「女神の首をそこに投げてどうするのかと、小一時間問い詰めたい」墓泥棒と失われた女神 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
女神の首をそこに投げてどうするのかと、小一時間問い詰めたい
2024.7.25 字幕 アップリンク京都
2023年のイタリア&フランス&スイス合作の映画(131分、G)
墓泥棒一味が古代遺跡を発見する様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はアリーチェ・ロケバケル
原題は『La chimera』で「実現不可能な夢」という意味
物語の舞台は、1980年代のイタリア・トスカーナ地方
考古学愛好家のアーサー(ジョシュ・オコナー)は、盗んだ骨董品を美術商のスパルタコ(アルバ・ロケバレル)に売った罪で服役していたが、ようやく日の光のもとに釈放されることになった
彼には恋人のベニアミーナ(Yile Vara Vianello)がいたが、今は行方不明になってしまっていた
彼女の母フローラ(イザベラ・ロッセーニ)の元を訪れたアーサーは、そこで使用人として働いている彼女の弟子イタリア(カロル・ドゥアルテ)と出会う
彼女はフローラに内緒で娘コロンビーナ(ジュリア・ベッラ)と息子を育てていて、それがフローラの娘たちに見つかってしまった
彼女は家を追われ、路頭の身となって、近くの廃駅に身を隠すことになった
一方その頃、アーサーは住人からの依頼を受けて、墓の掘り起こしを行うことになった
そこで、かつての墓泥棒仲間のピッロ(ビンチェンツォ・ベモラート)、マリオ(Gian Piero Capretto)、ジェリー(Giuliano Mantovani)、ファビアーナ(Romana Fiorini)たちと行動をともにすることになった
映画は、アーサーが復活したことでスパルタコからの依頼も舞い込んで、墓泥棒を繰り返していく様子が描かれていく
そんな中でイタリアと親密になるものの、彼が墓泥棒と知ってショックを受ける
イタリアは副葬品は死者があの世に持っていくものであり、誰かの目を楽しませるような美術品ではないと断じる
その後、その言葉に引っ掛かりを持ち続けたアーサーは、エルトリア時代の女神像を見つけても、心ここにあらずとなっていた
だが、仲間は持ち出しやすいように女神の首を切り離してしまい、さらにそこに警察が来たことで、発掘は中断してしまうのである
映画は、わかりやすい物語であるものの、そこまで心を突き動かすこともなかった
副葬品を掘り起こすということ自体が文化的に考えられないので、それを今さら立ち返ったことで何が起こるというのだろうか
また女神の首を海に放り投げるのだが、そこじゃねえだろう感が凄い
元の場所に戻すように尽力するとか、そのために再度警察に厄介になって禊を落とすということもできると思うが、そういった方向にも話は進まない
ラストは亡き恋人の副葬品に自分がなるという感じになっていて、それで良いのかは何とも言えない
いずれにせよ、墓荒らしで得た美術品を好んで買い漁る金持ちもあれだが、その界隈がぜんぶエルトリアの呪いにでも罹ればすっきりするのにと思ってしまった
後半になって、冒頭の列車の客は実は死人とわかったりするのだが、このあたりもうーんという感じで、副葬品に手を出すと死者と対話ができるとか、そういう設定なのかなと思ってしまった
そもそも、アーサーが墓泥棒を生業にしている理由とか動機というものがよくわからず、儲かるからしているという感じにも思えない
影がありそうな過去も、恋人が死んでしまったことを受け入れられないというもので止まっているので、何とも取り留めのない物語だったように思えた