「第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所。 所長のルドルフ・ヘス(ク...」関心領域 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所。 所長のルドルフ・ヘス(ク...
第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所。
所長のルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)は、妻のヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)や子供たちと、収容所に隣接する豪華な邸宅で暮らしていた。
整備された庭、広い室内、使用人も多く穏やかな日々が続いていく。
ただし、塀の向こうでは銃声や叫び声が微かに聞こえ、煙突からは煙も上がり、近くの川へボートを浮かべて遊ぶと、突然、大量の灰が流れてきたりはするが、まぁ、それはそんなものだ・・・
といったところからはじまる物語で、おおよそのところ予告編などから想定できる内容。
ヘドウィグの元には街の方から女友だちなども遊びに来、その際には「ユダヤ人たちは宝石を塩壺の中に隠してたりするのよ。頭いいわぁ、はははは」みたいな会話も、何気なく繰り広げられる。
前半で、いちばん恐ろしかったのは、ここ。
で、夫のヘスは収容所運営の手腕を評価されて栄転、収容所を離れざるを得なくなる。
すると、妻ヘドウィグは、「やっと手に入れた理想の生活。行くのはあなた一人、単身赴任して頂戴。上司に掛け合って。なんなら総督にお願いして」という。
うわぁ、怖。
かくしてヘスは単身赴任することになるのだが・・・
個人的には、ここからあとの後半が残念だった。
前半、引いた画面で抑制の効いた演出。
これが後半、動き出す・・・ と期待したが、そうはならず。
単身赴任のヘス中心に描かれ、ヘドウィグと子どもたちの様子は描かれない。
ヘスたちが静かに「最終結論」へと導きながら、ヘドウィグたちは穏やかな(できればホームドラマのようなコミカルさも加えて)生活をしている。
それのクロスカット。
なんとなれば、ヘドウィグは夫ヘスが戻って来るのを待ちわびているのだ。
この、非人間的行為と隣り合わせながらも、それを察知することなく日常に埋没してしまう恐怖を描いてほしかった。
最終盤、「最終結論」を導き出した後にヘスは嘔吐するが、嘔吐シーンの間に、現在のアウシュビッツに様子が挟み込まれる。
ヘスの嘔吐は、劇中のヘスの人間性からの結論ではなく、現在の人々(つまり観客)の嘔吐を誘引するための演出だろうが、それはちょっとずるい演出のように思われる。
映画の締まりとしても収まりが悪く、ラストカットは戻って来たヘドウィグの満面笑みが相応しかったのではないかしらん。
モンスターが現れないモンスター映画。
そのモンスターをヘドウィグに代表させる、という意味で。
関心度の高い意欲作だが、あまり感心できませんでした。