「本当に必要なのか・・・?」落下の解剖学 映画イノッチさんの映画レビュー(感想・評価)
本当に必要なのか・・・?
裁判とは、一体誰のためのものなのだろう
勝つことだけが、弁護士の目標であり、検察側の目的である
そして被告人も、その多くは真実を求めてはいても、結局は勝利が最終目標
やっかいなのは第3者である警察側も、組織の面目を保つために
勝つことこそが至上命令になるということ
そこに『真実』の追究は、完璧に置いてきぼりにされる
自分の「仮説」が正しいことを証拠や推理を駆使して披露する
被告人は、彼らの(ある意味)楽しさを享受するための駒であり
アイテムであり『道具』にしか過ぎない
彼らにとって被告人は、血の通った悩める人間ではないのだ
マスゴミも、証人である専門家も、傍聴者も、報道を見聞きした赤の他人全てが
無責任にも自分の推理を述べることで被告人を更に更に苦しめる
被告人を愛しているこの弁護士でさえ
主人公に「真相は問題じゃないんだ」と警告する
喧嘩こそしていても、愛する夫が亡くなったことに
打ちのめされる主人公サンドラや、息子のダニエル
それなのに、検察が告訴したことで2度3度と苦しみのどん族に陥れられる
夫を殺したと、息子にも世間にも陪審員にも警察にも思われる恐怖・・・
しかも訴えたのは、夫の父母や兄弟でもない、全く関係のない組織なのだ
つい先日も、再審無罪となり誤認逮捕だったことが確定した袴田さん
県警本部長が直接謝罪しようが 裁判官が頭を下げようが
58年間も人生を奪った罪は決して消えない
そしてご本人の悔しさ、無念も永遠に決して消える事はない
ところでアスピリン服用で死んだ?とヒヤヒヤさせられた
'名犬'ともいえる演技には脱帽!!!
だが、それをCGではなく、訓練でなしとげた監督の凄さには舌を巻いた
私は個人的には、この名犬の「目」が好きではない むしろ冷徹で怖かった
ただ、ラストで主人公の元へ来て添い寝するシーンは大好き
私には、「これこそが純粋な'愛'だ」と思う癒やされるシーンだ
その日、結審する筈だった裁判が、息子の希望で異例にも延期されることになった
夫婦喧嘩での夫(父親)が言い放った言葉に対して、ダニエルが
「母のことを、父にあんな風には言っていません」と証言するのかと思いきや
証言ではなく、ただの感想とは・・・ぐっとくる台詞ではあったけど
色々な手法で撮られたカメラワークにも、監督の拘りを感じた
さすがに脚本賞だけでなく、色々な賞を受賞しただけのことはある
ポーカーフェイスのザンドラを演じたサンドラ・ヒュラーは見事
最後にもう一度 裁判とは、一体誰のためのものなのだろう
本当に必要なものなのだろうか
裁判大国アメリカの廃れた人間関係を見ていると
余計にそう思う