「邦題も秀逸」落下の解剖学 こまめぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題も秀逸
落下の解剖学ーは起きた事から浮かび上がる人間関係や内面、そして踏み外したら落ちて上がれない人生も表している秀逸な邦題と思います。
ミステリー仕立てではあるものの、裁判で結局有罪か無罪かを判明させるものではありません。
セリフに「真実は重要じゃない」「はっきりさせるなら心がどっちを選ぶか」とありましたが、そこに集約されています。
客観的事実はあれど真実は各個々人ごとに存在する。自身がどの説を信じたいか、なのだと、生きるとはつまり、そういう事なのだと言ってるように思えます。
明かされない謎はいくつかあり、果たしてテープというのは単に間違えたのか夫が妻の細工なのか。当日の口論の内容とはなんなのか。などありますが、夫のベッドで寝る事から私は愛はあるのだと思うことにしました。
録音の口論は、例えれば不登校の息子がいる、仕事を辞めて専業主婦になった妻と夫の会話の如きです。そこまではよくあることと思います。しかしメンタルなのか薬のせいなのか夫はおそらく不能であり、にもかかわらず妻は婚外恋愛を繰り返す。そして明らかな才能の差。かろうじて妻を支えるために家庭に入ってやってるのに!という己への言い訳もこともなく論破されてしまいます。才能のある者からしたら「じゃあ書けば?」でかけない気持ちはわからない。そして小説ともなれば小説=アイデンティティにも近いものがあるでしょう。アイデンティティに対して理解不能だし伴侶としても無能と言われたに等しい。傷つきやすい夫は死んじゃうかもなあと思いました。とはいえそれも観たわたしの憶測にすぎません。
勝手に義父母と同居を決めてきたり、仕事を辞めてきたり、こういう夫はユーチューブに腐る程出て来ます。今作の夫は全て妻のせいにしていたので、可哀想ですが擁護は出来ません。妻への疑惑は拭い去れませんが、どのタイミングで凶器を使った争いになったのかは説明のつかない所ですね。