「受け継いだ才能」落下の解剖学 humさんの映画レビュー(感想・評価)
受け継いだ才能
父の不審死、被疑者になった母。
法廷で赤裸々に切り取られ公開される情報や、決められた方向へ導く会話、報道や実際の場面で周りのおとなたちの言動。
「昨日から何を信じればいいのかわからない。
僕を助けて!」
それを浴びなければならなかった少年の惑いがわかる言葉だ。
そして辛辣な日々は彼を決心させる。
「もう傷ついている。
だから話を聞きたい。
立ち直るために。」
その現実で父亡き後の母と暮らしていく為の選択だ。
彼の見えない目は、きっと誰よりもはっきりと表情を捉え空気を拾い組み「ストーリー」を組み立てた。
息子の覚悟を見抜いた母ならではの視線がおもわず一瞬止まり、証言台からわずかにそれていく。
これまでのただの母と子の立場はこの時終わったのだと思う。
あの証言で信頼を得た彼は、両親の人生の歯車のずれに自分が関わっていることをずっと感じながら過ごしてきたはず。
だから、判決後にメディアに対し「息子に電話して家へ帰りたい」と語った母の言葉を聞いた顔は特別に嬉しそうだった。
そしてそれがとても純粋だったことが余計に哀しい。
なぜなら、母が弁護士に判決後の気分を打ち明けたように、ダニエルにもあった期待と現実。
帰りを待ちながらダニエルがどんな気持ちでいたか。
その後母子が交わした言葉と抱き合う姿があるが、そこには疑いが晴れた喜びや幸せはやはりみえない。
過ぎた事実につけた折り合いを分かち合い共に生きる決心だけが通じ母を慰めるように成長したダニエルがいた。
ひと段落ついた深夜、ひとり横になる母の隣りにすたすたと来た犬。
犬は人が隠しても持て余す心を察してそっと寄り添う。
薄明かりの闇の先を真っ直ぐに見つめるその鋭い目は、ダニエルが弾くピアノの音色がその時々の心情をうたう唯一の真実なのだということも知っている気がした。
美しいレビュー、ラストシーンのひんやり感とぬくもり(←ワンコの体の)両方が思い起こされました。
重い余韻と同時に、澄みわたった(雪原のような?)クールさも感じるラストでした。
humさんのレビュー、素晴らしい~!息子の思いを私はどのように捉えたら考えたらいいのかわからず諦めてました。見えないからこそ両親の関係は感づいてたでしょうね。ありがとうございます、レビュー!