落下の解剖学のレビュー・感想・評価
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自身を省みる教訓にもなる
スリリングな法廷劇としても、夫婦関係の崩壊を描くメロドラマとしても、息子の成長物語としても、如何様にも味わえる濃厚な作品でした。
152分と長丁場ですが、それ相応の見ごたえがあります。
証拠としてあげられる「事実のようなもの」は、ある人やある出来事の一面でしかない。
群衆は正確な事実よりも、より面白いものを信じたがる。
劇中で語られる言葉ですが、とても納得できます。
我が家のある日のエピソードを友人に話すと「家族で仲がいいね」と言われるのですが、また別の日のエピソードを同じ友人に話すと「家族仲、悪いの?」と心配そうに言われたことがあります。
私にとってはどちらもありふれた日常の一コマですが、その部分だけ切り取ってみると、とても良好/険悪なものに見えてしまうこともあるのだなと体感したことがありました。
手に取った石ころ一つで山のすべてが分かるものだろうか。
そんな裁判で、人を裁くことに意味なんてあるのだろうか。
事実らしいものはたくさんあるし、どれもそららしく思えるけれど、重要なのは何を信じると決めるか。
本作で起きた出来事の真実、事故か自殺か殺人かは、まったく重要ではないように思えてきます。
エンターテイメントとしてだけでなく、自身を省みる教訓としても非常に参考になる、おもしろい作品でした。
解剖され露出したはらわたは戻らない
カンヌとアカデミーで評判のサスペンス映画で、山荘で男性が転落死した事件で妻が殺人容疑で逮捕、起訴されるお話しだけど、なんとも後味の悪い作品でした。美しい雪山の風景の中、夫の謎の死で始まる出だしはいいけど、警察の調査や弁護士とのやり取りなどダラダラと続き、お話しのテンポが悪いです。後半の裁判になってやっと持ち直すけど、検察も弁護側も状況証拠と臆測だけで決め手がなく、夫婦の生活の暴露合戦になってきます。ここで、この作品はいわゆる法廷サスペンスでなく、審理の過程で夫婦関係を解剖していき、性的嗜好や不倫、鬱屈、暴力、病気など、他人には見せられない夫婦の内臓を曝け出していくことがテーマであることに気づきます。しかし、裁判が被告側の勝利に終わっても、一度晒された内臓を元には戻せず、息子や関係者との間の埋めようにも埋められない断絶が残るのも苦い結末です。脚本の着想は面白いけど、枝葉末節が多くて上映時間は長過ぎですね。役者では、サンドラ・ヒュラーが渾身の演技。ハリウッドでリメイクするなら、主演はケイト・ブランシェット、弁護士は伊勢谷友介かな。
複雑なものを複雑なまま丁寧に描く映画
ファクトというのがいかに曖昧かというのは羅城門を彷彿とさせ、言葉とコミュニケーションが夫婦の軋轢になるのは、ドライブマイカーと似ている。
他国が舞台だが、人間の描写がとてもリアリティーがある。たぶん、それぞれの人間が法廷では真実を語っているのに、完全には信用ができない。しかし、演技の迫真さにより、それぞれの感情はスクリーンを通じて伝わってきて、それぞれの立場に感情移入はできる。だけど、完全に信じることもできない。見ているものに複雑な気持ちを常に突きつける。
すっきりしないもやもやは2時間半続く。証言を裏付けるものはとても曖昧で、証言そのものが発言者の立場や気持ちにより、バイアスがある。よく考えたら当たり前の話なんだけれど、緻密な脚本と演出により、胡散臭さく人間臭い人たちのまるで人狼ゲームのように虚偽を言っているのではないかと見ている側は感じてしまう。
いちおうの結末は決してワーストな結末ではないが、ベターなものでもなく、ハッピーなものでもない。真実はなんであれ、悲しみを感じる結末だ。
こんなカタルシスもミステリーが解決するともなく、正義に酔えるものでもない、ただ不安定な気持ちを鑑賞後に突きつける作品は珍しく貴重だ。
夫婦のコミュニケーションをテーマにしたドライブマイカーの方が救いがある。
夫婦はお互い母国語で会話するとも出来ずに、自分は我慢していて、お互いの犠牲になっていると感じていて、家庭のために生きていて、相手を思い遣ってると思っているが、それが苦しみや歪みを産んでいる。傍目からみたらうまく行っている家庭もこのような苦しみがあるのかもしれない。言葉さえお互い不自由なく使えたら問題は解決するのかと言えばそうでもない。
しかし、不幸な家族なわけでもなく、ありふれた家庭に起こりうるミスコミュニケーション。
全くすっきりしない。何も解決しない。だけど、2時間半の長丁場を飽きさせることなく見せれる映画。人を選ぶだろうが、見て良かったと思える映画だった。
芳醇のコクと旨み
フライヤーの一文で顛末が見えていた
フライヤーには下記の内容が記されている。
雪山の山荘で男が転落死した
男の妻に殺人容疑がかかり
唯一の証人は視覚障がいのある11歳の息子
これは事故か自殺か殺人か
このフライヤー、実はもう答えが載っているんだよねΣ(´∀`;)
見る前からだいたい分かっていた。
自殺が答えだ、ってね。
案の定だったよ(;´Д`)
何で自殺だと分かったかと云うと、フライヤーを作った人が文章構成を考える際に、自殺だと顛末が分かっていたから殺人と匂わせながらも最初の段階で事故か自殺と切り出している点で殺人じゃない、事故に見える自殺だと云いたいことが読めた。
本編では、警察が詮索しすぎた結果、単純に考えて事故か自殺で処理するべき事案を血痕に不審点がある理由から殺人の可能性もあると考えられてしまい裁判になってしまったのだが、裁判のシーンがまあ長いこと。息子のダニエルが父親が亡くなるまでに自らの死を仄めかす発言をしていたことが立証され妻は無実を勝ち取るのだが、そこまでの長い長い裁判は本当にあそこまで尺が必要なのか?
