「どん底でも愛があれば幸せになれる」枯れ葉 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
どん底でも愛があれば幸せになれる
スーパーで働くアンサと建設現場で働くアル中のホラッパ。
決して豊かとはいえない生活を送っている二人は、ある夜カラオケバーで知り合いお互いに惹かれるものを感じる。
しかし二人は視線を交わすだけだ。
その後、アンサは廃棄予定の食料品を持ち帰ろうとしたところを見咎められ、理不尽にも解雇を言い渡される。
新しく始めた皿洗いの仕事も、店主が違法薬物の売買によって逮捕されてしまったことであっという間に失ってしまう。
そんな彼女をたまたま現場に居合わせたホラッパはカフェに誘う。
彼はコーヒーをご馳走した後に、彼女を映画館に連れて行く。
作品はジャームッシュの『デッドドントダイ』。
映画館から出てきた二人組の男は「ロベッソンの『田舎司祭の日記』を思わせる」「いや、ゴダールの『はなればなれに』だ」と謎の言葉を交わす。
アンサはホラッパに電話番号を書いたメモを渡す。
しかしホラッパはそのメモをすぐに失くしてしまう。
お互いに名前も仕事も住んでいる場所も知らない。
ホラッパは映画館でアンサを待ち続けるが、お互いにニアミスをするばかりで出会えない。
そうこうしているうちに、ホラッパは現場で怪我をした際にアルコール検査で引っかかってしまい解雇を言い渡される。
それでも映画館で粘り強く待ち続けたホラッパはアンサと感動的な再会を果たす。アンサはホラッパをディナーに招待するが、彼がアル中だと分かった途端に二人の関係は途絶えてしまう。
そしてアルコールを断つことの出来ないホラッパは新しく始めた仕事も失ってしまうのだった。
これもカウリスマキ監督の敗者三部作の延長線上に位置する作品なのだろうか。
美男美女は出ないし、エネルギッシュな若さもないし、相変わらず登場人物はポーカーフェイスばかり。
労働者に対して無慈悲な社会を描いた辛辣な作品でもあり、決して明るい内容ではないのだが、ユーモラスな会話のセンスもあり、観ていて思わず心がほぐされてしまう映画でもあった。
カウリスマキ監督のコメディセンスはより研ぎ澄まされたようにも感じる。
どうしてもアンサを忘れられないホラッパはついに断酒を決意する。
そんな簡単にアルコールは断てないだろうが、とにかく彼は電話でその決意をアンサに伝える。
ホラッパを忘れられないのはアンサも同じで、彼女はすぐに会いに来てと彼に返事をする。
しかし彼女の家に向かう途中で、ホラッパはトラムに轢かれて意識不明状態になってしまう。
病院のベッドで眠り続ける彼の隣で、一方的に喋り続けるアンサの姿が、シリアスな状況ながらとても滑稽だ。
やがてホラッパは目を覚ます。
ラストに公園を歩くアンサとホラッパ、そして彼女が殺処分寸前で救った愛犬のチャップリンの姿に心が暖まった。
ここで描かれるドラマは決して明るくはない。
しかしそれでも彼らはハッピーエンドを迎えることが出来た。
一方、劇中で何度もラジオが伝えるロシアとウクライナの戦争は未だに続いている。
どれだけ生活が苦しくても、人と人とが殺し合う戦争に比べればきっとずっと幸せなことなのだろう。
相変わらず劇中に流れる音楽のセンスも素晴らしかった。