PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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分からないのに感動!なんだか感謝。
テーマがあるのか、メッセージがあるのか、夢の映像の意味とか、いろいろ分からずに淡々と進んで行くんだけど、ちょっとした揺らぎに目が離せなくて、主人公が聴く曲、読む本が気になって仕方なくなってしまう。どんな映画かって説明出来る程の物語もないけど、少ないセリフが、きっと鑑賞者それぞれの境遇によって違う刺さり方をするはず。私のようなオーバー50はそれが多いので感動が大きい。なんか美しい映像もあって映画らしい映画を堪能させていただきました。年の瀬にいい物見せてもらって感謝です。
つまんないけど、悪くないドキュメンタリー
置かれた場所で咲くことの幸せ
反復への愛
本作で、第76回カンヌ国際映画祭
最優秀男優賞に輝いた役所さん。
そのニュースを聞いた時から本当に楽しみにしていました!
ヴェンダース監督は勿論、役所さんの大ファンです!
客席も結構埋まっていて嬉しかったです
(誰?w)
東京でトイレ清掃員として働く平山
(役所さん)
毎日同じルーティンをこなし生活している。
朝まだ薄暗い時間、老女が掃除する竹ぼうきの音で目を覚ます。
布団を畳み、歯を磨き、髭を剃る。
植物に水をやり作業着に着替えて、鍵、小銭、ガラケー、フィルムカメラを持って家を出る。少し空を見る。
自販機でコーヒー(BOSS笑)を買う。
車に乗り込みいつもの角でカセットをセットし仕事場へ。。
いくつかの公衆トイレを丁寧に掃除し、昼は神社の一角のベンチでサンドウィッチと牛乳。
カメラで木々の木漏れ日を一枚撮影。
仕事を終えて自転車で銭湯の一番風呂。
その後は駅地下の居酒屋で一杯。
長居はせず、家に戻り、眠りにつく寸前まで本を読む。
休日は部屋の掃除とコインランドリー。写真の現像と古本屋。そして特別な居酒屋へ。
ママ(さゆりさん)が素敵(^。^)
そんな毎日の繰り返し。。
何だろ、見ていてね。
や!!パーフェクトデイズじゃん!!って思ったね!!
平山の淡々とした毎日が愛おしく思えた。
小さな幸せに溢れていて、平山は自分で自分を幸せにする達人だと思った。
平山は古いアパートに1人で住んでいて、質素に暮らしている。
しかし、多くを持たなくとも、不幸には見えない。むしろ、好きな本、写真、植物に囲まれて幸せそうだ。
彼にとって大切な物を慈しみながら丁寧に生きているのが伝わってくる。
そんな彼の生活に他者の起こす小さな波紋が可笑しみやスパイスをもたらすのだけれど、平山は流される事なく、近づけず、近寄らずな距離で自分を保つ。
しかし他人に無関心と言う訳ではなく、チャーミングな面も見られた。
毎日同じようで同じ日は1日もない。
同じ場所から撮る木漏れ日も、1枚として同じに写る事はないのと同じだ。
日が変わる描写として、眠る前に映し出される木漏れ日に重なり、今日1日の中で、彼の心に残ったのであろうシーンが混ざり合う。
このモノクロの印象的なカットが繰り返されるのも興味深い。
平山の過去。
ニコや妹との少しの描写で、多くは語られないが、彼にも手に入れられなかった何か、手放した何かがあったのだろうと想像が膨らんだ。
そしてあのラストに繋がるのだから参ってしまった!!
(彼が選んだ古本は、ウォークナーだったり、パトリシアハイスミスだったり、幸田文だったり。。
博学そうなチョイスで、社会的地位の高い人物だったのではないかと思った。)
東京の描かれ方もステキだった。
アングルが美しい!
スカイツリーをメインに、首都高の複雑な曲線だったり、主役?の都内の様々なオシャレトイレも見所。
私も2箇所利用した事がありました!
