「人間というグロテスクな生物」関心領域 第2電気室さんの映画レビュー(感想・評価)
人間というグロテスクな生物
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タイトルが控えめに添えられ、大胆な黒の余白が何かを暗示するかのようなそのポスターを見た時から、「これは見なくては」と心がザワザワとしていました。そして遅ればせながら観ました。
あらすじで紹介されている通り、アウシュヴィッツ強制収容所の隣地に自宅を構える所長と家族たちの日常が淡々と描かれていきます。
壁一枚隔てた先には地獄以外の何物でもない世界が広がる一方で、所長宅では子供たちが駆け、妻は庭木の手入れに汗を流し、家族の誕生日には笑顔でケーキを囲むのです。(所長は"荷物"の効率的な焼却方法について考えを巡らせる)
作中で、収容所内部や収容者たちの姿が描かれることはありません。たしかに家族の視点では中の様子なんて知る由も無いので、当たり前かもしれません。
ただし家族も当然に共有しているものとして、昼夜問わずに「音」が聞こえてきます。
何かにすがるような泣き声、断末魔のごとき叫び、タララっと乾いた音で響く銃声──。
壁の向こうからあらゆる音が聞こえてくるなかで、家族たちは平然と幸福な日々を重ねていきます。
これを「なんて冷酷な人たち!」とも言い切れません。
私たちの多くも、日々、テレビや新聞で世界中の悲惨な現場を、あるいは日本国内における悲劇的事象を見聞きしながらも安穏と暮らしているのですから。
……と考えれば、作品に登場する家族は、概念としては人間誰しもが入れ替え可能であるもの、とも言えるかもしれません。
視覚的なエグさは0なのに、人間のグロテスクさをこれでもかと炙り出す一作。ゾッとします。人間に。
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