落下の解剖学のレビュー・感想・評価
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心を解剖、裁く
落下した父親はもう何も言わない。
人の感情は日々変化する、家族夫婦であればなおのこと、
感情に任せて放つ言葉の元には何があるのか…
我が耳で、この応酬を冷静な時に聴くと心に色々な生き物が潜んでいたことを思い知る。
しかし法廷で検事や証人にその生き物を引っ張り出されたら苦い思いも加わってしまうだろうな。
良く感情に溺れずに答弁したのだから小説家としての力量がわかる。
その力を持ったのが女性だったから検事から執拗に責められたように見えた。
子ども(息子)の存在はもちろん大きい。
ジェンダー
特に女性視点では必ず子どもが引き合いに出される。
「マリッジストーリー」のニコール(スカーレットヨハンソン)
「オッペンハイマー」の妻キティ
「小説家の妻」?妻
みんなジェンダーで搾取される立場が女性だったけれども逆だったから、興味深かった。
サンドラ役のザンドラ・ヒューラー
トニエルドマンから大好きな役者
🐶ワンちゃんにも楽しめた。
夫婦の口論で「裁くな!」ってシーンが良かったというか、肝に銘じたいと思った。
この言葉がかなり自分にも響いてきた。
#落下の解剖学
#ザンドラヒューラー
#刈谷日劇
#映画
真実に辿り着くために暴かれる不必要な真実
う~ん、不完全燃焼。
始まりから終わりまでこれといって驚くような展開もなく終始同じようなトーンで物語が進んでいく感じだった。最初から最後まで穏やかな波のような。
これが“2時間40分”という比較的長い作品だったので尚のこと個人的には“つまらなかった”というのが正直な感想。
推理小説のような文字だけがずらりと並ぶ文庫本のようなものを好んで読む人に合うような作品といったイメージ。
ザンドラ・ヒュラー素晴らしい
ヒュラーは「ありがとう、トニ・エルドマン」で知り、その後「希望の灯り」「恋人はアンドロイド」といい俳優だなと思っていた。だからこの映画で彼女がまさに適役の主役を堂々と演じたことが嬉しい。彼女も映画も監督も高く評価されたことが本当に嬉しい。
パートナーなり人生の伴侶との暮らしの中で日々互いに使う言語は、二人の共通母語=同一の母語か、各自が一番使いこなせる同一の外国語 (この映画では英語だった)がいいと私は思う。自分の母語を相手に押しつけるのは嫌だし、相手の母語を自信なく不安げに使うのも嫌だ。愛する、喧嘩する、馬鹿話をして笑う、相談するなどなど、とにかく言語が二人の間で機能しなければ嫌だ。外国語で話さなければならない裁判に出廷するなんてどんなに大変だろう。それでもすぐに同時通訳にスイッチできる仕組み(用意)がフランスにあることをこの映画で知った。日本の裁判所はどうなんだろう。
最後の最後まで、エンドロールが完全に終了して明かりがつくまでこの映画はどう終わるのかわからずドキドキが止まらなかった。知的で挑戦的、とてもいい映画だった。監督の視線や頭の中、今まで彼女が生きてきた中で何を言われ聞き考えてきたのかとてもよくわかる気がした。
おまけ
夫婦喧嘩のやりとりを相手の承諾得ずに録音するのは最低ではないでしょうか?と思う一方で、人々とのやりとりからヒントを得て小説書くのかなあ~、いやらしいなあ~、なんてことも思いました
良くできたサスペンスドラマ!