(ちょっと良くわからなかった所。
ルーリードは良く知らないが、
パティスミス「Redondo Beach」って!この曲、ポップなレゲエみたいな変な曲だと思っていて、歌詞だって、レズビアンのカップルの1人が自殺するって曲〜!!
ど〜ゆう意味で使ったのかな( ᐛ )
色々書いておきたいのだけど、文才が無さすぎます(°▽°)
役所さん。多くを語らずとも平山に命を吹き込む演技が素晴らしい!
大きな出来事は起こらないのだけれど、グイグイ引き込まれていきました。
久しぶりに興奮してしまった。
仕事に対する考え方や、人生観や価値観までも変わってしまうような作品でした。
「今度は今度、今は今」って良いね♪
脇も個性派の役者さんを贅沢に使っていて驚いた!
あれ?もしかして?◯さんだった?!エンドクレジットで確認。キャットレディだってよwやっぱそうだったw
そしてタカシ(時生)は、
10段階で9!の割合でお金返さないと思う〜笑
ワンオペ確実の冬休み前に、凄い作品を観られました。がんばれそう。
2月のエリセの新作も楽しみだな〜♪
それでもいいんだ。
平山の歳は知らないが役所さんとは2歳違いである。私もおひとり様である。日々黙々とルーティンをこなしている。休日は一言も発しない日もよくある。
私にもささやかなお楽しみはある。映画もそうだし、簡易ジムではひたすら音楽を聴いている。車での移動の時も。
綺麗な景色を見れば幸せだと感じる。
ただ私は平山のような境地にはなれていない。焦っている。人生の最後が刻々と近づいてるのに結果が出てない気がする。私は何をしてきたのかなぁ。
病気になったら働けなくなったらの経済的不安につきまとわれている。
劇中三浦友和が言う。「わからないまま終わるのかなあ」みたいなこと。ああ、みんなそうなんだ。すごく楽になった。
あと楽曲がすごく良かった。プレイレスト作ったけど、誰か全てわかる人教えてください。
11の物語はどこも品切れでした。
ルーティン
とても綺麗な映像に感動しました
自分には合わなかった
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 「東京物語」ならぬ「東京便所物語」。判で押した様に同じ毎日を繰り返していけることが“PERFECT DAYS” という事なんでしょうね。
①石川さゆりも老けましたねえ(確か同い年)。石川さゆりの唄う「朝日のあたる家」も良いけれど、ここはやはり“ちあきなおみ”で聴きたかったねぇ、ちあきなおみバージョンを聴いてしまうと後は全て二番煎じに思えてしまうもの。
②出来れば役所広司のループの様な毎日(蒲団を畳む→水をやる→缶コーヒーを買う→トイレ掃除をする→近くの神社でサンドイッチを食べ写真を撮る→トイレ掃除をする→帰って銭湯に入る→駅側の居酒屋で晩飯を取る→文庫本を読んで寝る)(休みの日にはコインランドリーに行って、古本屋で文庫本を買って、石川さゆりがママをしているクラブに行って)を淡々と延々と描いてくれた方が良かった気もする。
③基本的に誰でも毎日ほぼ同じことを繰り返して生きているわけで、ただ生活パターンは同じことの繰り返しでも、勿論内面では色んな事が心に寄せては返し寄せては返ししている。見るもの遇うものに対して色んな感情がわくし、来し方行く末にも想いを馳せつつ、新しい一日を迎え、また同じ様にその日を生きていく。
役所広司扮する主人公もまさに同じで、ただ映画にするからには、この男にはどんな過去があって、どうして現在の境遇になったのかを知りたい気もするし、普通ならそこを突っ込んで描くだろう。
でも全て想像に任せるというのも一つの映画の形として良いと思う。
④良い奴のようで結局チャラい無責任男だった柄本時生のエピソードや家出した姪と数日暮らすエピソードはまだ良いとして、三浦友和のエピソードは無いかもっと別の形であった方が良かった。
