劇場公開日 2024年5月24日

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「視覚的には天国、それ以外は地獄」関心領域 Tama walkerさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5視覚的には天国、それ以外は地獄

2024年6月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

壁のこちら側を視覚的に示し、壁のあちら側の音を伝えるだけで描き出す、圧倒的な天国と地獄。「子どものときから夢見ていたような」素敵な空間と、絶え間なく聞こえてくる何かが行われている音、叫びともうめきとも悲鳴ともつかない声、声、声。
映画でしかできない表現。

サンドラ・ヒュラー、素晴らしい。完璧な母・妻にしか見えない。途中で一度、メイドにつらく当たるところがあるが、あの程度は夫に腹を立てた妻なら普通のことで、何かを懸命に抑え込んで生きている、という感じはしない。あの「地獄の音」を絶え間なく聞きながら、どうやってそんなことができるのか。完全に精神のどこかが壊れているのか、想像もつかないほどの「強いメンタル」なのか。人間のかかえる果てしない闇が、この完璧(に見える)女性によって体現されている。

冒頭の水着姿で家族で遊んでいるシーンから、「ドイツ人らしさ」の標本のような身体に目を奪われる。長身で骨ばった体格、長い手足、白人の中でも特に白い「真っ白」としかいいようのない肌、金髪碧眼。日本人からみるとまさに何から何まで違う「異人種」である。
これが、ヒットラーが「アーリア人種」といって称揚した身体だ。もちろんそういう身体に何の罪もないし、「ドイツ人」すべてがそういう身体を持っているわけではないのは言うまでもないが、このきわめて特徴的な身体が、今も脈々と続く白人至上主義の根源にあることを考えずにはいられない。

Tama walker