「ずるいよな」キリエのうた ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
ずるいよな
岩井監督作品を劇場で観るのは初めてです。邦画で3時間近くある作品は久しぶりだな〜って感じです。原作は未読です。
これまた全然合わなかったです。何をどう伝えたかったのかが散漫でしたし、音楽映画としての良さをなぜか掻き消していましたし、絶対無くても良かったよなというシーンがこれまた盛りだくさんで、時系列もハチャメチャで観終わったあとには疲れたという感想しか出てきませんでした。
歌う事以外はあまり喋れないキリエが石巻・大阪・帯広・東京と4つの地域でどう生きてきたのかを路上ライブなどを交えて描くヒューマンドラマです。予告やあらすじの時点では路上からライブハウスなどのステージに立つために躍進するTHE・音楽映画なのかなと思って3時間観ましたが、そう簡単にはいかせてくれないと。
3.11を真っ向から描く作品と、3.11からどうやって復興していくかを描く作品がありますが、たまにそれを悲しみのバックボーンにするだけして、物語に特に活かさない作品があるんですが、今作は例に漏れずそれだったと思います。
パート的には石巻と大阪が3.11に関連のあるシーンになっているんですが、妊娠してしまった姉キリエの出産の有無と夏彦の進学やらを描くなら別に3.11を絡ませる必要性は無いと思いましたし、そこまで多くないとはいえ震災の描写を入れるなら事前に告知するべきだよなとそこんとこの管理の甘さは目につきました。
大阪のパートの先生とる花の交流シーンだけ観ると先生良い人だなという印象なんですが、それ以上もそれ以下も何も無く、ここ別に全カットでも物語上成立するよなと思ってしまいました。黒木華さんの表情や声は本当に優しくて癒されました。
イッコがあれだけ女を売りにする仕事を嫌がっていたのに結婚詐欺を生業にしたきっかけもバックボーンも描かれないので、ただのクズニートじゃんという印象が拭えませんでした。
学生時代はこの人に支えられたからこそというのが強く分かるんですが、大人になって出会ったイッコが何か一歩踏み出すきっかけを与えたかといわれると全然与えてなかったよなってところに着地しました。どうせならイッコとキリエの物語に絞って映画を作ればまだまともになったんじゃないかなと思いました。
ミュージシャンやプロデューサーの役者陣も謎に豪華なんですが、それぞれがフラッと現れては合流してあれよあれよの内に大所帯になってしまったので一体どういうポジションでそれぞれ演じているのかが完全に行方不明でした。人脈で呼べるだけ呼んでわちゃわちゃしたかったんだろうなというのが目に見えてうざったかったです。
最後の路上主義フェスのシーンなんかもうお笑いやってんのかなってくらいにはふざけ散らかしていました。そもそも許可取ってるかどうか分からない、許可証くらい自分で管理しとけよとイラッとしましたし、人集まってるから辞められないとか抜かす主催者をはっ倒したくなりましたし、もう思いっきり爆音で演奏し出しますし、警察の注意喚起と歌が混ざり合ってすごいノイズになっていました。何でこんな訳のわからないフェスをラストシーンにしてしまったのか、これが分からないです。
イッコが刺されるシーンも多分結婚詐欺で騙された人が恨みで刺したんだと思うんですが、何でたまたま路上にスタンバイしていてイッコと気づいたから襲った、というか何でナイフを携帯してるのかとか、武尊さんが4人に分裂した状態でハゲチャビンをとっ捕まえる&イッコを助ける役だけのために出演したのかとかもうツッコミどころしがないシーンでした。花束が飛び散っていくシーンも見せ場なんだとは思うんですが、もうつまらないコメディを見せられているようにしか思えませんでした。
とても個人的な意見になってしまうのですが、アイナ・ジ・エンドの歌はBiSHの中での変化としては最高だったんですが、ソロともなると個性的で声もすげぇ出てるなとは思うんですが、映画としての役や立ち回りにこの声は合わないなと思いました。
お世辞にも上手というよりかは個性的が際立ってしまい、叫び声がメインな時は耳を塞いでしまいましたし、る花が子供時代はとても伸びやかな歌声で歌っていたのに、大人になったらこんな個性を突き詰めてしまったんだろうと、一人二役の障害がガッツリ出ていたなと思いました。
アーティストが映画やドラマに出演する際に下着になるシーンが映った時なんかはかなりゲンナリします。原作にあったならしょうがないんですが、性行為のシーンがあるなと思った瞬間に息が詰まってしまいました。ゲス極のほな・いこかさんも作中でヌードになった時ショックだったので、ステージ上の彼女たちが強く残ってるからこそ、こういう役をやられるのはあまり嬉しくないなと思いました。こればっかりは岩井監督の性癖爆発だろうなって感じでした。ただ3.11の時に果たしてそれは必要だったのかというところを問いただしたいです。
歌唱シーンが多いのはまぁ音楽映画だもんなって事で片付けられるんですが、いかんせんカバーが多すぎるのは問題大有りだなと思いました。カバーを何回も聞かされても感動する事はありませんし、前半なんてそればっかなので飽き飽きしていましたが、いざオリジナルが始まったと思ったら同じ曲ばっかやるのでこれまた飽きます。もう少し変化を加えてくれたら良かったのにと何度も思ってしまいました。
あと粗品ことサザンカが言い出した外でのリハはどこか小さなハコを借りてやるのかと思ったら屋外であの大人数でやるなんて迷惑じゃない?と疑問に思ってしまい、きっとあれも許可取ってないでしょうし綺麗事のように描かれていましたがかなりモヤモヤしました。
強いて良かったところを挙げるとすると映像や撮り方がとても好みだったのと、子役の子の伸び伸びとした歌声とエンドロールの淡い感じは良かったです。それ以外はどこか引っかかるものが満載でした。
3時間かけて一体何を語りたかったのか、それともハナからアイナ・ジ・エンドの長長長編MVを撮りたかったのか、映画としてはまとまりのないものになっていてかなり辛かったです。監督の変態っぷりもしっかり滲み出ていて、それもあって次回作があっても観るかどうかはかなり躊躇ってしまいます。モヤモヤしたまま劇場を出たのでまだムズムズしています。ムズムズ。
鑑賞日 10/13
鑑賞時間 16:30〜19:40
座席 A-1