仄かに好意を寄せている女性が知らない男を抱擁している姿にショックを受けて自棄酒を呑んでいるところへ件の男が現れ、実は別れた夫で癌で余命が少ないのが分かったため永遠の別れの前にせめてもう一度別れた妻に会いたかった、という在り来りな設定が映画の底を浅くしたようにも思う。
⑤独り身で生きているけれども、日々出逢う色んな事柄に対して微笑み、笑い、怒り、悲しむ、色んな想いを抱え、でも好きなもの(木、葉、木漏れ日の写真、読書)をやりながらルーティンの様に日々を過ごしている姿に、僭越ながらまるで自分の事を描いてくれている様な錯覚に陥るくらい共感してしまった(特に前半)。
だから、自分にはあまり起こりそうにないエピソードが続く後半に違和感を覚えたのかもしれない。
⑥主人公を極めて寡黙な人間と設定したのが良い。
ラスト、延々と映される役所広司のアップの表情が、ここまで生きてきた、そして今こうして生きているこの男の内面を何より饒舌に語っていたから。(後付けで知った事:バックで流れていたのはニーナ・シモンの「feelin ' good」という曲。歌詞がシンプルだけどすごく良い。主人公が朝を迎える気持ち・日々を過ごす気持ちにピッタリあっている。)
⑦様々に表情を変えるスカイツリーが頻繁に出てくるし、登場する女の子の姿なんかを見ていると確かに令和の話なんだけれども、地方人だからかも知れないが、令和の東京にあんなに昭和が残っているのに少々驚いてしまった。
特に銭湯のシーン。懐かし~です。まだ日のあるうちに湯煙の立つ風呂場に入った時の、あの大きな窓から差し込む日光。
(役所広司の衰えた裸に少々ショック。でも歳を考えたら当たり前か)
ただ、子供が沢山遊んでいる公園にホームレスを住まわせておくかなァ、とあそこだけ?だったけど(大阪でももう見ない光景…)
⑧三浦友和は髪を染めているの丸分かりでしたね。
その他、神社で猫と戯れていた老婆が研ナオコ、昼飯にサンドイッチを食べる役所広司の隣のベンチで同じように昼食を取っているOL、銭湯の二人の常連の老人、写真屋(これも昭~和)の店主、役所広司が常連の居酒屋の店主、早朝に箒で道を掃いている老婆等々、点描される人々も面白い。
⑨この映画を観た人は今後トイレをもっとキレイに使おうと思うでしょうね。
⑩60年代・70年代のカセットテープにあんな高値がつくとはビックリ。
私は恥ずかしながら今やスマホでSpotify を聴いておりますが、昔のカセットは捨てずに結構持ってます。老後の生活に困ったら売ろうかな。
⑪久しぶりにヴァン・モリソンを聴きたくなった。
今度は今度。今は今。
感想
久しぶりに
ヴェンダースの国際興行作品を鑑賞した。やはり、監督はモノクロームの映像表現が秀逸であるのだという事を再認識させられた。
但し、今回は現代日本と日本人が主人公なので色彩美や、個性的な建築群、また東京の風景を表現するには鮮やかさが不可欠であり、旅という視点からも印象的となるカラーを選択したのだろう。
だか、監督において、事の発想と映像化の基本路線はモノクロームが主体でありまた、テーマは様々な世界で生きている多様な人そのものであり、人間模様を旅として表現している事は首尾一貫している。
監督の変わらない視点にいつのどの時代の作品も感動を与えられた。今回も人間模様の旅をしている雰囲気を充分に感じることができた。
また、アジアにしか生息していない銀杏や楓の木漏れ日を主人公は好んで白黒写真に収めており、光と影の描写が、作品のいたるところに表現されていてとても感動した。
『自由』の表現と捉え方
『さすらい』ではヒッピームーブメントの名残りとモラトリアム的自由の表現が主体であったと思う。
