「清貧ではなく傷と疎外感の物語」PERFECT DAYS Katkatさんの映画レビュー(感想・評価)
清貧ではなく傷と疎外感の物語
まず「あ、ここ何か知ってる」な墨田の風景が味わい深くて嬉しくもあった。
「底辺生活(失礼 笑笑)でも日々に煌めきを見出して生きていければ素敵な日々さ」そういう映画だと思って観たのだったが全然違った。笑笑
まず印象的な選曲の効果。全部は分からなかったけど。アニマルズ、ヴェルベット・アンダーグラウンド、オーティス・レディング、パティ・スミスにルー・リード。ヴァン・モリソン、ニーナ・シモン、ストーンズにキンクス。
平山さんはちょっと知的に尖ったミュージシャンやブルージーなブリティッシュ・ロックなんかがお好み。彼がまだ向こうの世界(妹さんと同じ世界)にいた頃、すなわち社会人ではなく親の所属に庇護されていた頃、彼はインテリ系(ちょいとマニアック)が好む洋楽と、読書を愛する心優しい少年だったのだろうと推測される。
そして向こうの世界。ガラスが反射する大きなビル。大きな会社の経営者一族とかなんだろうな。権威主義的な父から当然のようにその経営の一翼を担うよう期待・強要され、優しさや繊細さを弱さと断罪されて育ったのだろう。
まぁ平山さん、高機能自閉症だよね。(作中にそんな名称は出てこないけど行動がそんな感じ)そして以前の世界では彼の特性を活かした居場所は与えられなかった。
初めモヤっとしたのよ。笑笑
「底辺生活」って勝手に思って観はじめたから。
え、都内(墨田区)で文化住宅式アパートとはいえ、この間取りでさらに軽自動車所有してる、って家賃駐車場だけで最低でも8万円以上はかかるよね。(まぁ職場からの何かがあるかもだけど。)浅草の福ちゃん(焼きそば屋)は飲み物とつまみと焼きそばで千円くらい、銭湯は500円くらい。んで缶コーヒーとコンビニ昼ご飯、それ毎日って結構エンゲル係数高くないか。
そして通いの小料理屋。まぁ2杯飲んで3千円くらいか。そう、貧乏の味方、自炊が一切描かれない(1回だけ仕方なくカップラーメン)ので、底辺的な生活感が全然ないのだ。いかん、現実経費がざっくり見えてしまうせいで余計な邪念が。笑笑
曰く、「もっと(経済的に)苦しい暮らししてる人大勢いる、これで“底辺”(清貧)描いてるつもりなら、ちょっと傲慢では」というモヤりが芽生えたのであった。
そして妹さんが運転手付きの高級車で乗り付けて来た時、それは誤解である事が判明した。
なるほど、異世界。平山さんを拒絶した、元いた世界と、彼が今生きる世界のお話なのだ、と。
タカシくん、ムカつきましたねぇ。もちろん役所さん素晴らしかったけど、柄本くんも天才。
でも彼、あんなんですがすごくフラットなんです。
タカシくんに懐いていた少年、彼ダウン症でしたが全然隔たりも偏りもなく平山さんに紹介していた。平山さんの事だって「仕事超できるけどちょっと変な人」としてありのまま受け入れてる。だから平山さんも、タカシくんはちょっとヒヤヒヤさせてこちらが被害被りそうなコなんだけど受け入れることができる。
そして単に、経済貧しくても心は豊かだゼ!って映画じゃないと気付く頃から、様々な痛みが押し寄せてくる。
あぁ、煌めきは内発なのに、痛みは全部外発で余計に哀しくて痛い。
主に、過去の傷も含めた拒絶される痛み。
タカシくんが退職した後の少年の痛み。(タカシくんはきっと気にもしていないだろう。)
自分の属性だと思っていた人の知らない面を知り疎外感を感じる痛み。
死を知る痛み。
日々、ちょっとした煌めきと痛みがない混ぜになって押し寄せる。
そんなない混ぜを感じられる機微を持つ日常こそが、人間として完璧な日々なんだろう、と。
あの何ともいえないラストの表情はそんなない混ぜの表情だ。
あぁ、平山さんTheWhoは聴かないのか。
TheWhoこそそんな自我と疎外感の在り方を拗らしたモノどもに訴える歌詞なんだゼ。笑笑
それにしても役所さんの表情素晴らしかったね。
平山さんは基本温厚で油断すると微笑む人だけど、その微笑みにも喜びやら悲喜混じりやら気まずさやら、様々なない混ぜが感じられるよう演じ分けられていた。
これは観る人の価値観や住んでいる世界によって、様々な感想が生まれる映画だろうなぁ。
日本には階級こそないけれど。収入、社会的地位、趣味的な事項に関する承認とか、その人それぞれの世界と異世界が存在する。
そしてそんな異世界に傷付いているかいないかで、平山さんの見え方は変わるだろう。
情景描写として惜しかったのは、職場のトイレが綺麗すぎた事だな。
そのせいで、物語やテーマに無関係な「何かいけすかない」感が助長されていた。笑
あ!もう1コ。
平山さんの頬にチュッ、は「ないわー!」と思った。欧米なら恋愛未満の好意の表現に有効な演出だけど、日本人の女の子は絶対やんないよね。笑笑
ヴェンダース監督に「それはないっす」って言ってあげる人はいなかったのだろうか。笑笑
あ、さらにもう1コ。
これはまぁ、どうでもいいっちゃいいけど、突然現出した姪っ子用の自転車。え?買った?どっから持ってきた???って思った。笑笑
ちなみに曲的には、ルー・リードの「Perfect Day」は「何をしても“君と過ごすと”パーフェクトな1日だ」という内容なので、映画から受ける主題的にはルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」の方が近い。近いというかまんま。と思ったのでした。
ちなみに、姪っ子がニコちゃんで、作中にもヴェルベット・アンダーグラウンドの曲鳴ったし、ひょっとしてルー・リード好きすぎて、この曲(Perfect Day)が好きすぎて合う映像撮りたかっただけちゃうんか?とも思ったりした。笑笑
