劇場公開日 2024年2月23日

「「神の視点」が入らない。まさに解剖学的法廷劇」落下の解剖学 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「神の視点」が入らない。まさに解剖学的法廷劇

2024年2月23日
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鑑賞方法:映画館

「解剖学」から連想するのは検屍解剖。傷の場所、大きさ、深さなどから、いつどのような凶器が使われたか明らかにする。でも、誰が、なぜ、といったことまでは当然ながら解剖所見だけでは踏み込めない。つまり「解剖学」というタイトルをつけた意味は、客観的事実だけ映像化して観客と共有します、そうじゃない部分は映像化しません、中の人たちと同様に推理してください、とメリハリをつける宣言だったのだろうなと思っている。
まず、雪の上の死体。この映画の代表的イメージである。解剖所見などから建物から落ちたことは明らかなので落下死体の映像として出てくる。だけど落下自体は誰も見ていないので落ちるところは映像として出てこない。屋根裏部屋から落ちたのか、3階のベランダから落ちたのかさえ最後まで明確ではない。
そして圧巻が、法廷に証拠として提出される夫婦喧嘩の録音である。録音にのっとりサンドラと夫の喧嘩が映画のシーンとしても再現される。
でも殴る音、ものを投げつける音が出てきた時点で映画のシーンも止まる。どちらがどちらを殴ったのか、誰が何を投げたのかが録音では特定できないからである。
つまり、我々は、法廷の人々と全く同じ情報に基づきこの事件を観ている。
いわゆる「神の視点」で観客だけにもたらされる伏線的情報はない。
そういう意味では枠組みとしては優れた法廷ドラマだったと思う。映画の最後で結審する。そしておそらくは判事や陪審員と同じ判断を、観客も感想として抱くだろう。それを覆すようなどんでん返し的なストーリーも用意されていない。それはそれでよかったと思う。
ただ登場人物の造形については、やや甘ったるい。サンドラと夫の関係やそれぞれの心境は類型的だし、弁護士についても彫り込みが浅い。ダニエルもいい子過ぎるし。
優れた法廷劇だということだけで、カンヌのパルムドールに値するとはちょっと思えないのだけどね。まあアカデミーはじめ賞を取るか取らないかなんてどっちでもいいのかもしれないけど。

あんちゃん
2024年3月14日

神の視点がない!そこに魅力を感じたんだ!言語化してくださってありがとうございます!

talisman