『ベルリン天使の詩』で全ての、あらゆる、天上界、人間界を含むあらゆる世界で生きる人々が想う『自由』を映像表現し、時に世界を複雑化させる原因が『自由』である事を考えさせられた。思考も表現も成長してそれぞれの立場、世界が理解できるようになったのだ。
今回の映画では日本人が基本的に持ち合わせている信念の中にある、単なる勝手な『自由』ではない、規律を持ち合わせた『自由』をよく表現している。
多くを語らず信念を持ち、規律を苦とせず、持ち合わせて自分なりの『自由』を謳歌している主人公。
彼の生き方はむしろ時代遅れの感が如実に出ているが、ここには監督なりの人生觀のような、『生き方を常に新しくしなくても良い。温故知新の文明で人は充分に事が足り、むしろ変えなくて良いのだ。』という信仰の様な、敬虔とも言える信念を感じる。
日本人の中には新し物好きで、常に革新を求めて動くという世界観を持った人達が少なからずいて、その様な人達が現代の東京を創った。
その人達の事もリスペクトしながら、監督は温故知新を大切にする日本人も、多いのだという事を今回の作品で教えてくれたような気がする。
よく日本人を理解してなければ、ここまでの映像表現はできない。勿論、役所さんの名演も含めて。
当たり前のように今を生きることがいかに大切な事で、世界でも貴重な事であることが簡単に理解できる。というところで、
⭐️5
2023年度 新作自己最高評価となった。
目に入っても目に止まらない、知らない世界から
世界のあり方が変わったコロナ禍を経験した私たちにならわかる"現代人が忘れがちなもの"を大事に大事に拾い集めるような2020年代の人生讃歌
今度は今度、今は今…何も変わんないなんて、そんなバカな話ないですよ!例えば音楽をカセットで聴いたり、古本屋で買った本を読んだり、いつきけのお店で飲んだり、仕事終わり銭湯に行ったり -- 都度一つ一つのことに時間を使っては(自分は割と"ながら"で並行しがち) -- そんな何気ない日常の大切さをふと思い出させられる。
一周回って"エモい"と"クサい"=(思ったより)いかにも普通の劇映画っぽさを交えつつ懐かしさと新鮮さ、温故知新に我々が忘れてしまったもの。一日一日、一瞬一瞬を大事に生きると生き生きと色づき始める世界。見慣れた景色も途端に変わってくる。目を向け、耳を傾けると見えてくるものをトイレ清掃員の平山が教えてくれる。忙しない現代社会から切り離された、規則正しい生活を送る平山。一見同じ日々、そのくりかえしの中にも差異を伴う反復があって、役所広司さんの(なかなか一言目を発さないセリフの少ない)完璧な演技と佇まいがその機微を掬い取るよう。毎朝、家を出た瞬間に空を見上げる表情や、スカイツリーを見上げる仕草、昼休憩のときに写真を撮る様子、そのどれもが愛しい。
その中でも飽きさせない作り・仕掛けもあって、笑えることもあったけど、そうした海外の人から見た"らしさ"こそ、むしろこういう作品の成り立ちそのもので存在意義とも感じる。中でもルー・リード、パティ・スミス、ヴァン・モリソン…など、朝焼けと名盤カセットの相性の良さ。個人的にも好きなラインナップで、音楽の趣味が最高にツボ・ハマる主人公。従来のヴィム・ヴェンダース作品同様、鼻につく人もいると思うけど、ただ本作の"なんちゃって日本"が鳴りを潜めて、私たちの知る日常風景の中で淡々と、そして丁寧かつ繊細に紡がれるドラマは詩的で情緒豊か、かつ静かに胸を打つものがあった。しっかりとした組み立て・構成があるから、途中少し脇道に逸れたように感じられても、それもまた人生だなと思えるように、最後には感情が溢れてくる。
欲やいっときの感情に踊らされるのでなく、自分ももっとちゃんと生きたいなと。柄本時生の役柄にムカついたけど、そんな感情もまたくだらない。田中泯さんには無論踊らせる。今この一瞬あなたは本当に"生きてる"と胸を張って言えますか?
