「夫婦の解剖学」落下の解剖学 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦の解剖学
カンヌ パルムドールという看板に加え、“雪山”というキーワードに惹きつけられて観賞。
【物語】
舞台はフランスの山間部(多分アルプス山麓)。
ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、夫と11歳の息子(ミロ・マシャド・グラネール)と人里離れた山間部暮らしていた。ある日息子が犬と散歩から帰って来ると、家の前で父親が血を流して倒れていた。息子の叫び声を聞いたサンドラが駆け付けるが、夫は命を落す。
屋根裏部屋から落下したことは明らかだったが、事故か、自殺か、殺人か。目撃者はおらず、物証も限られており、真相は謎に包まれる。警察は捜査の結果、殺人の容疑でサンドラを殺人容疑で逮捕。真相究明は法廷の場に委ねられる。
サンドラは旧知の弁護士を雇い、無実を主張するが、・・・
【感想】
冒頭、サンドラと取材に来た女学生の会話シーン。
バカでかい音量の音楽と噛み合わない会話にイラっとする。その状況も後の法廷で論点となる。
そして取材の女学生が帰ってほどなく、夫の死亡。序盤から不穏な立ち上がり。
一方で何度も映される、サンドラの家の周囲から見渡せる雪の山々がとても美しい。最寄りの都市はグルノーブルということのようなので、アルプスに違いない。
そんな癒しもあり、前半は不穏ではありながら、さほどピリピリとした空気は感じない。
が、法廷シーンに入り、中盤から終盤に向けては、グサグサと胸をえぐられるような思いだった。
本作、既婚者と未婚者では感じ方がだいぶ違うのではなかろうか。
俺は結婚して今年で35年。なんとか、結婚生活は継続しているけれど、その間他人は話したくないようなことも多々有った。 激しい喧嘩も一度や二度では無いし、相手への不満も言い出したらキリが無い。 程度の差はあれど、大半の夫婦は似たようなことを乗り越えながら暮らしているのではないだろうか。感情を時には爆発させながらも怒りは胸にしまって、喜びもまた共にして人生を過ごして行くのが夫婦ではないかと思う。
夫婦の諍いは、親しい友人に愚痴をこぼすこともあろうが、誰しも世間に晒したくはない。しかし、本作の法廷では容赦なく他人の前で晒されてしまう。しかも、自分を責める材料として。
こんなのは自分には耐えられないという思いに駆られる。
人には見られたくない、最もプライベートな夫婦の関係を公衆の面前で奥深くまで解剖されていくような感覚だ。
また、「衆人に晒される」とは別に、夫婦喧嘩のシーンは身に覚えのあるようなセリフが飛び交い、ホントにグサリグサリと・・・
面白いと言うよりは、俺にとっては胸に刺さる作品だった。
ミステリーではあるが、結末も“種明かしでスッキリ!”と言う作品ではないのでご注意。
ミステリーの作りではあるが、どこまでもヒューマンドラマだ。