劇場公開日 2024年2月23日

「どんでん返しや複線のてんこ盛りに頼ることなく物語に引き込む、上質な語り口の作品」落下の解剖学 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5どんでん返しや複線のてんこ盛りに頼ることなく物語に引き込む、上質な語り口の作品

2024年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ジュスティーヌ・トリエ監督、サンドラ・フューラー主演の本作は、作中英語とフランス語が行き交う状況が示すように、フランスを舞台としたフランス映画です。だからこそなのか、トリエ監督の持ち味なのか、謎と衝撃的な展開がてんこ盛りになりがちなサスペンス映画とはまた一味違った展開、余韻が楽しめます。裏返せば、ジェットコースターのようなドキドキ、ハラハラな展開を期待すると、ちょっとあれっ、てなるかも。

物語の基本的な筋は、山荘から転落死したサミュエル(サミュエル・セイス)の死因が事故なのか他殺なのか、そしてその妻サンドラは無実なのか、を法廷闘争を通じて追及していく、というものです。この基本線が明確であるため、夫の死因に無罪を主張する妻の物語、として観通すことは当然可能だし、それでも十分面白いんですが、この件の背後には、仕事上の二人のいさかい、息子ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)の視覚障害の問題、サンドラの個人的な問題、果ては彼らの国籍の問題(サンドラはドイツ系、サミュエルはフランス系)などが浮かび上がってきます。

このように主筋を明確にして、一見わかりやすい物語に見せつつ、実際には様々な要素をそれとなく忍ばせているため、一度観通しても、再度見返したくなる魅力があります。派手さはなくとも間違いなく良質な作品なので、今回のアカデミー賞でどれだけ内容が評価を受けるのか、今からとても楽しみな作品です!

yui