「とてもおもしろかったが(追記あり)」ハント LSさんの映画レビュー(感想・評価)
とてもおもしろかったが(追記あり)
現実の歴史的事件をモチーフに創作されたサスペンスアクション。ラングーン事件(アウンサン廟爆破事件)のことを深く知るきっかけとなった。
展開自体はそれほど分かりにくくはないが、台詞で名前を呼ばれても人物を特定できず、ストーリーを十分に追えなかった(これは自分が韓国人の名と容貌に慣れてないからで、映画のせいではない)。このままではもったいないので再見不可避。
「復讐の記憶」のレビューにも少し書いたが、普通に日本が重要な舞台の一つになっていることに驚く。海外の大規模なコリアンコミュニティとして、米国や中国(朝鮮族自治州)と並んで日本があると思えば自然なのか。
まあ日本で銃撃戦をやれば外務省の抗議どころではないと思うがw
追記(ネタバレに変更):
メモを取りながら(暗闇でも結構書けた)2周目。いやあすごい。大部のスパイ小説を読んだかのような後味だった。展開を知っているから、この言葉はこういう意味で言っていたのか、といちいち気付きがあり、そのたびにストーリーの厚みに感嘆する。
権威主義が終わりを迎えんとする韓国の政治史を背景に、(派手な武器の使用は映画的ギミックとして)警察も安企部も軍も、同胞に対してむき出しの憎悪と暴力を露わにするのが恐ろしい。
二つの陰謀が並行するが、キム国内次長の方は動機もストレートで、大統領を批判する将校たちとモクソン社の計画も理解しやすい。
パク国外次長の方が全てが説明されておらず興味をそそる。特に気になったのは、(1)パクの寝返りの経緯、(2)パクは養っている女チョ・ユジョンが北のスパイだといつ気づいたのか。
劇の中盤、3年前(1980年)にパクは東京で同僚のチョ・ウォンシクと任務についている。監視対象者に撃たれたウォンシクは、末期に「すぐ次が来る」と言い残す。ウォンシクの火葬場に、娘のユジョンが遺骨を引き取りに現れる。(身寄りのないユジョンをパクは養う)
ラストシーンの回想。ウォンシクの最後の言葉は「お前を監視していた。すぐ次が来る」だった。
ここからは仮説。ウォンシクは安企部に潜った北のエージェントで、80年以前に寝返りの意図を伝えていたパクが信用に足るか(二重スパイではないか)を探っていた。ウォンシクに伝えられ、ユジョンがウォンシクの「娘」で在日のハラダヒトミの偽装身分を与えられた「後任」であることをパクは最初から知っていた。だがユジョンは、パクが自分の正体を知っていることを最後の車内まで気づいていない。
パクの1980年より前の過去ははっきり触れられていないと思うが(キムと「2週間一緒に仕事した」(=朴大統領暗殺事件の捜査で軍に拷問にかけられた)のは多分1979年)、ウォンシク【訂正:ユジョン】との屋台での会話で入部13年とあるので、1970年頃に前身のKCIAに入ったのだろう。もしかしたら1972年の南北共同声明で、平和統一のために行動したいと考えたのかもしれない。
バンコクで大統領殺害を食い止めたパクに、キムが絶命前に「なぜだ?生き延びたくて?」と尋ねる。北朝鮮軍の南侵決行を止めると同時に、ウォンシクを救いたいと考えたのは明らかだろう。
ラスト、人民武力部の男に撃たれた後の車内、パクはユジョンに韓国旅券を渡し「お前は違う人生を歩める」と言い残す。名義は「パク・ウンス」。自分の娘と思いたかったのか。
車を降りたユジョンは画面右にはけ、右から発砲音が聞こえる。銃声は6回あり、二人とも死んだのか、どちらかが助かったのかは分からないが、パクの最期の願いが叶ったと思いたい。
他にもいろいろ書きたいが(キムの手で電気ショック死するモクソン社長の最後の涙とか)、まずはここまで。