「信仰は普遍的な情愛すら無視する矛盾」エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命 シネマディクトさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0信仰は普遍的な情愛すら無視する矛盾

2024年5月5日
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タイトル変えました。19世紀に起きたカトリック教会によるユダヤ人少年の誘拐事件を描く社会派ドラマの力作です。こんなに映画に没入するのは久しぶりで、見終わって、あまりの理不尽さに、どこにこの怒りをぶつけていいのかわかりませんでした。教会法とやらに基づいて6歳の子供を幸せな家庭から引き裂く教会、子別れの悲哀に直面しても信念の揺るがない異端審問官、裕福な雇い主を二度までも陥れる移民の女、そして神への信仰と自分の権力への崇拝と取り違える教皇と、彼らの信仰の名の下に行われる非人道的な行為に愕然とします。これまでにも、教会批判の映画は見たことがあるけど、本作は別格です。自分達の宗教の正当性を守るために、平穏に暮らしていた罪もない一家を引き裂くことは、もはや信仰ではなく、理不尽な蛮行以外のなにものでもありません。その結果、心の平安ではなく教義を守ることを信仰とする人間が再生産される幕切れには暗澹たる気持ちです。監督のマルコ・ベロッキオの作品は初めて観たけど、80代とは思えない気合いの入った演出で、レンブラントの絵画を思わせるような重厚な映像とあいまって、息が詰まるような緊迫感が途切れることはありませんでした。役者では、タイトルロールの少年時代を演じたエネア・サラ君はめっちゃかわいくて、昔のオスメント君みたいです。青年時代のレオナルド・マルテーゼもイケメンで人気が出そう。

シネマディクト