The Tokyo Toilet
おつかれさん!
木漏れ日
勝手に関連作品『すばらしき世界』『ベルリン・天使の詩』
さすが役所広司さん
ミニマルな中のちょっとした悲しみとささやかな幸せ
おじさんたちの心優しさと、さり気ない繋がりが微笑ましい。
常連同士のアイコンタクトがある生活空間が懐かしい。
外国人監督には微細な日本人の心を写し出すのは難しいだろうことが見える。
何といっても役所さんの顔がデカい!
あの派手で彫りの深い顔は外人だわ。
しかも、カメラがより過ぎだなぁ
そして全ての所作に日本的ミニマリストしての心在らずで忙しない。
唯一楽しめたのは、
三浦友和と影を重ねると濃くなるのか?
の問いに、
西洋絵画と日本画と墨絵の謎々を影踏みで戯れたところは愉快だった。
ならば、
肝心の木漏れ日や早朝の空気、
朝日に雲間の陽光のいい情景があってもいいようだが、
ターナー以下の景色しか映し出せないのは残念だ。
そして、あのカセットテープで昭和アナログを懐かしむのは良いが、
選曲と音量バランスが映像を更に酸化するようで、
なくてもいいのではない?
それに、
モノクロで映写した方が良かったのではないか!?
まあ、こんな不気味で違和感は、
全編に鎮座するあの新東京タワーと奇抜なトイレ群の奇妙さが時代の変遷を色濃く感じさせ象徴的ではあった。
何に充足を感じるかは、
野球と宗教は自由だと飲み屋のオヤジが怒鳴っていた。
敢えて言えば、
寡黙で大人しく、
兎小屋で盆栽いじりして、
薄ら笑いしている奇妙な日本人をよく撮っていた。
それで、平山さんは何をしでかして更生生活に入っているのだろうか?
( ̄∀ ̄)
PERFECT DAYS
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、
役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、
役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。
淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。
昔から聴き続けている音楽と、
休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、
人生は風に揺れる木のようでもあった。
そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。
そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。
東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、
世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、
東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。
共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。
カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。
no music no life
隙間なく密集した無機質なビル群の隙間の中をグルグルと駆け巡る首都高速と忙しなく先を急ぐクルマたち。
人と車が行き交うどこにでもあるような情景に時折り現れるスカイツリー。
昭和の雰囲気が漂う人情味に溢れる下町の日常。リアルな東京。そして彼の存在。
どんな人間に対してもあんなに優しい表情ができるなんて、自分にはとうてい出来ないな。
彼がこれまでどんな人生を歩んできたのかはわからない。
でも毎朝空を見上げた時に見せるあの優しい笑顔の表情から伝わって来る。
彼は自分で選んだ人生を一人で生きていく時間の流れを穏やかな心で愉しんでいる。
とても穏やかな映画でした。
彼の住んでいる町に行ってみたくなりました。
そこに行けば彼に会えそうな気がして。
