「平山さんのまなざし」PERFECT DAYS humさんの映画レビュー(感想・評価)
平山さんのまなざし
平山さんは、ほころぶような眼差しでその時々の木漏れ日をみつめる。
そしておなじ眼差しで向き合う人の後ろにある景色を感じ〝おもんぱかる〟。
報われなさや理不尽さにでくわしても、ゆるやかに舵を切り自分を整えていくことができる彼の言動をみるにつけ、さらりとおとしこまれたその様子はこの言葉がぴったりだと思った。
そんな平山さんが大切にしてるルーティンがまわらぬ程の限界に来たとき、初めて怒りの感情をみせたので少し驚いた。
でもそれは必要な対処を求めるためのものだとすぐわかったし、みえた一面の人間らしさに妙に安心もした。
それに、きっと彼は個人を怨んだりせず、尾をひいたりもしないと信じることができた。
どうしてもしまえない尾がただひとつゆらゆらと惑わすことがあったのを知るまでは。
いつの間にか建物がとり壊されていた町の一角。
そこを通る老人のある言葉を耳にした平山さんの一瞬の表情の変化を思い出す。
あの時の平山さんは、人はいつか忘れていくことで終われることがあると感じたのではないだろうか。
その一方で、我が身の老いも感じつつ、まだ暫くの間はそこまで辿りつけずに付き合っていく時間のことも。
彼にとって、更地をぴんぴんに覆う新しいブルーシートの冷たい硬さは、二度と港に戻らないと決めた小舟が漂う海原の孤独の厳しさに似ていたかもしれない。
そして、姪っ子との会話にある軽さの分だけ裏側に潜む重み。実父について語る妹を別れ際にあんなふうに抱きしめた意味。迎えの車内で姪っ子が感じとったはずのその夜の闇より深いもの。
再びで最後になろう決意が伝わり、みえてきた翳りで不安が増すと淡々と繰り返す実直な日常に身近な喜びを見出せる彼の暮らしぶりとは真逆の内なるものが、大小の波に打ち寄せられ辿り着く流木のようにあらわれた。
まばゆい朝焼けを真正面から浴びる運転席でのシーンだ。
余程の悲哀を味わいつくし余程の精神で越えてきたであろう姿がまだその最中(さなか)をたったひとりのまま生きようとしていた。
描かれてこなかった人生やまつわる覚悟、なぜ平山さんがそうあるのかが手にしたカードが埋めていくように私を捕えていく。
そして、真逆の内なるものも平山さんのまさに一部であることを痛感し、〝おもんぱかる〟あのまなざしを思い出した。
思えば誰しもが違う立場でなにかを抱えていた。
無常のなかを揺れ動く人の心でもがきながら生きていた。
平山さんはきっと今夜も読書をしながらうとうとと残像に追われ浅い眠りにつき、箒が道を擦る音で目覚める明日のはじまりにも空を見上げ柔らかに微笑んで一歩を踏み出す。
それから玄関で握りしめた小銭で買う缶コーヒーを啜り、お気に入りのカセットテープの粗くあたたかい音を味わいながら、スマートにそびえる無機質なスカイツリーを右横に流して朝一の持ち場へと向かう。
いつかその時がくるまで彼らしいそんなPERFECTDAYSを重ね続けるのだろう。
物質的なものでは決して満たされないことを嫌というほど知っている彼が折り合うと決めた生き様が映るまなざし。
それが、羨望と敬意が混在する小さな染みをはっきりとこの胸にのこしていった理由をみつめている。
修正.追加済み
humさま
コメントありがとうございます。よろしくお願いします。
humさんの詩的ですてきなレビューを拝見してPerfect daysの意味について考えさせられました。
印象に残る映画でした。
こんばんは♪
共感とコメントしていただきましてありがとうございました😊
いつもながらの流れるようなレビューですね。平山さんの仕事は決してそんなんじゃないのに。だから、その心生き方姿勢眼差し、それらが違うのかな?
役所広司さんの撮影直前、誰かが先にお掃除するのでしょうね。
本作、それが気になって気になって、裏話とか知りたいです🦁
今気づきました。3/1に自分のレビューのところにコメントしていました。
失礼いたしました💦🦁
共感&コメントありがとうございます。
返信遅れて、すみません。
台詞が少なく、主人公の過去についても多くを語らないので、
様々な解釈ができる作品でした。
humさんが詩的なレビューで綴ら有れている様に、平山の生き方は、煩悩、物欲多き私のような者には辿り着くことができない精神的に充実した世界でした。
本作は、敢えて、冒頭、前半に、平山の理想の生き方を描きます。
後半で、その生活の乱れを描きます。主人公の過去を垣間見せます。
過去の地位、名誉、財力などの物質的豊かさを完全に捨て去って、平山は精神的豊かさを求めます。精神的豊かさに賭けます。それでも波風は立ち、平山は必死でルーティンを守ろうとします。
極めるという観点で考えるなら、物質的豊かさと精神的豊かさを両立させることはできません。二者択一です。選んだとしても、豊さを守る戦いは生涯続くのですよ。ああなれたら良いななんて甘い気持では長続きしません。その覚悟がありますか?
