「落ちて踏みつけられてるというよりは、枯れても枝にしがみついている感じがする」枯れ葉 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
落ちて踏みつけられてるというよりは、枯れても枝にしがみついている感じがする
2024.1.3 字幕 京都シネマ
2023年のフィンランド&ドイツ合作の映画(81分、G)
理不尽な理由で解雇された女性とアル中の板金工の邂逅とすれ違いを描いた恋愛映画
監督&脚本はアキ・カウリスマキ
原題は『Kuollet Lehdet』で「枯れ葉」、英題は『Fallen Leaves』で「落ち葉」という意味
物語の舞台は、フィンランドのヘルシンキ
スーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)は、廃棄食品をホームレスにあげたり、自身で持ち帰っていることに目をつけられていた
警備員から店長に報告が上がり解雇となったアンサだったが、その方針に意を唱える友人のリーサ(ヌップ・コイブ)も一緒にやめることになった
一方その頃、板金工場で働くホラッパ(ユッシ・バタネン)は、アル中に悩まされ、仕事中にも隠し持っている酒を浴びていた
ホラッパは同僚でカラオケ好きのフオタリ(ヤンネ・フーティアイネン)に強引に誘われたカラオケパブにて、アンサと出会う
その時は会話すら交わさなかった二人だったが、偶然の再会を機に、映画館に行ったりするようになる
だが、アンサから渡された電話番号のメモを失くし、それによって関係は中断してしまった
ホラッパは彼女と行った映画館の前で出待ちをするようになり、アンサは夥しい数の吸い殻を見て、彼がここで待っていることを知る
そして、ようやく再会を果たした二人は、今度はアンサの家で食事をしようと約束を取り付けることになった
映画は、パッと見では時代を感じさせるものの、劇中で流れるラジオの内容は「まさに今」という感じで、ウクライナ戦争の余波を受けていることがわかる
二人の年齢ははっきりしないが、印象的には30歳前後で、身を固めてもおかしくない年のように思える
ホラッパはフオタリに「昨日、結婚するところだった」というように、彼の中にはその後が頭の中に入っている
だが、アンサは「アル中とは結婚できない」ときっぱりと言い放ってしまう
物語の動きはさほどなく、二人がいかにしてすれ違うかをコミカルに描いていく
だが、後半のトラム(路面電車)に轢かれるあたりから急展開を迎え、ホラッパは生死の境目を彷徨い始める
フオタリを見つけてホラッパに辿り着くアンサだったが、彼の枕元で何をするのかと思えば、クロスワードパズルを解き始めたりする
そうして奇跡は起こり、という内容になっていた
映画は、すれ違いの妙を描き、ほんわかとした雰囲気の背景は大ごとになっている感じで、戦争で景気が悪いのか、元々悪いのかはなんとも言えない感じになっていた
現代劇だが古さを感じる内容になっていて、ラジオの音声を変えれば1980年代にも見えてくるから不思議である
原題のタイトルは「枯れ葉」だが、英題では「落ち葉」になっていて、このニュアンスの違いは結構大きいと思う
普通の人生から「落ちてしまった」のか、普通の人生に「枯れてもしがみついているのか」という違いがあり、本編を見た感じでは「しがみついている」ように思える
なので、印象的には「枯れ葉」のイメージがあるのだが、「枯れ葉」を英語にすると「Dead Leaves」「Dry Leaves」になってしまうので、これまたイメージとは異なってしまう
個人的なイメージでは、なんとか仕事に就こうとしているし、アル中を直そうとしているので、「枯れているけどまだ木にしがみついている葉」という印象がある
枯れた葉はいずれ朽ちて落ちてしまうと思うが、その時まで懸命に生きていこうとしている
また、二人は「隣あっている落ちそうな枯れ葉」というイメージがあって、ともに落ちてしまっても、朽ち果てるまでは添い遂げていけるのではないだろうか
いずれにせよ、枯れている原因が本人たちよりも国の情勢や政治にあるようにも見えるので、それを暗に批判しているのかなと思う
フィンランドのNATO加盟が4月で、本作の本国公開は12月
なので、NATO加盟後に公開されているが、それだけでは変わらない国内情勢というものがあるのだろう
そんな中でも健気に生きる人々がいて、普通の生活から降りざるを得なくても何とか風雪を凌いで生きている
それを考えると、ラストで起きた奇跡は神様からのギフトなのだろうか
いつの時代にも抗えない時代の波というものがあるので、そんな中でも太陽を浴び続けようとする姿は微笑ましく思えるのではないだろうか