「本当にあった怖い話」関心領域 ウォレスさんの映画レビュー(感想・評価)
本当にあった怖い話
ふざけたタイトル名ですが、こんなタイトルじゃないとあなたはこの駄文に関心を示すこともなかったでしょう?これもある意味で関心領域です。
ごめんなさいふざけました。でもタイトル名は本心です。今も昔も当然のように戦争があり、民族憎悪があり、人が人を殺す。誰もこれらに対して見て見ぬふりは出来ない。でも出来ないはずなのに無意識的にやってしまうのが私達人間です。
要はこの映画は単純なホロコースト映画ではないと言いたいんです。ユダヤ人がどうこうナチスがどうこうの話ではなく人間が自分自身で自覚できない穢れを戦争を通して描いている映画だ、と言いたい。
ですが戦争には勝者と敗者がいて、勝てば官軍負ければ賊軍という言葉がまさに当てはまる事になります。被害者・加害者に分かれます。義と悪にラベリングされる訳です。そんな状況で"人間誰しも持つ"無自覚な穢れの話が通用する訳がありません。「お前は被害者を悪く言うのか、加害者の肩を持つのか」って奴です。勝者敗者を曖昧にしようとしてもそれぞれに対するイメージは固定されます。我々日本人だってそう。3か月前に日本公開の伝記映画オッペンハイマーを観てすべてをすんなり受け入れた人はいないでしょう。バーベンハイマ―を知っていたらなおさら。日本って敗戦国なんだなと時空を超えて思わされましたよ。でも他方で日本が植民地支配した国々の人たちは今でも良くない印象を持ってることも少なくないでしょう。
ドイツも日本もアメリカも、そしてユダヤ人とイスラエルも誰かによって苦しんだし誰かを苦しませた。戦争が終わり勝者敗者の立ち位置が出来て、良いやつ悪いやつといった固定されたイメージは80年後の今でも変わらないまま。こんな環境で無自覚な穢れの話は出来ないですよ。すぐにアイツが悪いこっちは正しいなんて言い始めるでしょうから。
そして私はどうしてもこの映画を人間の悪としてではなくユダヤ人、ナチスといったラベリングで見てしまう。だから本当にあった怖い話であり、現在進行形で怖い話なんです。民族の問題ではなく人類の問題なんです。ナチスは良い事もしたとか、そんなことを書くつもりは全くないですよ。でもユダヤ人可哀そうナチスひどいみたいな典型的な視点で観るなら別の映画を観た方がいいんじゃないかとさえ思います