「主人公同様吐き気を催す」関心領域 kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公同様吐き気を催す
とても不気味で、気分が悪くなる映画だ。
というか、これは映画なのだろうか。
個人的には映画というよりもビデオアートもしくはインスタレーションに近いと感じた。
全編不気味で気持ちが悪い。
死の工場、アウシュビッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)が主人公。
ヘス一家は収容所の壁を隔てた一角の邸宅で暮らしている。
そこは妻のヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)が作った花が咲き乱れる庭園が自慢。
子供達に飼い犬も幸せそうに暮らしている。
休日は周辺の田園にピクニックや魚釣りを楽しむ。
映画はその何気ない平和な日常を延々と描く。
赤ちゃんだけが終始泣き声をあげている。そう、赤ちゃんはまだこのおかしな日常に慣れていないのだ。
何もストーリー的な展開は無い。
ところがそこに事あるごとに不気味なカットや音が挿入される。
牧歌的な庭のショットには鉄条網が付いた高い壁とその後ろには収容所と煙突から常に出ている黒い煙。
日常的な会話の後ろには銃声や罵声、悲鳴のようなものが微かに聞こえている。
所長はかなり使い込まれた大量の紙幣を数えている。
所長は仕事帰りに靴を履いて家に入らない。召使がその靴を洗うと血のようなものが流されている。
そうしたカットが積み重ねられていく・・
家族はあくまでも収容所に無関心。
あれだけ人を焼く煙が近くで出ているのだから、匂いは相当だというのに。
映画の主題はその無関心さに他ならない。
ある日夫の転勤が告げられるが、妻は気に入った場所を離れたくないと、単身赴任を願う。
夫はしぶしぶ単身赴任を受け入れる。
これはそのまま現代の家族の日常と同様なことに気がつく。
言わずもがな監督は今現在の世界情勢、ウクライナやガザのニュースを見てこんな事があっていいのかと憤りながら、チャンネルを変えれば日常に戻ってしまう私たちに、平穏な日常と地続きで権力の暴走が今現在もあることを見せつける。
それは充分わかった。
しかし、気持ち悪いシーンを2時間近く見続けるのは正直辛い。
個人的に映画の本質とは違うのではないかという思いで星は3.5にした。