彼は毎朝仕事に向かう時、慌てがちに玄関の扉を開け、
外に飛び出したと同時に空を見上げ笑顔を見せる。
朝の澄んだ空気を深呼吸。
体の中が清められるような感覚。
湧き上がる幸せな気持ち。
昨日の出来事やトラブルや悩みは浄化され清々しい気持ちでまた1日が始まる。
そしてあの笑顔。
自分もそんなふうになれたらなぁ…と思いました。
追記
昭和のウイスキーのCM のようなカットがあり役所広司にしか出せないあのシブさ。
あんなふうになれたらなぁ…とまた思ったのでした。
日本がもっと好きになる、優しく、重い映画
眠くなるだろうなあと思いながら、とても、楽しみにしていた。
予想通り、途中までセリフがほぼない映画だが、役所広司の表情、動き、すべてが物語っており、ぐっと惹かれた。
そうそう、日常でそんなにたくさん、話さないことのほうが多い。
外を眺めてみたり、なんとなく音楽流したり、(理想的な)日常そのものであり、インタビューのないドキュメンタリーのようだった。
そして、もう一つのメインである、トイレ。
透明なトイレは話題になったが、東京にいながらこんな独特なトイレがたくさんあることを知らなかった。トイレを観ているだけで楽しい。
新しいものと古いもの、変わるものと変わらないもの。その象徴である浅草周辺という舞台で見事に描かれている。
日本人にとっては、というか都会に住んでいる人にとっては、ニコの母のように、「こんなところ」という感覚だった。下町を意識することも薄かったがこうしてみるととても魅力的だ。
これは海外の人から観たPR的な日本として描かれているのかもしれないが、再認識させられる。
細かい日常と話さない平山の対比として、個性的な登場人物たちがさらに印象的にうつる。どれもほっこりするキャラクターで、微笑ましく観られる。
しかし途中から、変わらないようにする平山に、様々な変化が外から訪れる。その不穏さと儚さにこちらまで心のバランスが乱れてくる。
トイレの清掃という、どこかで社会の影と捉えている、自分に対しても何かを語りかけられている気がする。
それがラストシーンへとつながっていく。
静かな映画だけど、じわっと、ずしっと心に届く、映画だった。
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〈追記〉
パンフレットや様々な批評を見てから、2回目鑑賞。
世界観、空気感は個人的には刺さっており、何回でも観たいのは間違いないのだが、やはり綺麗な面しか見せていない、というのはひっかかる。
トイレにもたくさんのお金が注ぎ込まれ、東京都による壮大なグローバルまちおこしの一環であるのは否めない。
トイレ清掃員という労働階級とを扱いながら、問題提起が足りないのもあるし、恵まれている自分が満足してしまっているのに認識させられる。
映画の社会性というのを今一度考えてしまう。
2023年劇場鑑賞113,118本目
何で高評価?
観賞する前から、特に大したことは起こらない淡々とした内容の作品なのだろうとは予想していましたが、ここまでとは思いませんでした。私の感性がおかしいのだとは思いますが、何も伝わってくるものはありませんでした。
また、ただでさえエピソードが少ないのに、その少ないエピソードから響いてくるものは何もありませんでした。全くやる気のない相棒や売る気もないカセットテープを売りに行く場面、スナックの場面、三浦友和との場面など必要だったでしょうか?かえって無い方が良かったのではと思いました。いったいこの監督は何を撮りたかったのでしょうか?私には日本をよく知らない人が、神社、トイレ、自販機、銭湯、食堂、スナックなど、日本ぽい物を撮りたかっただけにしか見えませんでした。
それと、私の身勝手な憶測ですが、この作品の主人公のような生き方を良く思う方々は、仕事で毎日トイレ掃除をしたことがない人で、結局「隣の芝生は青い」のだと思います。
ヴェンダースの青
朝、主人公が整える口髭は、中年サラリーマン役の笠智衆の口髭そのものだった。もうそこで私は笑いをこらえることができなかった!この後も沢山笑った。泣かせるより笑わせる方が難しい。これは笑わせてくれる映画でした!
