「下町ジモティーの喜び」PERFECT DAYS 周ちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
下町ジモティーの喜び
公開初日の鑑賞から既に二週間近く。年末年始に数本映画を観たけど、やはり本作の余韻が大きいので、あらためてレビューを書きます。
鑑賞前に見た予告編で「桜橋」やスカイツリーが出てくるので、渋谷のトイレプロジェクト絡みの話なのに何故?という疑問は映像を観始めて直ぐに氷解しました。常識的には毎日の首都高使っての車通勤は考えられないけど、ヴェンダース監督は下町と渋谷の対比で現代の東京を表現したかったのだね。
スカイツリーとの距離感や行きつけの銭湯「電気湯」が登場することから、平山さんの住所は墨田区押上3丁目近辺かと推測します(因みに私は2丁目)。帰宅後のルーティンとして電気湯の一番風呂に浸かり、桜橋を自転車で渡り、メトロ銀座線浅草駅改札横の焼きそば屋
でチューハイを嗜む日々。半径700㍍くらいの行動圏。休日のささやかな愉しみと云えば、古本屋での文庫本の仕込み(購入した本への女店主のひと言が至高)と裏観音辺りと思しきスナックでの一杯。さゆりママがリクエストで歌声を披露なんて・・そんな贅沢な店があったら誰でも行くわなぁ。ママに淡い恋心を抱く平山さんの前に元亭主(三浦友和)が突然現れ心ざわつくも、余命幾ばくも無い彼から「ママをよろしくお願いします」と云われ困惑。無心に二人で影踏みをするシーンには涙が出ました。
押上・向島・浅草界隈が随所に登場するので、錦糸町のシネコンでは終映後、ジモティー達は嬉しくなって拍手喝采でした。同じ下町周辺を山田洋次が『こんにちは、母さん』で撮っていたけど、余りに定型的で面白くなく、個人的にはドイツ人監督の感性の方がしっくり。
鑑賞した翌日だったか、NHK・BSで小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』を偶然見たけど、ヴェンダース監督の行間ならぬ映像間を味わう楽しみとは、このことかと再認識しました。