「斬新な解釈と俳優たちの名演技、そしてブラックな笑い」首 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
斬新な解釈と俳優たちの名演技、そしてブラックな笑い
北野武 監督による2023年製作(131分/R15+)の日本映画、配給:東宝、KADOKAWA、
劇場公開日:2023年11月23日
残念ながら、北野武監督作は殆ど見ていない。
出だしの映像、合戦後の景色らしく川を流れる首の無い死体、その首のあったところから蟹が姿を覗かせる、そしてタイトルのカッコ良い書体「首」の提示され、その文字の一部が鮮やかに切り落とされる、流石お見事!と思わされた。
歴史的事件の解釈が斬新でとても面白かった。CGも使っていると思われるが、戦闘シーンも凄く迫力がある映像となっていた。そう、長槍は威力ありそうで、疾走し倒れる馬の映像が美しかった。数多くあった首切り落としのCG映像も違和感が全く無く、リアルに見えた。また忍者の登場のさせ方もカッコ良かった。ただ、戦国武将同士のキスシーンには、どうしても気持ちの悪さを感じてしまった。
家族見捨て有岡城を単身脱出した荒木村重を、親戚である明智光秀が匿うという創作は、定説とは異なるがあり得るかなとは思った。ただ二人が恋仲で、信長が荒木に恋心があったという設定は流石に無理筋と思ったが、調べて見ると戦国時代に主君と小姓の衆道(男色)は、信長・蘭丸だけでなく、信玄や家康を含めて普通にあった様なので、完全には否定出来ないのかも。信長が謀反を起こした荒木に何故かとても優しく使者をたて翻意を促したことや、その後残された家族を皆殺しした史実の説明に、なり得るのかもと。
明智光秀の饗応役解任事件を、実は信長から家康毒殺を命じられていて、それに失敗したからの叱責との新解釈には、目を見晴らさせられた。長篠の戦いで武田家を滅ぼし、東方の守り役としての家康の価値が下がった局面であるし、成る程あり得る、面白い仮説だと思った。
そして、光秀の軍勢移動は毛利討伐のためでなく、信長の密命による家康抹殺目的であるとした。村重に焚き付けられ、秀吉にも味方になると騙されて、謀反を決意する明智光秀、まあ信長の死によって一番利益を得たのは秀吉だから、彼が黒幕というのは真実味有りと思った。
秀吉による「中国大返し」の映像も面白かった。まるで、マラソン時の水分補給/栄養補給の様に、街道沿いにサポート要員がセッティングされた映像が、今まで見たことがなく、斬新で面白かった。光秀謀反成功後の最速の軍移動のための、綿密な準備がなされていたということになる。
あと、秀吉により水責めされていた備中高松城城主を切腹へ導く毛利家参謀・安国寺恵瓊演ずる六平直政のコミカルな演技、城主切腹の長々とした儀式を遠方から見守る秀吉・北野武のさっさとやれというイライラした反応には、かなり笑わされた。
家康の伊賀越え、桐谷健太による強く凛々しい服部半蔵の護衛下でありながら、家康の影武者が次々に死んで、どんどんと影武者を交代していくブラック演出には笑ってしまった。大将然として目立ったらヤバイから、リアリティは十分に有るところである。家康は年増好みということで、綺麗どころを束ねてるやり手婆婆の柴田理恵が選ばれて家康の床に行くが、彼女が実は刺客で、家康の代わりに床にいた半蔵により取り押さえられるというのも、可笑しかった。
多くの男優たちの生き生きとした演技には、眼を見張らされた。信長の狂気性をリアルに体現した加瀬亮。自分の中では、ハチミツとクローバー(2006年) の真山巧役と3月のライオン(2017年) の 宗谷冬司 役と静的イメージが大で、こんな動的な役をも余裕を持って演じられることに、大いなる敬意を覚えた。凄い。
侍大将になるため戦に身を投じる元百姓を演じた中村獅童も、強く印象に残った。侍首を得た友人を殺して首を横取り、中国返しで歩兵として長距離を駆け抜け、泥にまみれて闘い、敗走の光秀の首を得たものの落武者狩りで命を落とす。成り上がろうとし頑張り大将首ゲットした瞬間に、農民に狩られる姿が主役的の扱いでもあった。自分的にも、硫黄島からの手紙(2006年) の伊藤海軍大尉役以来の大きなインパクトであった。
元甲賀忍者の芸人という曽呂利新左衛門・木村祐一は戦国ものとしてとてもユニークで、監督の分身の様にも感じた。ずっと良かったのだが、殺されてしまう時に発するセリフが素人くさくて、そこの演技・演出は今一つと感じた。
西島秀俊による明智光秀、遠藤憲一による荒木村重、小林薫の徳川家康、及び岸部一徳の千利休も意外性は少ないが、俳優の個性を上手く活かしていて、かなり印象に残った。浅野忠信・黒田官兵衛、大森南朋・羽柴秀長、及び北野武・豊臣秀吉も、3人漫才の様なコミカルな味が、とても心地よく魅力的であった。
多くの俳優たちからコレだけの魅力を引き出す北野監督、やはり凄い演出力ということなのだろうか。
監督北野武、原作北野武、脚本北野武、製作夏野剛、プロデューサー福島聡司、ラインプロデューサー宿崎恵造、撮影監督浜田毅、照明高屋齋、録音高野泰雄、美術瀬下幸治、装飾島村篤史、衣装デザイナー黒澤和子、特殊メイク江川悦子、特殊造形スーパーバイザー江川悦子、サウンドデザイナー柴崎憲治、VFXスーパーバイザー小坂一順、編集北野武 、太田義則、音楽岩代太郎、助監督足立公良、殺陣師二家本辰己、スクリプター吉田久美子、キャスティング椛澤節子、製作担当根津文紀 、村松大輔、能楽監修観世清和。
出演
北野武羽柴秀吉、西島秀俊明智光秀、加瀬亮織田信長、中村獅童難波茂助、木村祐一曽呂利新左衛門、遠藤憲一荒木村重、勝村政信斎藤利三、寺島進般若の佐兵衛、桐谷健太服部半蔵、浅野忠信黒田官兵衛、大森南朋羽柴秀長、六平直政安国寺恵瓊、大竹まこと間宮無聊、津田寛治為三、荒川良々清水宗治、寛一郎森蘭丸、副島淳弥助、小林薫徳川家康、岸部一徳千利休。
はらさん、コメントありがとうございます。
残念ながら、私は見ている時に劇団ひとりさんには、気づけませんでした。
あの「イカサマだ!」と叫んでいた百姓?が、劇団ひとりさんだとか。そう言われれば、そんな気もします。確かに,凄く目立ってはいましたね。
Kazu Ann さん、私の拙いレビューに共感と多分なコメントをいただき有難うございます。
Kazu Ann さんのレビューも、私の見落としていたところもチャンと掬い上げられていて素晴らしいと思います。
コメントありがとです。
キャラクターへの考察が史実と照らし合わせる形になってて、とても読みやすかったです。衆道=現代の恋愛観かどうかはわからないですが、既出のヒーロー像ではなく、実に人間くさい大胆な解釈だと思えました。