「デザートから始まるコース」ポトフ 美食家と料理人 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
デザートから始まるコース
結婚はデザートから始まるコースだと冗談を言った。この冗談のようにいくつかの出来事が逆行しているところが面白い。
作品序盤でドダンとウージェニーがポーリーヌの将来について話す場面がある。その姿は娘の将来を話す夫婦のそれである。
ドダンの味覚とウージェニーの才能を受け継いだかのようなポーリーヌは二人の娘。のような存在だ。このときはまだドダンとウージェニーは夫婦ですらないのに。
もし二人が夫婦であればポーリーヌくらいの歳の子がいて不思議ではないのだ。
先に未来の姿を描いて、あとからその道筋を見せるような手法が「メメント」のようで興味深い。
ウージェニーは結婚をずっと承諾せずにいた。二人の関係が崩れてしまうことを恐れたのか理由は定かではない。しかし体が不調に陥ったことで変化が生まれる。
ウージェニー自身もドダンも、ウージェニーが永くないことは察していただろう。だからこそ最期の時間で、互いの求めるものを与えようとしあった。
料理を作ってもらうと嬉しいというウージェニーの言葉を受けてドダンは料理を振る舞い。そこからプロポーズ。ウージェニーはドダンがずっと望んでいた結婚を承諾することにする。
互いにずっと愛し合っていながら死が目前に迫ったときまで前進できなかったことは悲しいことだが、そんなことを超えた愛が二人の間に会った事実が美しい。
デザートによるプロポーズから始まった二人の婚姻関係は、朝食に食べるようなオムレツを最後に一瞬で終わってしまう。
間にあるはずのメインディッシュやスープなどを食べる間もなかったことがとても悲しい。それでもその起点となるところはとても愛に溢れていて、ある種の最高のロマンスだったといえる。
少し古い時代の物語で、背景美術や写し出される料理など美術面で大変だったろうと想像できるが、華麗なカメラワークと演出で非常に気合いの入った作品に仕上がっている。
元々アーティスティックな監督だと思うが、トラン・アン・ユンのセンスが光った静かで絵画のような美しさのある良作ロマンス映画だ。