「「揺れてないよ、俺決めたから・・・」」キリエのうた いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「揺れてないよ、俺決めたから・・・」
アヴァンで始る真っ白な雪とスクリーン右下の雪に埋もる鳥籠のような置物 拙いハスキーボイスで朗々と響くオフコース「さよなら」のAメロ
昭和55年、中学生だった自分に話してやりたい 「半世紀近く経ってもこの曲は映画で使用されているんだよ」と・・・ いや、別に今作品に思い入れが肥大しての称賛ではない 単にオフコースが好きだったというだけだ
歌謡曲にありがちなAメロ→Bメロ→サビという構成ではなく、洋楽でポピュラーな作曲方式である
次に途中で唱われる久保田早紀「異邦人」 前年の昭和54年 邦楽スタンダードであるAメロ→Bメロ(ブリッジ)→サビ だ しかし中東を思わせる音階スケールが異国情緒を誘うメランコリックな名曲である
両曲とも主役である元アイドルグループのボーカリストが唱い、そして小林武史、岩井俊二がフックアップさせた作品である
一寸前に、AV監督がドキュメンタリーを撮っていたと思いだし調べたが前身のアイドルグループだったが、クレジットにも所属グループ名が載っていたので関係しているようだ(未視聴)
或る意味、キワモノというか変則的売り方をしているグループということで余り世間一般(少なくても初老な自分には)届いておらず、どんなシンデレラなのか皆目検討もつかない しかし予告編のしつこいくらいのラッシュで大体あのハスキーボイスと絞るようなそして甘ったるい粘着音質に、おじさん2人は参ってしまったのかな?ま、2人だけでなくもっと大きなパワーと経済(権力)が動いているのか判らないが、音楽界の闇の部分を醸し出すイメージについつい光に誘われる蛾の如く観賞してみた
先に小説(監督執筆)が刊行されているそうだが未読 どうも広瀬すず演じる役の人物の背景が映画ではバッサリ切られているとの事で、その部分の重要性を訝しみつつだったが、総じて岩井節を感じつつ、壮大な数々の芸能人お歴々のカメオ出演なんていう祝祭的(ハレ)なイメージもありつつ、しかし東北大震災の(ケ)の部分をストーリーにコミットさせるバランスもみせている内容であった 今一番のドラマ起用依頼トップレベルの広瀬すず&黒木華を、時間と空間、登場人物の群像毎にクローズアップさせつつ、同じ行動を取らせる事でその繋がりを表現しようとする試みが明確に提示される構成である
その何本かあるシークエンスの中でも、やはり主人公姉(主役2役)のフィアンセと主人公とのセッション後の抱擁シーンにはガッツリ落涙してしまった
あのストーリー構成はさすが監督の力だなと しかし、どうも私の解釈と他のレビュアーさんとの見解が違っているようで、私の間違いだったかなと気付いてしまったのだ それが表題の台詞 あの台詞の意図は"別れる"決心を伝えようと捉えたのだが、反対の"一緒になる"が大勢のようだ
そうなると、レビュー冒頭の二曲の取り上げが全く意味を成さなくなる
「さよなら」を告げ、そして「只の通りすがり」というミーニングを心に残しながら、それでもあの未曾有の天変地異という運命を経て、その結論への悔恨と裏切った自分への責めが、医者の息子というボンボンから脱皮し、妹を引き取り、それでも大人の事情で引き裂かれてしまい孤立を生んでしまった自分に対する"赦し"と"贖罪"の咆吼の感情が集約されていたのではという考察は、もし違っていたらご指摘願いたい
とはいえ、主軸とすれば主演と高校時代に友達になった先輩の女性との成長譚であろう 一番成りたくなかった『女を使う』生き方だった筈が、その最右翼である『結婚詐欺』として生かざるを得ない転換は、学費の約束頓挫になった母親とパトロンの別れだけでは確かに空想が追いつかず、この辺りが小説で描かれているであろう だが、それは監督の意図が働いていると解釈するのだが、先程の感動パート以外はその他の部分、少しずつカタルシスをズラすようなシナリオや編集を敢えてしているのかなと
ラスト前ならば、あの西新宿公園ライブでは、警察の声や拡声器は消すべきだろうし、なによりも丸一曲あの代表曲をエモーショナルに映し出す事を優先すべきかなと・・・ 刺された自称マネージャー(色々な肩書きがあって迷うが(苦笑)の血だらけの歩みとのカットバックは幾らでも感情を高めやすい材料だったと思うのだが、それ程響かない というか響かせないように、それは冒頭の初めて路上ライブで電気を使ったマイクのハウリングを起させないように調整するかの如く、抑制を効かせた構成であろうとその理性を感じさせる内容である
それとは逆に、わざわざ地震の前に風呂に入らせて、下着姿を演出し、(自分の観方がおかしかったら撤回するが)どうも映像処理なのか本人の肉体改造なのか、腹の膨らみが感じ取れる後ろ横ショットを描いている部分に、少女愛的な性的倒錯を感じさせる印象も興味深い
全体的にキリスト教的な思想や実存的な哲学観も横たわっていて、奥行きの深さと闇の深さは岩井節の成せる技ではないだろうか 笑えないコントも必要であり、泣けないヒューマンドラマも又必要なのである
「揺れてない」に関しては、自分も"一緒になる"側です。
フミに語った「好きではなかった」も本心ながら、責任を取る覚悟を決めたのかな、と。
(「頭とお腹を守れ」とも言ってましたし)
ただ、解釈は自由ですし、新しい見方を提示していただいたことに感謝です。
レイプ未遂シーンは、波田目がゲスの極みになりきれなかったのが個人的に好きです。
コメントありがとうございます。
輩グループってあのK1選手たちですよね、何でアップ映像?
イッコのくだり、監督の演出意図だったのでしょうが、せめてライブの見える所で息絶え?てほしかったです。
共感ありがとうございます。
ご自身でコメントされていたレイプ未遂の部分に共感しました。今作ではここが一番目を背けたくなる思いきったシーンでした。刺殺?のシーン、今日観たファスビンダー位ショッキングだったらなと思いました。
そういえば、ナミダメのシーンは、他のレビュアーさんも不評だったけど、それ程迫真に迫っていて、演じた松浦祐也の演技力の高さが担保されたといっても過言じゃないだろう
それと、先輩を救うためならばと諦めを吐露する主人公も、普通の作品ならば台詞が無いのだろうが、あそこまでト書き含めて表現させる監督のえげつなさの狂気を感じたシーンでもあった