「隔壁」落下の解剖学 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
隔壁
んー、いや、まぁ…奥深い脚本ではあったかな。
1番最初に出てきた感想は「CGが無さげな作品を久しぶりに見たけど、絵が凄い生々しくみえる」だった。
正直スッキリはしない。
犯人探しが主題ではないようで…一応の判決は出るものの真実は闇の中だ。
父親が転落死する。
その第一発見者が弱視の息子で、その家には母親しかいない。で、他殺か自殺かってのが裁判の論点になってく話なのだけど…どうにも面倒くさい。
どんな家庭にだって色々あるわけで…家族だからこそ共有しなきゃいけない問題はあって、それは家族だからこそ、夫婦だからこそ共有せねばならない問題でもあって、それが悉く暴かれていく。
弁護士と検察も白か黒しかなく、どちらも自分の正義に準じてはいるものの、屁理屈だったりこじ付けだったり、憶測や推測の嵐で、真実の押し売りはするものの、真実の解明には程遠いような空間だ。
実際の裁判もああいうものなのだろうか?
裁判長と陪審員に「あなたが正しい」とどんな手を使っても言わせたら勝ちみたいな。
…まぁ、そんなもんかもしれない。
夫婦間のアレコレや個人的なアレコレや、おおよそ公にしたくない事柄が、否応なしに暴露されていく。本人は勿論いたたまれなくもあるんだろうけど、1番災難なのは子供だ。
聞きたくも知りたくもないアレコレが、他人の口から無遠慮に吐き出され、その杭に貫かれていく。
救いようがない程に残酷な状況だ。
この裁判の縮図は、夫婦間にも適用されていて、録音データが再現されたシーンは見るに堪えない。
どこまで行っても平行線だ。
相手の意見なんて聞きやしない。
自分の主張と要望と、それが受理されない関係から悪態しか出て来ない。
皮肉も嫌味もお構いなしなのである。
と、外野から見てるとよく分かる。
まぁ、そのスパイラルに陥らない夫婦は皆無なんじゃないかと思われる。
改めて自分たちの愚かさをまざまざと見せつけられてるようで、「こりゃ犬も食わんわ」と思う。
それにつけても俳優陣は皆様、素晴らしく…この夫婦喧嘩のくだりなどは台本の存在を疑う程の熱演だ。
旦那はまぁ病んでもいて、その閉塞感とかうんざりする程だし、奥さんは自分に負い目があるから寄り添うように話もするのだけれど、この環状線の如く繰り返される不毛なやり取りに心底辟易してたりする。
上手かったわー。
とまぁ、法廷同様「私が正しい」と「あなたが間違ってる」が銃弾爆撃かのように降り注ぐ。
子供に。
もはや、サスペンスではなく人間ドラマである。しかもだいぶ痛烈な。ダニエルを見るたびに良心の呵責に苛まれ…いや、過去を猛烈に反省しようと思う。
で、まぁ、サスペンスを見にきたつもりだったので、こっからは考察だ。
自殺なのか他殺なのか。
正直分からないのだけれど、引っかかってる箇所はいくつかある。
ダニエルの事情聴取の和訳に「開いた窓の下」って発言がある。窓が開いてるかどうかの認識が出来るようで…もしそこで何か動くものを見たのなら、おのずと母親一択になる。
彼は見間違いだろうと思いたいだろうし、その時の視界に確信が持てないかもしれない。
判決の前に車内で「ごめんね」と泣きじゃくる母親とか、その夜に母親を抱き締めるカットとか。
「帰ってくるのが怖かった」と言われた時の母親の距離感とか…絶妙に引っかかる。
まぁ、他殺に一票かなぁ。
表題の「隔壁」は対人関係において、お互いを拒絶したり反発したりして、自分を守る為の壁が見えたからかなぁ。どうやら一回出来ちゃうと崩すのは相当難しく、ベルリンの壁同様、崩れる時は歴史的快挙とも表現される程のものであるらしい。
途中に挿入されるワイドショーのような番組でコメンテーターのコメントに絶句する。
「そっちの方が面白い」…随分と極端な台詞だなぁとは思うけど、昨今の報道における良識の無さは世界共通なのかと思え、輪をかけてうんざりした。
コメントありがとうございます。
賞を取ったこの作品ですが、いったい何が描かれているのでしょう?
これが見終えた後感じたことでした。
どこかすっきりしない。
表面上描かれた事実の裏には何かあると確信できたのが、判決後の妙に長ったらしいシーンです。
息子は当然母の無罪を信じています。
判決は健気な息子が注視され、客観的事実を見落としています。
私のレビューは単に私の妄想ですが、あのような真実も実際にはあるんだろうと思いました。
最初に流れた大音量の音楽は、サミエルの心理を大きく表現していますが、同時にサンドラの殺意を決定づけたのだと思います。
サンドラは2階のベランダからインタビューに来た学生を見送りますが、あのシーンは学生に2階にいたことを証言させるためでしょう。
すぐさま文句を言いに行ったほど頭にきたことを隠すためです。
あの夫婦はフランス人のあるあるなのかもしれません。
外人は思ったことを口に出すかのような印象がありますが、実際溜め込んでしまっている部分もかなりあるのでしょう。
フランス映画の中では比較的面白かったと思います。
コメントありがとうございます。
夫婦喧嘩のシーンは、迫真すぎて耳を覆いたくなりました。
ラストシーンでの、ワンちゃんの動きが不気味ですよね。疑念が深まります。