「心の平安=パーフェクトな日々」PERFECT DAYS 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
心の平安=パーフェクトな日々
【鑑賞のきっかけ】
本作品は、カンヌ映画祭で、主演の役所広司が主演男優賞を受賞したこと、監督がヴィム・ヴェンダースという著名な監督であったことで、劇場鑑賞して来ました。
【率直な感想】
<物語の概要>
本作品は、主人公の職業が、トイレの清掃作業ということで人目を引く部分があるかと思いますが、もうひとつ、この作品で強調されているのは、「こんなふうに生きていけたなら」というキャッチコピー。
つまり、主人公の平山は、一見すると、同じ繰り返しの日々を過ごしているが、彼にとっては、毎日が新しい日であり、幸せな毎日なのだ、と。
<彼の生活はリアルか?>
作品の舞台は、東京スカイツリーの立つ、東京・墨田区。
彼の変わらぬ日課のいくつかのうち、印象的なものは次のとおり。
1.仕事場に向かう自動車内で音楽を聴くこと
2.昼休みにコンビニで買った昼食を食べながら、風に揺れる葉に覆われた樹木をカメラで撮影すること
3.仕事が終わった後の入浴
4.帰宅後に、寝落ちするまで本を読むこと
この作品は、現代を舞台にしています。上記の行動は、毎日ではなくとも、日々の日常生活で行っているという方は多いことでしょう。
でも、その行動を支えている方法自体は、恐らく違っているかと思います。
1.音楽鑑賞→カセットテープに録音したもの(デジタルオーディオプレイヤーではない)
2.写真撮影→フィルムによる撮影(デジタルカメラやスマホではない)
3.入浴→銭湯を使用(内風呂ではない)
4.読書→古本屋で購入した紙の本(電子書籍ではない)
昭和の時代ならまだしも、令和の時代に、すべてが、平山の方法と同じという方は、まずいないのではないでしょうか。
<平山の日常の持つ意味>
平山は、スマホを持たず、家にはテレビもありません。
また、新聞を購読している気配もない。
一体、どうやって自分が暮らしている社会で起きている出来事に関する情報を得ているのでしょうか?
これは、彼の昭和のノスタルジックな生活と無縁ではないのかもしれません。
平山は、独身で、一人暮らしをしており、私は、本作品では、彼の肉親は登場しないものと思っていましたが、後半、どういう立場なのかは明かしませんが、ある肉親が登場します。
この肉親との会話から、平山は、昔から、清掃の仕事をしていたのではなく、何かの転機があって、今の生活に落ち着いたようです。
詳しい説明は作中にはありませんが、相当に辛い過去があるらしいことが想像されます。
そんな彼にとって、恐らく幼少期を過ごした昭和の時代のアイテムは、心の平安をもたらす重要な要素なのだと思います。
カセットテープから流れる古い音楽は、古き良き時代を想起させる。
フィルムで撮影された写真には、古き良き時代のぬくもりがある。
銭湯には、内風呂にはない、ゆったりと湯につかって疲れを癒やす効果がある。
古本の読書には、ページを繰るごとに、著者からのメッセージがマイルドに伝わってくる感触がある。
などなど。
【全体評価】
平山は、昭和のアイテムを使って、自分らしい日常を演出していますが、恐らくデジタルの環境でも、自分独自の日常を演出することは可能なような気がします。
なお、彼は一人暮らしで、無口だけれども、決して人間嫌いな訳ではなく、適度な距離を取った人間関係も築いています。
私生活・仕事・人間関係。
これらの要素をバランス良く、かつ淡々と過ごす平山の生き方には、豊かな人生を歩んでいくためのヒントが隠されているように感じられました。
みかずきです
悶さんの全体評価の概ね賛同します。
しかし、適度な人間関係については、本作の後半で、相棒の若手社員突然退社、想いを寄せ始めていたスナックのママさんには元夫が現れる、というように、相手あってのことなので、平山が考えている通りにはいかないですね。
このままならぬ人間関係と上手に向き合わうことが大切だと感じました。そうなれば、DAYSはLIFEになるのだと思います。
では、また共感作で。
ー以上ー