描きたいのは事件の真相ではなくて、真相はある程度明示されているもののその真相≒事実を各自はどこまでいっても触れることができないという事実だと思う。それは結局、事件だけの話ではなくて、相手の本音についてもそうだ。いくら家族でも語り合っても議論しあっても本音≒事実に触れられるとは限らない。夫の苦しみに妻は冷淡だし、妻の指摘を夫は拒絶する。家族だからといって常に寄り添えるとは限らないし、理解できるどころか、利害関係が最も対立する相手にすらなりうる。
事件のほうはといえば、息子がどれだけ真実に迫ろうとしていたかは愛犬への行為ではっきりわかる。そして、ラストのあの犬が寄り添う先が示すのは、この作品で間違いなく無辜の存在であることからして、サンドラも手は下してないのだと思う。真相としては、夫の激昂、復讐、俺がこんな死に方をしたら困るだろうという行為だと考えるのが妥当だと思う。
諍う夫婦、そしてその片方の変死という比較的よくあるテーマでもこの作品が新鮮さを感じさせるのは、夫の怒りが一昔前なら顧みられないよくある妻の嘆きと似ていることかもしれない。不貞も、バイセクシャルも男の特権ではないという男女逆転的構図。そして、ザンドラ・ヒュラー演じるサンドラが、ありきたりなファム・ファタルでもなく煙に巻こうとするわざとらしさもなく、淡々としていてそこがよりこの作品を複雑なものに感じさせていると思う。
ラストシーンの息子と母は、判決がどうであろうとそれはあくまで法的処分でしかなく、彼らはこれから疑念と悔恨とわだかまりを抱いて生きていくことを示しているように思えた。そういう後味の悪さが、この作品で最もサスペンスフルだと思った。
タイトルなし(ネタバレ)
ただのサスペンスではない‥くらいの前知識で観に行ったけれど、とても良かった。
この曖昧な現実を、我々はいかに思い込みでジャッジしているか、考えさせられた。
主人公が有罪なのか無罪なのか、気づいたら惹き込まれていて、最後にはぐらんぐらん揺さぶられた。
最初は、まぁ無罪なのだろうな雰囲気だけど、主人公の微妙な性格やネガティブな本性が見えてくると有罪かもと思い、そして夫婦喧嘩のシーンは圧巻でどちらの言い分も理解できるし、回想と現在の切り替えも秀逸だと思ったりしながら、裁判で無罪の判決が出てもなお、やっぱり殺ってるんじゃないかと思わされたり、最後に犬が寄り添うシーンでは、やっぱりいい人だったんだ、無罪なのか‥と思ったり。
友人弁護士といい雰囲気だったのに、じっと目を見つめたあと離れたのは、彼に有罪だと思われていることを主人公が気付いたからなのではとか。
結局、真実はどうでも良く、どう思われているかが我々の現実には威力を持つということがとてもリアルだったし、面白いと思った。
息子くんの供述がお父さんの口パクとピッタリ合っていたのも面白い演出だったけど、あれで息子は、今後の生きていく未来を考えて、お母さんを無罪にしたんだと思ったりした。
最終的に、誰も真実などどうでも良くなったのかもしれない。
大人のサスペンス
謎解きではなかった
冒頭からカメラワークと音楽に引き込まれました。緊張感を持って、謎解きのつもりでずーっと観ていたから、エンドロールに「あれ?」となりました。
なんだったんだろう、真実はどこ?と疑問符のまま終了。うーん、最後にスッキリ解決すると思ってた私が違ってたのかな。
サンドラとイケオジ弁護士がどうも怪しく描かれていて、特に夜で寒い中、外で煙草を吸いながら話す二人の顔にあたる照明が不穏でした。
後半にダニエルが法廷で話すというので、解決への期待感が高まったものの、状況証拠なく肩透かしな内容。それにしても犬の扱い、大丈夫なの?演技なの?とドキドキしました。ダニエルの付き添いの女性が冷静で頼りになって良かった。
真実は解明せずのミステリー、長丁場を飽きさせずに見せてくれました。
非常にモヤる。結末に疑問?最大の弱点はカタルシス不足。
映画鑑賞を120%楽しみたいので事前情報収集はゼロ、レビューも一切確認せずに映画を見に行くのでハズレに出くわすこともよくあるワタクシ。
これは大ハズレでした。
フランス料理のフルコースを楽しみでお店に行ったら、全く口に合わず美味しくなかった、みたいな感じで期待を大きく裏切られました。
後で監督のインタビュー読んだらMeTooへの共感やらウンタラカンタラ語ってたけど、
あ、フランスのインテリの人ね、だから駄作なのかと僕は納得しましたね。
フランス人哲学者は小難しい理屈をこねるけど結局が大したことは言っていないことが多い。
これはソーカル事件で歴史が証明している事実です。
さながらフランス哲学の悪い面が映画になったかのような出来の悪さを感じました。
この映画の1番の欠点はオチがなくカタルシスに欠けることですね。
この手のサスペンス物ってどうしてもメタ的に誰が犯人だったら意外性が高く面白いかとか考えたり動機を推理したり犯人探しが楽しみじゃないですか?
