「侵攻した軍は非人道的行為に走ってしまうものなのだろうか(追記)」関心領域 Mr.C.B.2さんの映画レビュー(感想・評価)
侵攻した軍は非人道的行為に走ってしまうものなのだろうか(追記)
8月6日(火)
夏風邪で3週間映画館に行けず、観賞予定が大幅に狂った。やっと第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した「関心領域」をTOHOシネマズシャンテで。
ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉が「The Zone of Interest(関心領域)」だそうだ。
「The Zone of Interest」タイトルが映し出されて1分か、それ以上そのままで、その後黒味の画面が続く。映写トラブルかと思う位だ。だんだんと音量が上がって来る。
家族ののどかな川辺でのピクニック風景から映画は始まる。収容所の司令官ヘスの家族である。
しかし、映画の中盤で同じ川へカヌーで子連れで出かけた時、川上から濁った水が流れて来るとヘスは流れの中で人骨を手にする。濁り水の量はどんどん増えて来る。
川上で焼却灰でも処理しただろう事が容易に類推出来る。ヘスは慌てて子供を家に連れ帰り風呂で子供達の体を使用人達にゴシゴシ洗わせる。
ヘスの妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は、庭に温室を作り、花壇にはバラやダリヤ数々の花が咲き乱れ、滑り台付きのプールもある。私が設計したのよ、と訪ねて来た母親にこれらを紹介する姿の誇らしい事。
母親も素晴らしい家だと思っていたが、絶える事無く立ち上る煙、焼却炉の燃焼音、夜空に煙突から吹き出す炎(当然匂いもするのだろう)、これらを観て、感じて、母親は翌朝置き手紙を残して去ってしまう。
暗視カメラで表現されるユダヤ人作業者にリンゴを差し入れる少女は実在したらしい。
「奴らは何をしていた?」「リンゴの奪い合いです」アウシュビッツでは腐った野菜や肉で作った水分が多いスープしか提供されていなかったそうだから奪い合いにもなるのだろう、少女の善意も死に繋がるのか。
ヘスが転属になる事を告げるとヘートヴィヒは怒りまくる。自分と子供達は、ここにどうしても残るから、あなたは単身で行って。使用人達にも当たりまくる。
ラスト、転属先からアウシュビッツに戻る事になったヘスは嘔吐する。その時、廊下の先に彼が見た物は・・。
現代のアウシュビッツの博物館の清掃風景と展示品が映し出される。焼却炉の中をはき掃除する清掃員、通路に掃除機を掛ける清掃員。ガラスの拭き掃除をする清掃員。ガラスの向こうには、おびただしい数の収容されていたユダヤ人がはいていたであろう靴、靴、靴。山積みの無数のボロ靴が展示されている。
暗闇の階段を降りて行くヘスの姿で映画は終わる。ヘスがダークサイドの闇に消えたように見えた。
本作の舞台となったアウシュビッツ第3強制収容所は1942年10月に開所され、1945年1月にソ連軍により解放された。
劇中でも「一度に500人、7時間で焼却出来ます」という台詞があった。アウシュビッツ収容所全部の被害者は100万人を超えるという。
観るのが遅くなったために「ONE LIFE」を先に見る事になった。ロンドンへ行く列車に乗れなかった子供達の中には、あの煙をはいてアウシュビッツに来る列車に乗せられた子供達もいたのだろう。
アウシュビッツの博物館には行った事が無いが、中国で南京大虐殺記念館(南京大虐殺の追悼施設)には行った事がある。日中戦争で1937年の南京侵攻時に日本軍に虐殺された中国人の遺骨が土中に層をなす程大量に発見されて(「関心領域」の靴の山のように)遺骨の山がこんなにも層をなす程あったのですよと展示されていた。侵攻した日本軍は2万人をレイプし、20万人の軍人と市民を殺害したと言われている。(一説には30万人)
当時南京にいたデンマーク人シンドバーグは、ユダヤ人を救ったシンドラーのように中国人を日本軍から救ったと掲出されていた(その後、施設は拡張されて私が行った頃の倍の広さになったようだ)。
ロシアも、ドイツも、日本も、侵攻した軍は非人道的行為に走ってしまうものなのだろうか。今日も世界のどこかで人間同士が血を流しあっているのだ。ため息が出てしまう。
今日は広島に原爆が投下された日だった。
追記:
カメラはFIXして動かない事が多いが、ヘスやヘートヴィヒが邸内を移動するとき等それと相反して、えらく細かくカットが割って有る。また、昼間の庭園や屋外のシーンは抜けが良く明るい画になっているが、夜間や夜の室内等は暗めの画作りになっている。雪が降った庭などは、春~夏の明るかった庭とは一変した庭の風景になっていた。監督が何を意図したかは良く判らない。
この映画に負けて「PERFECT DAYS」がアカデミー賞国際長編映画賞を取れなかったのは残念だ。
共感をいただきまして誠にありがとうございます。
この映画を鑑賞してもう一つ思ったのは、各国自国民達がどのようにそれらを受け止めていたかということです。おそらく情報統制が強化されていたものと思いますが、戦後ドイツの市民がそれらを『知らなかった』といっていたのをドキュメンタリー番組で観ました。
共感をありがとうございます。
嘔吐したヘスに、若干の人間性をみました。
侵攻した軍には当然ながら征服地の人々に対して優越思想があり、集団心理でユダヤ人や中国人韓国人を「劣等種」、とみなして権力を振るうことに快感を覚えたのでは。それを良しとする集団心理の元では、想像を絶する大規模な蛮行が普通の人により普通の感覚で行われるのだという恐ろしい実例を目の当たりにしたような気がします。福田村の事件も、近いものがあるような。
今晩は。
拙レビュー「風が吹くとき」のコメントを頂き、ありがとうございます。
”私は本作を37年前の初公開時に観ました。”流石の慧眼ですね。敬服です。それにしても、人間と言う生き物は、私も含めて過去に学ばない生き物だなと思います。では。
共感ありがとうございます。
おっしゃるように、非人道的になっていく人の恐ろしさ、正義や善意が暗転するように繋がる死、麻痺するように慣れていく社会の縮図… それをあの音に触れながら体験する作品でしたね。
衝撃的でした。
こんばんは♪共感ありがとうございます😊お身体に気をつけてください。
侵略侵攻していくことは、相手を同じ人間とわかりつつ同じ人間に思えなくなってしまうのでしょうか。
でないと、無惨なことはできないと平常な今からは考えられないのです。