劇場公開日 2023年12月22日

「人は完璧な歯車になる冪だ」PERFECT DAYS YAS!さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人は完璧な歯車になる冪だ

2023年12月25日
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鑑賞方法:映画館

名匠ビム・ベンダース監督作品を、まだ見た事が無かったので、本作を鑑賞しました。

主人公は下町(浅草)に住み、都会(渋谷)で仕事をする。
よって、映画から醸し出す空気に"ハイカラな渋谷区の住宅地"はなく、あくまで浅草だ。
その浅草に住む主人公の部屋にあるのは、沢山の 本とカセットテープ
彼は"かってのインテリ人間"だったようだが、イレギュラを避ける生活の中で、まるで機械人間の様に
ルーチン化した 穏やかな日々 をおくり
姪が来たとき以外は、部屋に鍵を閉めない程 不用心な事さえ、ルーチン化してしまったようだ。
それは、"空き巣に入られる"といった イレギュラな事さえ ないものとして、生活ルーチンは組立られている。
即ち、几帳面すぎたり、繊細だから、ルーチン化したのではないということ。

彼の日課のひとつは 公園に行って、ファインダーを観ずに、アバウトに"木漏れ日"の写真を撮る。
アナログカメラだからこそ、とうぜん失敗も成功もある。
だが、その失敗を、微妙に改善する事が、唯一の”許された変化”であり、「失敗もしたけど、気付いた時に、微妙に改善した」ていう完璧なルーチンの中で 出来事である。

そして、当たり前に蓄積された カイゼンの結果は捨てずに証拠として、保管する。
これは彼の 日常生活の記憶・記憶の確認であり、日々見る夢も同じであろう。

主人公は まったく 人との関わり合いが嫌いなのかと言うと、そうでもない。
週に1度 洗濯をした帰りに、スナックに立ち寄り、話をする事を日課とし、
姪が訪ねてきた時も、スナックママの前夫と面した時も 表情豊かに、歓迎した。
彼が無口なのは「会話の内容ルーチンがない」からだ。
無駄な会話は不要と言う事。

実妹の「まさか、本当にトイレ掃除しているの?」と言うセリフから、
おそらく、主人公は かって"真逆な生活"をしていたのかもしれない。
その"きっかけ"を、垣間見れるヒントが映画中にあれば、主人公をもう少し 掘り下げる事ができて、映画に深みが出たのだと思う。
でも、主人公は 裕福な会社経営者 ではなく、「すばらしき世界(2021)」の前生活のように、
自分で何かを 自由に、能動的に起こす ラッセル車のような 生き方 をしていたのだと僕は推測する。

かって社会は"機械の様に生きる"ことを揶揄したが、AIに 人間のポジションを奪われつつある現代では
社会の中で けして「代えがたい人間・歯車・社会の部品」として、完全な形に成る事こそ
社会から"必ず必要とされている人間"なのだと、主人公は悟り
主人公は孤高の人として、懸命に働き続けたのだと僕は演繹(えんえき)する。

この映画を 観ている最中「おくりびと(2008)」の方が、
日本人が創った故に、"日本人の職人気質"=孤高の人 が観れると想った。

YAS!
トミーさんのコメント
2024年2月5日

共感ありがとうございます。
平山は真摯に仕事に取り組んでますが、トイレ掃除職人という感じでもない気がしました。
後、明らかに寡黙な時の演技の方が評価されたんだと思います。

トミー