しかしこの映画は早々に母親犯人説一本に絞り込みサスペンス的楽しみを否定します。
また見所である法廷劇ですが、
私に言わせればここが一番陳腐でした。
検察は母親が父親を殺害した嫌疑で烈しく追究しますが、肝心の殺害に使われた凶器が特定出来ていない時点で不首尾に終わるのは目に見えてました。フランスの司法がわかりませんが、物証無く犯人の自白待ち頼りでは、いくら状況証拠固めても犯人が鉄面皮で自白しない限り有罪にならないですよね。展開が読めてました。
私のなかで法廷劇は一切盛り上がりませんでしたね。
2番目の弱点は
個々の人物像に好感が持てない上に、ストーリに沿った適切な感情表現が見受けられず
キャラクターや゙ストーリーが非常に陳腐に見えてしまったことですね。
劇中で裁判の結果を無罪としましたけど、
これって裁判によって父親の自殺が認定されたってことでしょう。
それ即ち母親からのDVで父親側が自殺に追い込まれた事実の追認が行われたということです。
その割に息子も母親も反応が薄いんですよね。
浮気を開き直ったうえに他殺でも自殺でもどっちでもいいけど父親を殺した母親に対しての、悪感情が息子から表現されないのは本来おかしいんですよ。
また母親も余り悔恨の念を抱いているように見えないんですよね。ただ裁判長引いて疲れたわーみたいな感じしかない。
ちょっと不自然ですよね。
このアンリアルさがずっと引っ掛かって最後まで物語にのめりこめませんでしたね。
まあ、タイトルが少し謎めいているので惹かれたけどこれは裏切られたパターンでした。
結局謎なんか無かった。他殺であれ自殺であれ、どっちにしても殺したのは母親で確定、これが結論なんですよ。
たかだかその程度の結論に至るまでのウジウジしたやり取りが楽しめるかどうかですね、
私は無理でした。
ほんのり『シャイニング』風味
雪深く人里離れた場所で何やら血腥い事件が起こる。夫婦の不和、創作スランプ、訳あり気味の重めボブカットの少年(息子)…私はずっとスタンリー・キューブリックの『シャイニング』の既視感を感じていた。全然違う作品ではあるけど…。息子の名前、ダニエルとダニーだし。これ偶然じゃないよね?
観る前の期待値が高すぎたせいか、私的にはイマイチだった。端的に言えば好みじゃない。そもそもこういう全体的に薄暗くて見ていてモヤモヤするタイプのフランス映画が好きではない。(好きなフランス映画も勿論あるけど)
ミステリーとして見ればツッコミどころは多々あるし出てくるキャラクターに共感は出来ない。唯一の癒やしはワンちゃん(演技がすごい)だけど…ワンちゃんに対してあの仕打ちもなぁ〜…
既婚者にとってはあるある、みたいな場面もあって、うん、リアルだよなぁ…会話劇としては秀逸なんだけどなぁ…なんだろ…
単純に長いんだよな。面白くないわけではないけど。とにかく長い。せめてもう30分短くしてほしかった。この長さにする理由はあったのだろうけど。
あと弁護士役の人、美形で無駄に色気があったけど、色気出すシーンはいらなかったなぁーーー。そのへんもリアルなのかなぁ…
同じフレンチアルプスを舞台にした夫婦のドロドロを楽しむ『フレンチアルプスで起きたこと』という映画が私は大好きなのだけど、この『落下の解剖学』の監督さんもお好きだそう。少し意識したのだろうか。
前者はブラックコメディ寄りで笑えたし好きだった。
あまりに内容が現実的で私にとっては直視するのが辛い問題でもあったので、ユーモアが一切ないモヤモヤしか残らないのが嫌だったのかも。
現実もモヤモヤを抱えて生きていくしかないもんね。あー嫌だ!
それは勝利ではなく。
事実とは…1つじゃないのかも
とても地味な映画です。法廷サスペンス!という捉え方がいいのかも🤔
流行作家のサンドラは教師の夫と目の不自由な11歳の息子と暮らしています。ある日、息子が愛犬との散歩から帰って来ると、家の前で、血を流して息絶えている父親を発見します。
転落死?警察は他殺の可能性を見出だします。容疑者は妻のサンドラ。
捜査で色々な事実が見つかります。裁判でも新たな証言が現れます。鍵を握っているのは目の不自由な息子。母親が裁判で追い詰められる姿から目を逸らさず、涙をこらえながら傍聴を続ける息子。そして証言台へ。
1つの証拠も検察側と弁護側では全く逆の解釈になる。そして、それぞれの解釈に科学的根拠がある。「推定」に対抗するための「推定」。「推論」を真っ向から否定するために作られた「推論」。お互いが近づこうとしているのは「事実と思われること」に過ぎない。本当の事実とは?