小津安二郎ラブの監督だけあって、
赤を意識してるな~と楽しかった。主人公が好きなお菓子の本店は鎌倉、紙袋は赤で店の名前も!でもこの映画では赤よりも青だった。青が主人公の世界を表す色、静かで透明で光を映し出す水、空、風、青々とした木々の葉、仕事着も普段着も青。「青騎士」の作品、例えばフランツ・マルクの絵画のように心を落ち着かせてくれる色。
音楽もよかった。あまり詳しくないジャンル&時代の音楽だったけれど、最初にカセットテープから流れたのは娼館の歌だった。ドキッとした。
畳、布団、箒、縦縞の柄の湯飲みを映してワーイ!と嬉しくなっている(と勝手に自分が想像する;小津映画小僧の)監督の顔が目に浮かぶようだった。
監督はドイツ人、言語は日本語で出演者もロケ地も日本のこの映画は邦画?洋画?そんなのどっちでもいい、いろんな世界があってそれが重なると味わいが濃くなって面白くなるよ、というメッセージなのかな。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は大好き。他作品は別に~、ですが見てよかったかな。とにかく役所広司はいい顔してます!
【"木漏れ日。”東京の公園の公衆トイレ清掃を生業とする男のルーティンな日々の中、小波の様に起こる出来事を静謐なトーンで描いた作品。人生の真なる豊かさとは何であるかを考えさせられる作品でもある。】
ー 今作の主人公である男の苗字は、平山である。
この時点で、今作を製作した小津安二郎監督作品を敬愛する、ヴィム・ベンダース監督の想いが伝わって来る。
そして、今作品の魅力は、”現代の平山”を演じた役所広司さんの抑制しつつも、確かなる演技である事を再認識した作品である。-
■男(役所広司)は、仕事のある日は早朝に近所の住人が箒で道路を掃く音で目覚め、”The Tokyo Toilet”と背中にロゴが入った青いつなぎを着て、玄関脇に置いた車の鍵、小銭(何故か時計はしない。彼は仕事のある日は体内リズムで時を感じるからであろう、と鑑賞中に思う。)を手に取り玄関を出て、空を見上げてから自販機で決まった銘柄の珈琲缶を買い、一口飲んでから気分に合わせて60年代ロックのカセットテープを流しながらミニバンを仕事場に走らせるのである。
◆感想
・冒頭、上記の仕草をした男が車内で掛けたカセットテープから流れる”朝日のあたる家”を聞いた途端に”この映画は面白いぞ!。”と確信する。
・更に別の日には”The Velvet Undergroundの”PALE BLUE EYES"を流しながら、男は公衆トイレに向かうのである。
ー 無茶苦茶、センスの良い選曲である。-
・男は公衆トイレに着くと、手際よく且つ丁寧に仕事をこなして行く。
ー 使用者が来ると、さっと作業を止め、外で待つ。その間に彼は木漏れ日や公園のルンペンの初老の男(田中泯)のゆったりとした踊りを楽し気に見ているのである。-
・男の相棒の若い男(柄本時生)は、スマホで話しながら清掃をしているが、彼はその姿を見ても咎めない。
・男の昼食はほぼ決まっていて、ある神社の境内のベンチで食を摂る。サンドイッチと飲み物。そして、男は胸ポケットに入れてある小型カメラで境内の木の葉の間からの”木漏れ日”を写真に撮り、時には木の根の近くに生えて来た小さな枝を、新聞紙で作った小箱に神社の宮司にアイコンタクトで許可を貰ってから移し替え、家に戻り育てている。
・男は仕事を陽が高いうちに終え、銭湯が開いた途端に暖簾を潜り、一番湯に浸かるのである。年輩の常連客に軽く会釈をする男。そして、行きつけの酒場でレモンチューハイを飲み、家に帰りフォークナーの小説を読みながら、寝落ちしていくのである。
ー 実に、豊饒な時間を過ごす男であると思う。-
・休日には、男は、”Lou Reed"の”Perfect Day"を部屋で寛ぎながら聞き、水に濡らした千切った新聞紙を部屋に撒き、埃を吸わせ手際よく掃除をする。
