「面白かった」落下の解剖学 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
面白かった
夫は、自分は家事と育児を担当することで息子との絆は感じるが、自分の時間が持てないことを不公平だと訴える。また、事故以来自分が男性としての魅力が果たせず、妻が浮気をしたことに深く傷ついている。自分には才能がないことに気づきながら、プライドだけは高いから、創作のアイデアを盗まれたことがいつまでも引っかかっている。
妻は、本心では私が稼いでいるのだから夫が家事をするのは当然だと思っている。私と息子の絆は無いと言いたいのか、不公平なことなどない、執筆に集中したいなら自分で工夫して時間を作ればいい、何をやっても中途半端、夫の国で暮らしている自分こそストレスを抱えている、自分にはセックスが必要だった、小説のネタも私に書いてもらったことを光栄に思え、と返す。
二人の言語の問題を絡めながら、夫婦関係が終わる様が見事に語られていた。
人間の精神が崩壊し落下するとき、人間は自らの肉体の重さを実感しながらその命を終える。事実はそれだけだ。
人気作家による殺人事件なら大衆は喜ぶし、妻に惚れている弁護人はうつ病の夫の自殺だと主張する。人が落下した真実を二元論で語るのはあまりにもワイドショー的だ。
ここまでワイドショー的ではなくても、裁判というのは最終的にどちらかに決めなきゃいけないという意味で現実の問題を突いている。
意味深なシーンを深読みしがちだけど、重要なのは無罪か有罪かというよりも、少年がどう事件を捉えるか、というのが重要になってくる話。
ラスト。裁判で、息子は母親を殺人犯にしないと〝決めて〟証言する。晴れて無罪になったものの、母親が帰宅したとき「ママが帰ってくるのが怖かった」「私もよ」といったセリフが交わされる。
息子の眼には、母親が父親を自殺に追い込んだ殺人者と映っているかもしれないけれど、事件前の関係性に戻れるように母親は息子に抱擁してもらう。
そしてラストシーンは、スヌープが添い寝をしてサンドラのホッとした表情でおしまい。
言葉の達人サンドラにとって、裁判を含めて言葉なんてどうにでもなるもの。だから言葉を駆使する人間…同業者の夫も弁護士の彼も、面倒くさいしそもそも信用していない。信用できるのは体温を感じる子どもと動物だけ。あとはセックスの相手が時々いればいい。
サンドラにとって、この一家は最初から、サンドラとダニエルとスヌープ、この三者のバランスがベストだったのでは?
事件の真実はわからないけど、そんな感じがくっきりと見えた。
同感のレビュー!言語を仕事にしてなおかつ優秀なサンドラにとって、夫も弁護士も不要、息子と愛犬とたまにアフェアがあれば。頭の中がクリアになりました!