「人の本性なんて簡単には分からない」落下の解剖学 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
人の本性なんて簡単には分からない
不審な墜落死を巡るミステリーだが、誰が犯人かを推理する話ではなく、殺人の嫌疑をかけられた妻が、本当に夫を殺したのかどうかが物語の焦点となる。
「やったことを証明するよりも、やっていないことを証明する方が難しい」と言われるが、裁判における妻側の弁護は、当然、難航することになる。
決定的な証拠がないため、検察側も憶測でしか妻を追求できない中で、夫が死亡する前日に、彼が録音していた夫婦喧嘩の音声により、妻と夫の真の関係性が明らかになる過程は圧巻である。
夫婦喧嘩のやり取りだけを聞けば、自分が小説を書けないことを妻のせいにする夫の言い分よりも、それが言いがかりであることを論破する妻の主張の方が筋が通っているのだが、妻が夫に暴力を振るったことや腕のあざの原因を法廷で偽証したこと、あるいは、彼女が過去に女性と浮気をしていたことなどが明るみに出て、それまで間延びしていた感のあった法廷劇が、俄然、面白くなる。
そうした、妻にとって不利な状況を覆すのは、新たに追加された息子の証言なのだが、彼には、勘違いだったと証言を修正した過去があるし、「真実が分からないなら、自分で真実を選ぶしかない」みたいなアドバイスも受けていたので、彼が本当のことを言っているのかどうかは、最後まで分からない。
そもそも、彼の視覚に障害があるという設定が、ミステリーとしての面白さにほとんど活かされていないのは、物足りないとしか言いようがない。
ラストで、実は息子は真実を知っており、裁判での判決とは異なる結末が示されるのかもしれないと期待したのだが、結局、そうした「ドンデン返し」はなく、その分、深い余韻を味わうことになる。
どこか釈然としないモヤモヤは残るものの、変にウケを狙わないところには、作り手の誠実さが感じられて、決して落胆させられるエンディングではなかった。
終わってみれば、小説家として成功した妻を妬んだ夫の惨めさと、そんな夫の原案を基に小説を書いて成功してしまった妻の神経の図太さばかりが印象に残るのだが、そうした妻の本性が白日の下にさらされたのだから、ある意味、夫の復讐は達成されたのかもしれない。
裁判に勝っても素直に喜べない妻の姿を見ると、そう思えるのである。
私も、息子の証言と父親の口元の動きがシンクロしている映像が気になりました。
息子には、父親は見えていないはずなので、これが回想でないことは確かだと思います。
「真相」は、客観ではなく、主観によって作り出されるものということなのでしょうか?
最後のダニエルの証言に対し、父親のリップシンクが完璧だったのは演出だったのか。
あるいは、回想ではなく空想だったからなのかもしれませんね。
最後に犬が寄り添ってくれたことも手伝って自分は無罪派ですが、真相は藪の中…