「多様な解釈が可能な”問題作”」クラブゼロ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
多様な解釈が可能な”問題作”
とにかく不思議な作品でした。
主人公のミス・ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)は、栄養学の教師。優秀ではあるものの、いわゆる”意識高い系”の非常に個性的な先生で、”小食”こそがあらゆる束縛から自由になる鍵だと説き、生徒たちもそれに感化されていく。彼女に影響を受けた生徒たちは、いずれも良いとこのお坊ちゃんお嬢ちゃんであり、傍から見れば何不自由なく人生を謳歌出来る羨ましいご身分でありながら、彼らの内心は全く満たされておらず、だからこそミス・ノヴァクの半ば新興宗教的な怪しげな説教に心が傾いていきました。やがて小食を通り越して食べないことこそ最上の手段であると言い始め、それを実践する集団である”クラブゼロ”に一部の生徒たちを引き込みました。
お話としては現実にはあり得ないファンタジーな要素が濃いのですが、現代世界の病巣をブラックユーモア的な感覚で抉り出しているようにも読み取れる点で中々面白い作品でした。いろいろな見方は出来ると思いますが、ミス・ノヴァクの主張は世界的な南北問題に対する抗議という意味で、正しい主張と考えられます。先進国では飽食で、食べ物を捨てているのに、後進国では貧困と飢餓が問題になっているのは厳然たる事実であり、”小食”は個人で出来る格差解消のムーブメントであると捉えることは出来るでしょう。ただそれを原理的に深化させていき、”絶食”こそが最上ということになるのは、社会から隔絶した暴挙に出ることになる各種過激派の辿った軌跡と軌を一にするものと言えるかと思います。
また、一方的な意見を盲信してしまう生徒たちの姿は、”オールドメディア”を批判しつつ、”ネットの真実”を盲信する一部ネットユーザーの姿にも重なりました。
以上、ミス・ノヴァクや生徒たちは、色々なもののメタファーになっているように捉えることが出来るところが、本作の魅力であったように思われました。
ただ、嘔吐物が丸写しになり、それを再度食べるシーンは、どんなホラーよりも身の毛もよだつシーンでした。あれは流石に引きましたけど、あのグロテスクな姿こそ、現代世界を最も象徴するシーンであり、監督が最も言いたかったことなのかなとも思ったところでした。
そんな訳で、色々と解釈をすることで楽しめた本作の評価は★3.4とします。