もっとカットして余計な部分は割愛すべきなのに夫婦喧嘩をしていたことも何回も紹介するべきシーンなのか、重要だと意味づけるシーンだけで良いのにダラダラと話が続くから眠くてしょうがない。
結論、妻の才能に負けたと思った夫が焦った末に精神的にも追い詰められた結果が自死だった。息子の事故を夫のせいだと責任転嫁で追い詰める妻もどうかと思うが、一方的に責められ更に妻との収入面においても格差が生まれたという点で負けを認めたくないプライドの高さが動機となったのだろう。
落下の解剖学
生々しい。と言った表現が1番しっくりくるけど、そんな一言で終わらせられるほどのものではない。映画の中にいろんな感情が思惑が、ものすごい密度で埋められていた。
主人公が無罪を勝ち取るまでの話かと思いきや、裁判によって隠していた事実や他人には言えない彼女の全ての感情、感覚、生き方まで全て解剖されていく。この解剖で彼女の1人息子は何を選択し、何を守り、両親の真実をどう受け止め、どう決断していけばいいのか学んでいく。
「落下の解剖学」とはいいタイトルをつけたものだ。
あらすじ
夫の不注意で事故に遭い、視覚障害を患った息子を持つ主人公のサンドラは、ある日雪山の上にある自宅のそばで血を流して死んでいる夫の姿を発見する。
やがてサンドラの殺人が疑われ、彼女は無罪を主張していたが、数々の証拠と合致しない彼女たちの証言は意味をなさなくなっていく。
そして、事故の前日の喧嘩の内容の録音や、夫が薬を飲んできたことを法定内で知った息子は、父が自殺したのか、母が夫を殺したのか、疑心暗鬼になっていく。
また、撮影、編集にもこだわりを感じた。突然現れるfixの主観カットや、徐々にカメラが寄っていくじっとりとしたドリーイン、かと思いきやズームで勢いよく寄っていくスピード感は、キューブリックを思わせる。雪山というものと、息子の髪型のせいか、途中からシャイニングを見ているのかと思ってしまった。
リアルで人間くさい
食べたいものじゃなかった
悪くはないんです。
ただ「焼肉」を食べに行くはずが「うどん」かよ、みたいな。
決してうどんが嫌いなわけじゃないんです。でもガッカリしたのも事実で。
こんなはずじゃなかった、と。だって焼肉の口になってるんだもん、と。
この責任を誰かに取ってもらいたい(笑)
確かに事前情報を入れずに観たけどさ。その方が良いかと思って。
でも何となくミステリー味だって想像してしまうじゃんか。
そりゃどうしたって「そういう口」になっちゃうってば。
分かっていても「焼肉」のつもりの「うどん」は喜べないって。
せめて「うどん」のつもりが「焼肉」だったならOKなんだけど、
濃い味を期待してる時の薄味はさすがに受け入れがたい。
おっさんだけどまだ味覚はお子ちゃまですから!
ただこれは宣伝も悪かったんじゃない?と思わずにはいられない。
TVなどで流された予告は完全に濃い目のミステリー味だったよね?
だけど蓋を開けたら質素な「ヒューマンドラマ味」だったわけよ。
子供だったらショック過ぎてきっと大泣きするぞ。
そういう意味では宣伝に「誠実さ」が欠けていたように思うんだよね。
客を呼びたいのは分かる。でも作品に敬意は払うべきじゃないかな。
この映画でとにかく言いたいのはそれだけです。
大人げなくてスミマセン。
#09 他人にはわからない家庭内事情
一見上手くいっていそうな夫婦の実情は他人には誰にもわからない。
最近はあえて結婚という形を取らない人が多いフランスでさえこうなんだから、結婚しないと一緒に暮らすことさえほぼ許されない日本だと、各家庭に色んな事情があるんだろうなあ。
150分という長尺ながら裁判の過程が楽しめて見応えがあった。
田舎の平日昼間の上映回の割に結構人が入っててビックリ。
多分映画好きならはずせない作品なんだろう。
1日1回だけだけど、上映してくださってJMAXシアターさん、ありがとう。
他人様の夫婦の痴話喧嘩は見たくない…
珍しいくらい非常に教育的な映画
ここまでまっすぐ青少年の成長に向かい合った映画は、昨今多くないと思う。
ほとんど状況証拠しかない状態で進行する裁判の鍵を握るのは、第一発見者の視覚障害の子供。
事故により視力が低下して以来引っ込み思案になった繊細な彼を守るのは、心の病を抱えた父と傍らの犬だけ。
彼の目線でそれまで隠されていた家庭の真実を明らかにしていく裁判は、子供から大人へなるための通過儀礼である。
最後の証人として自ら選んだ「真実」を話し裁判の趨勢を決めるのは、大人として人生を選択した証に他ならない。終盤、それまで抱きしめられていた母親を逆に抱きしめるのは成長と精神的別離を表している。
ラストシーンで母親へ犬が寄り添うるのは、独り立ちした子供をそれまで守っていた守護者=天使が一人になった母親の保護者となる、カトリック的な演出だろうか。
アメリカンニューシネマ以前、1950年代のようなテーマに対し非常にまっすぐな佳作。その割に説教臭くなく順当に面白いのは、演出の優秀さや脇を支えるキャラクターによるものだろう。序盤のタルイ展開に耐えられるなら、ご家族で鑑賞するのにもおすすめ
ミステリーと思う事勿れ、
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