといって他の人にトラウマ植え付けるのはやめてw

yui
bionさんのコメント
2024年2月17日

アリ・アスター監督の家族不協和体験って、どんな感じなんでしょうね。
一作ごとに、不協和ぶりが増してきて、恐いです。

bion