そして、平日には着けない時計を手首に嵌め、外に出る。
つなぎを始め洗濯物をコインランドリーで洗い、古本屋で幸田文の「木」の文庫本を購入し、行きつけの小料理屋でレモンチューハイを呷る。女将(石川さゆり)は何だか、男に好意を持っているらしい気配である。
ー 男が、自由な生活を楽しんでいる事が良く分かるシーンの数々である。-
■男のルーティン生活の中で起こる小波
1.相方の若い男が気にしているアヤ(アオイヤマダ)にパティ・スミスのカセットを気に入られ、車内で流す。アヤはそのカセットテープをそっと、袋に落として去る。
その後、若い男からアヤの店に行くため金をせびられ、一緒に中古レコード屋に行く。若い男は、男の所持品である60年代ロックのカセットテープを店の男に見せると、高額金額を提示され驚くが、男はカセットテープは売らず(そりゃそーだ!)、若い男に金を貸してやるのである。
そして、車で家に帰る途中にガス欠になり、男はカセットテープを持ち、橋の上を走って行く。彼がそのカセットテープを、中古レコード屋で売ったシーンは描かれない。
ー 観る側に、解釈を委ねるシーンである。男がどのカセットを手にしたのかが、妙に気になる・・。-
2.ある日、男がアパートに戻ると階段に女子中学生位の女の子が座っている。男は”ニコか!大きくなったな。”と嬉しそうに言い、彼女を家の中に入れるのである。
ー 最初は、ニコが男の娘かと思っていたが、妹(麻生祐未)の娘である事が、後のシーンで分かる。
序でにニコという名は”The Velvet Underground” のファーストアルバム”The Velvet Underground and Nico"から取ったのだろうと勝手に推測する。-
ニコは男の妹であり彼女の母と何か揉めて家出したらしいが、男は何も聞かない。ニコは男の所有するパトリシア・ハイスミスの”11の物語”を読み耽り、男と一緒に銭湯に行ったり(男はコッソリ、彼女の母に公衆電話から電話している。)男の仕事にも付いてくる。
或る晩、彼女の母が運転手付きの高級車で彼女を迎えに来る。ニコは”11の物語”を未だ読み切って居ない。特に”掌編すっぽん”の主人公の少年は私だよ!”と多少抵抗するが、素直に車に乗る。
そして、男の妹は”お父さんがもう・・。逢いに行ってあげて。”と言うが男は答えずに、涙を流し妹を抱きしめるのである・・。
3.休みの日、行きつけの小料理屋の扉が開いていて、男が覗くと女将と見知らぬ男(三浦友和)が抱き合っている。
男は慌てて自転車を漕いで店を離れ、コンビニでハイボール三本と煙草を買い、夜の川沿いで独り呑んでいると、女将と抱き合っていた男が現れる。
そしてその男は自分は癌であり、女将の元夫だと言って男から煙草を貰い、咽びながらハイボールも一缶貰い(元夫は、最初は固辞するが。)二人で影踏みをして遊ぶのである。
ー 女将の元夫が男に頭を下げて言った言葉。
”アイツを宜しくお願いいたします。”男は、”いや、そんな関係ではないんです。”と答える。
役所広司と三浦友和という邦画の名優二人の演技が光るシーンである。-
<今作は、ラストシーンも素晴らしい。
男は早朝、朝日が差す中、ミニバンを仕事場に向けて運転している。
男の顔は、笑顔でありながら涙が目尻に湧き、徐々に上記の色々な小波を思い出したのか、泣き笑いの表情になって行くのである。
正に役所広司さんの畢生の演技である。
今作は、”人生の真なる豊かさとは何であるか。”を観る側に考えさせる作品でもあるのである。>
<2023年12月22日 劇場で鑑賞>
<2023年12月29日 別劇場で再鑑賞:レビューも少し追記する。>
■依って、勝手ではあるが、評点を4.5から5.0に変更させて頂きます。
<2023年12月31日
あるレビュアーさんから御指摘を受け、一部修正しました。有難い事です。>
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