「共に歩む」青いカフタンの仕立て屋 ニコラスさんの映画レビュー(感想・評価)
共に歩む
予告編を見て抱いたのはハリムとユセフのめくるめく世界を描くのかな?だったのですが、良い方向に裏切られました。ミナとハリムの関係をどう言えばよいのだろうと考えたのですが、共に「過ごす」でも「暮らす」でもない。かと言って「生きる」もちょっと違うような、二人の間に愛は存在しているのですが、互いに心の中にしまっている何かがあって、それをぶちまけてしまうと破綻してしまうから言わずにいる、それでもリスペクトし、いたわり合う。
そして、今までは頑なに若い弟子が入ってきても「すぐに出て行ってしまうよ」と告げていたミナですが、ユセフの飾らない真っ直ぐな人間性に気付き、ハリムがこれから共に歩む相手と認めたところから3人がとても素敵な間柄になり得たように思いました。
最後まで台詞が少ないままでしたが、メインの3人は瞳に誠実さ・優しさが表れていて(時には失意や怒りも)善き人がそこに立っているのだということがビンビン伝わってきました。
それにしてもカフタンのなんと美しいこと!生地からして美しいのに、そこに人の手が入るともう宝石のようです。ペルシャ絨毯もそうですが、彼の地方の手仕事は素晴らしいですね、まさに一生モノ、一度はこの目でそして手に触れてみたい。
カフタンを作るハリムとユセフの手の動きや所作も綺麗でしたが、ミナが祈りを唱えるときに動く人差し指はまるで宙にあるカフタンに刺繍を施しているかのようで印象的でした。
人生独りじゃないよ、共に歩む人の存在は心を豊かにしてくれるのだよと再認識させらられる、そんな良作に巡り会えました。
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