それでも判決は出る。判決は本当に事実を反映しているのか?全てが疑わしいままである。誰も納得はしていない…しかし…裁定は下され、日常に戻る。
やるせない気持ちになる、そして脳みそが疲れる映画でした😅でも…カンヌでパルムドールを取るだけのものはありますぞ。是非観てください😊
人物に寄った丁寧な展開
ん?
真実と嘘を混濁した演出に翻弄される
父サミュエルの転落死は自殺か、母サンドラの手によるものか?緊張感が持続する法廷劇で最後まで面白く観ることが出来た。
ただ、コトの真相は観客の解釈に委ねられる部分が多く、観終わった後にモヤモヤも残った。むしろ、そうした余韻を楽しみながら、色々と考察すべき映画なのかもしれない。
そもそも決定的な物的証拠、例えば凶器などは一切見つかっていない。検察側は動機や状況証拠だけで有罪に持ち込もうとしており、流石にこれでは無理があるように感じた。結局、こういうケースは参審員個々の裁量で判断するしかないのだろう。人が人を裁くというのは非常に危険であり、また難しくもある。
それにしても、本作は観てるこちらを惑わせるような演出が各所に施されていて実にイヤらしい。
例えば、法廷に流れるサンドラとサミュエルの口論の音声記録は、途中まで再現映像で表現されるが、肝心のヒートアップした場面では音声しか流れない。そこは観客が想像してくれということなのだろう。
あるいは、最後のダニエルの証言も然り。一つ目はともかく、二つ目の証言は極めて主観的であり、おそらく偽証でないかと思われる。ここもわざわざ再現映像よろしく、あたかも事実のように描いて見せているが、真実かどうかは定かではない。
そもそもダニエルはこれ以前にも嘘をついている。彼は転落死直前の両親の会話を屋外で聞いたと言うが、その後の現場検証で屋内で聞いたと訂正した。本人は勘違いなどと言っていたが、そうではないだろう。もし二人が口論していたとなれば母親は益々不利な立場に立たされてしまう。おそらくダニエルは母親を守るために嘘をついたのだと思う。
このように本作は各所に後に繋がるような伏線や、解釈を迷わせるような演出が施されているので中々一筋縄ではいかない作品となっている。
そして、真実の行方も気になる所であるが、それ以上に自分はこのような事態に巻き込まれてしまったダニエルに不憫さを覚えてしまった。
サンドラとサミュエルは共に小説家である。キャリアという点ではサンドラの方が恵まれていて、サミュエルはそれにコンプレックスを感じている。更に、過去の事故でダニエルに視覚障がいを負わせてしまったという責任も感じている。環境を変えて心機一転、仕切り直しを図るがそれも失敗に終わり、今や完全に夫婦仲は冷め切っている。そんな二人に挟まれてダニエルはさぞ寂しい思いをしたに違いない。唯一心を癒してくれるのは愛犬のスヌープだけである。
判決が出た夜、サンドラはかつての恋人で弁護士のヴィンセントと祝杯をあげていた。自分はこれに大変違和感を持った。本来であれば、真っ先に帰宅してダニエルと喜びを分かち合うのが母親ではないだろうか。きっとサンドラにとって一番大切なのは自分自身であり、家族は二の次なのだと思う。これではダニエルが余りにも不憫である。
本作で一番の犠牲者は亡くなったサミュエルでもなく、裁判にかけられたサンドラでもなく、実はダニエルだったのではないか…。そんな風に思えてならなかった。
総じて完成度が高い作品であるが、唯一、不自然さを覚えるカメラワークが幾つかあったのは惜しまれる。法廷シーンの一部で過剰なズーミングやパンが見られて興が削がれてしまった。
キャスト陣ではサンドラを演じたサンドラ・ヒュラーの好演が素晴らしかった。実話の悪魔憑き映画「レクイエム~ミカエラの肖像」の薄幸な少女から、「ありがとう、トニ・エルドマン」ではバリバリのキャリアウーマン、「希望の灯り」ではやさぐれたハイミス等、抜群の存在感を示してきた女優である。ここにきて一段と懐の深い演技を見せつけ改めて良い役者だと再確認できた。
弁護士ヴィンセントを演じたスワン・アルローのイケメンぶりも印象に残った。フランソワ・オゾン監督の実話の映画化「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」では神父による性的被害者の一人を演じていた。劇中で最もインパクトのある演技を見せていたことが思い起こされる。
ユーチューブの
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