前半⇒後半⇒終盤というストーリー展開から、本作は、究めることの厳しさと覚悟を静かに問いかけているのだと感じました。
では、また共感作で。
ー以上ー
hum様、共感ならびにコメントをいただきましてありがとうございます。
劇場にて購入したパンフレットに平山さんが聴いていた音楽や読んでいた書物紹介がありましたので、機会をつくってそれらに触れてみて平山気分を追想してみようと思います。
大分時間が経ちましたが、humさんのレビューで映画の余韻をしみじみ味わっています。
更地に以前何があったか思い出せないシーン、私は忘れ去られる寂しさを感じましたが、humさんの解釈はとても素敵です。
コメントいただきました妹をハグの件ですが、久々に会った身なりの良い妹に、清掃員の仕事なんか、と言われたら、それが蔑みの言葉ではないとしても、私なら気後れして触れられないだろうと思いました。
humさん、コメントありがとうございます。迷子慣れしましたが母親の恐ろしい顔には慣れませんでした。
待乳山聖天へは浅草の「北めぐりん」という小型バスで行きました。浅草駅の次の停留所の名前が「花川戸」歌舞伎の助六に出てくる地名、その次の「隅田公園」を下車して直ぐの寺院です。いい日曜でした
共感とコメントありがとうございます。
humさんの美しい詩のレビューに感服です。(若い頃映画の感想を詩で表現しようとして挫折したことがあります)
人や自然を観察する達人の視点が、ヴェンダース監督の演出、撮影のカメラワークにありました。変化する大都市東京に住みながら、禅の達人のような平山さんの研ぎ澄まされたルーティン。同じことの繰り返しが、けしてつまらなくはないことを、私はクラシック音楽で知りました。リフレインには僅かな変化を楽しむ余裕が生まれます。平山さんも音楽を愛して、ルーティンの中のリフレインを楽しみに生きていると思いました。日常のなかのリフレインを慈しむ。そんな境地に至れば、その人なりに人生パーフェクトに過ごせるのかも知れませね。
もったいないような素敵なコメントを頂きありがとうございます!
humさんのレビューを拝読していると、いつまでも心にしまっておきたい、数々の名シーンがよみがえるようです。
コメントありがとうございます。美しい文章のレビューで映画の空気感が蘇りました。
元の姿が忘れられたブルーシートの跡地について言及されている部分で、あのシーンの解像度が上がりました。
平山さんは、日々の小さな悲喜こもごもで揺らぐ心をルーティンで守っているように見えました。だからルーティンが崩されると真剣に怒る(私の解釈ですが。電話口でのナーバスな口調から、昔もっと気を張る職場でバリバリ働いていたのかなと思ったり)。
ラストシーンの最初の笑顔も、そこまでの数日で大きく揺れた心を、強いて微笑むことでいつもの平穏に戻そうと頑張って笑っているように見えたりしました。
本当に素敵な作品でした。
コメントありがとうございます。
時生のあんな役は絶品です(^。^)
コラ!時生!w
ラストの平山さんの表情。訳もわからずにこちらも涙が溢れそう。感情が動く。今までの人生を走馬灯の様に見た気持ちになりました。
静かな作品なのにここまで心が揺さぶられるとは!不思議な作品でしたね。
間違いなく役所広司さんの佇まい、表情をはじめとする名演技が映画の格を一つも二つも上げてますよね‼️「名人、名人を知る」じゃないですが、それを引き出したヴェンダース監督の演出も素晴らしかったと思います‼️
humさん
共感&コメント&フォローいただきありがとうございます。
素敵なレビュー改めてじっくり読ませていただきました。本当に美しい平山さんの所作の数々。それを演じた役所さん、そして演出した監督に何とも言えない感慨を覚えます。
日本人に生まれてきたことを誇りに思える作品で、老若男女、国籍を問わず多くの方々に観てもらいたいです。
humさん
はじめまして☆
平山さんの眼差しについて素敵なレビューをありがとうございます!
平山さんの眼差しは、身の回りの全てに対して、特に人に対して優しくて温かいですよね♡
毎朝スカイツリーを見上げる眼差しがしみじみ良いなあ、、と感じました。あの眼差しがこの映画の全てを決めてる感じがして、共感しました☆
humさん、こんばんは
いつもながら、私には難しい詩的なレビューですが、わからない言葉の意味をひとつひとつググりながら拝読しました。ドイツ人のヴィム・ヴェンダースが真面目で謙虚で勤勉なひとりの日本人を役所広司で描いたこの映画の味わい。いいですね。他の外国人や現代の若い人には理解できないことかもしれませんね。最新技術を採り入れた前衛アートなトイレを掃除するのは初老のアナログ人間。humさんの空き地のシーンの心象表現がとても素晴らしいですね。私のレビューと少しも内容がまじわらないところは少し寂しいですが。
共感ありがとうございます。
この後の生についての想い、緻密な考察だと思いました。更地の下りなど結構見飛ばしてましたね。
仕事のシフトが崩壊寸前、最近自分も経験した事なので、平山の怒り、苛立ちよく解ります。