「人間性をえぐる後味の悪さ。ピュアな息子が唯一の救い」落下の解剖学 デッキブラシと飛行船さんの映画レビュー(感想・評価)
人間性をえぐる後味の悪さ。ピュアな息子が唯一の救い
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大音量の音楽は夫の声にならない叫び。助けを求めていたのではなかったか。実際別荘の改築は全く上手くいっていなかった。
だが主人公の妻は耳栓をしてそれを無視し続けた。
私と夫は愛し合っていたと妻は言うが、分かり合えてはいなかった。
夫婦関係を持続させるものは必ずしも愛だけではない。
歳月の経過と共にお互いに不満と憎しみを募らせながらも、夫は経済的な理由から、妻は子育てと家事といった生活面の理由から、お互いに依存し合うようになっていた。
そしてその歪で暗澹とした夫婦関係が裁判の過程であらわになっていく。
これは世界中どこの夫婦にも起こりうる物語だと思った。
愛しながらも憎み、見下していた。
その態度が鬱状態の夫を自殺へと追いやったのだとしたら⋯
だから無罪を勝ち取っても妻の心は晴れない。
重苦しい余韻が残り後味は悪い。
唯一の救いは、裁判を通して両親の負の側面を知った幼い息子が、母親を受け入れる努力をして証言台に立ったことか。
(両親は不仲である事を息子の前では隠していた。だから事件の日、盲目で純粋な息子は、両親がいつもより大きな声で話しているとしか認識できず、それが言い争う声だとは理解出来なかった。だが警察に矛盾を指摘されて初めて自分の間違いに気付き、母親を庇うために嘘をつく)
だがその息子の成長した姿が母親の救いになっていないことが、この映画の一番の皮肉かもしれない。(我が子に自分の一番醜い部分を知られてしまった。これからどう接していけばいいんだろうっていう)
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